指切りげんまん
「どう?ロードくん。」
4人掛けのテーブルに向い合わせで座っている。
テーブルの上にはあたしはロイヤルミルクティ、ロードくんはカフェオレ。
あたしの手書きのデザイン画を手にしたロードくん。
「これがいいんじゃないかな?」
一枚選び出した。
「離れて見た時にはこれが見映えがいいと思うよ。迫力もあるし。」
「うふっ、実はあたしもそれがいいんじゃないかって思ってたの。よかった、ロードくんと気が合って。」
「この飛竜乗雲って文字カッコいいね。」
「そうでしょ?そこはカッコいいフォントの文字を大きくプリントして切り抜いてネガティブを作ればいよ。あたし家でやってくる。大きさはどうする?」
デザイン画は黒板の縦横比に合わせた縮尺で方眼紙に書いた。
あたしたちは方眼紙の目数を数えて見映えの良さそうな大きさを検討し、計算した。
その他にも、ロードくんの意見も取り入れ位置修正も加えた。
「じゃあ、明日のお昼休みから始められるね。これは先月のアートより時間が要るかもね。朝のうちに黒板はきれいに消しておこう。あたし明日はちょっとだけ早めに学校に行くね。」
「じゃあ、ぼくも。15分くらいでいいかな?」
「・・・・・ありがとう、ロードくん。あたしロードくんと掲示委員出来てほんとによかったな。これって絶対素敵な思い出になると思う。」
「・・・・こちらこそ。」
「ねぇ、約束しようよ!学年最後まで最高のアートを二人で作るって。出来たら来年も!」
「・・・・・うん。そうなったらいいね。そうなったら・・・・」
「なったらじゃなくて、そうするのよ!ロードくん?あたしと指切りして!」
あたしは小指を差し出した。
おずおずとロードくんも小指を出す。
ロードくんの手。あたしより大きいのね。
一見へなちょこに見えるけど、やっぱり男の子。
あたしより力強い手。
繋がれたあたしとロードくんの小指。
お互いの目を見つめ合いながら、あたしは誓いの呪いめいた言葉を歌う。
「指切りげんまん、あたしとロードくんはふたりで卒業するまで素敵な絵を描くって誓う!嘘ついたら針千本飲ーますっ!指切ったっ!」
ロードくんはあたしに言った。
「ヤシロさんのエナジーをもらえたみたい。ありがとう。ヤシロさんとなら・・・・・僕、出来そうな気がする。」
「出来るに決まってるよ!あたしたち新進気鋭、無敵の掲示委員ペアなのよ?ロードくん。」
「・・・・・うん、そうだね。」
ロードくんがあたしの顔を見て控え目な笑顔を見せてくれた。
・・・・今言っちゃおうかな。うふふ、ロードくん、驚いちゃうかもね。
「・・・・・あたしね、一年生の頃からロードくんの名前は知っていたのよ。どうしてかわかる?」
「・・・・・僕の名前・・・・」
ロードくんはあたしが投げ掛けた謎にとまどっているね。
それはそうかもね。あたしが一方的に知っていただけだもん。
あたしの趣味はきれいなイラスト集め。
お気にの漫画家の丹精込めて作られたイラスト集をお小遣いで買ったりネットで見つけた素敵なイラストのページを集めたり。
素敵な絵本も集めてる。
もちろんプリントでは原画の本当の素晴らしさは分からないけれど、それは贅沢というもの。
それは原画展に行った時の感動につながるわ。
でもね、あたしのコレクションでだって丹念に描かれたイラストから作者の想いは、こだわりは伝わってくるよ。
そんなあたしが創作文化部の部室の廊下側の壁に展示されてるイラストに引き寄せられたのは必然よ。
ここの部はイラストや小説、詩、漫画とかごちゃごちゃサブカル的なアートを自由に表現する部活らしいの。
月に一回内部だけで冊子出してるみたい。
ここはヲタの集まりってディスったりする人もいるけどあたしは嫌いじゃないよ。
でも、さすがに入部しちゃうのにはためらいがあるあたしだけどね。
あたしはそこの創作文化部の壁に展示された内のある3枚のイラストに釘付けになってしまったの。
それはコピックで色付けされた美しい原画。
一枚は美しい姫君の瞳。
桃色の蓮模様の扇で顔が下半分隠されている。流れる滑らかな線で描かれたそよぐ黒髪。
憂いを帯びた物言いたげな黒い瞳があたしを見つめている。
とても雅やか。うっとりしちゃう。
次の一枚は大鷲。
広げた雄大なる翼。突き刺すような鋭い眼光。
鋭利な大きな爪は何かの毛むくじゃらの獣の皮膚を切り裂いている。飛び散る血しぶき。
すごい迫力!ガチかっこいい。
そしてあたしが引き寄せられた3枚目の絵。
これは水中から水面を見上げた構図。
手前には水中花の梅花藻。5弁のはなびらの白い梅に似たかわいらしい花たちが清流に揺れている。
美しいいくつもの気泡がぶくぶくと上に向かって上って行く。
眩しい水面には2匹の魚のシルエット。
逆光でその姿は影でしか見えないけれど、輝いている細長い魚と照り返しを受けてる黒い魚が水面付近に漂っている。
幻想的で素敵・・・・夢の中みたい。
誰の作品かしら?
あたしはすぐさま確認したわ。
『賽ノ宮ロウド』
サイノミヤロウド。
3枚とも同じ人の作品・・・嘘でしょう?ううん、間違いない。ちゃんと絵の右下隅っこに同じサインが。
あたしを釘付けにしたイラストは3枚とも彼(彼女?)の作品だった。
あたしの脳にすぐさま焼き付いたその名前。
2年進級クラス替え日に再びあたしの前に現れたの。
ん?後ろかな。
あたしの席の後ろにいたのよ!
賽ノ宮ロウドくんが!
あたしがロードくんを初めて見たあの日。
勇気を出して挨拶したあの朝。
ロードくんはあたしのことは何にも知らなかったでしょう?
テーブルの向こう側。
あたしの顔にわざと焦点を合わせないで見ているようなロードくんの瞳。
あたしはそんな照れ屋のロードくんの顔を見ながらさっきの質問の答えを待っている。




