夢見る5月のヤシロ姫
ゴールデンウィーク明け。
あたしに5月病なんて関係ない。
だって、学校に行けばロードくんもリアもふうらちゃんもいるし他の子とのたわいないおしゃべりでの最新の情報交換も楽しい。
この長いお休みだって充分満喫した。
地元の中学の時の友だち二人にも久々に会えた。
ずっと会っていなくたって会った瞬間からもう元通りのお友だちに戻ってしまうの。
ふたりとも髪型も前とは違ってる。うふふ、前よりもっと可愛くなってるね。
楽しい近況報告。
この子たちも違うとこで頑張ってるんだなって、もう違う世界をお互い持っているんだって改めて認識しちゃってさ、ちょっと寂しくもあったけどね。
あと、
弟のイブキとテーマパークにも行った。
お天気も良くてすっごく楽しかった。二人で写真もたくさん撮った。
イブキはあたしに一番なついてるペットの犬みたいな子。
背丈はもうあたしちょっと抜かれてしまったけれど、いつだってあたしにじゃれてくるかわいい弟。お母さんに怒られた時だってイブキはいつだってあたしの味方してかばってくれる。
だからあたしはイブキのお願いはいつも聞いてあげるの。
テーマパーク付き合ってあげたのもそれよ。
そうそう、イブキはあたしのことお姉ちゃんとかじゃなくて"ヤシロ"って呼んでるし、平気で手もつなぐから周りからはカップルに見えるみたい。
柵にもたれた二人組男子があたしたちを見て『彼女いるやつはいいよなぁー。』なんてつぶやいた。
聞こえたあたしたちは顔を見合わせて笑ってしまったけれど。
あたしとイブキは結構顔が似てると思うわよ。
あたしは今、休み明けで久々に会ったリアとふうらちゃんにその時の写真を見せてる。
お弁当の包みを戻してあたしたち3人はデザートタイム。
あたしが持ってきた一口チョコクッキーを3人でつまみながら。
「ねぇ、あたしとイブキってすっごく似てない?」
「口許は似てるかもね。ヤシロの弟かっわいー!私の憎たらしい妹と取り替えて欲しいわ。」
「あはは、一緒にいるとカップルに間違われてるみたい。あたしはほんとはリアル彼氏いたこともないのにさー。悲しみ深ーい!」
「そうなのか?ヤシロは美人だし意外だな。」
「えー?ヤシロにはロードくんがいるじゃないの?」
ふたりともあたしのことずいぶん誤解してるのね。
「だから、違うって言ってるでしょ。ただの友だちだってば。」
「そう?」
「そうだよ!あー、どこにいるのかしら?あたしのまだ見ぬ王子様。憧れるわー。素敵なシチュエーション・・・・・誰もいない夕暮れの浜辺。潮風に心地良くなびく二人の髪。見つめ合う王子とあたし。どっきどっきのあたし。『愛してる、ヤシロ・・・』『あたしだって10倍返し愛してる・・・』きゅっと抱きしめられるあたし。そっと上を見るあたし。切なげな王子の表情。覚悟を決めるあたし。そしてついに・・・・浜辺でロマンティックなファーストキス・・・キャーいやー!どうしよう、あたし!」
興奮して机をバンバン叩いてから思わず自分で自分を抱き締めて萌えるリアルあたし。
「落ち着け、ヤシロ。今君はクラスの注目の的だ。」
ふうらちゃんの冷静な声。
ふと、気づけばみんなこっち見てる。
あっちこっちでクスクスされてる・・・・・これって超恥ずいでしょ!!
ロードくんまで耳赤くしてあたしを見てる。
ああー、なんて失態!
「あはは、いいじゃん。夢見るヤシロ姫。そのシチュエーション叶うといいね。でもね、現実はそう美しくはいかないよ?」
はっ?リアがあたしを上から目線で!
まさかもう経験者っ?
あたしはけっこうこれで落ち込んだ。
・・・・・5月病になるかも。
帰りのSHRが終わった。
放課後はロードくんと5月の黒板アートの打ち合わせ。
5月のテーマは武将。
あたし、休みの間に頑張ってデザイン画3バージョン描いてみたの。カッコいい鎧兜、ネットで調べて参考にして自分でデザインしたよ。
早くロードくんにじゃじゃーんって見せたいな。
うふふ、どんな顔するかな?
教室に二人で居残るとまた永井っちに怒られるから一緒に帰りながらその辺で話そうって朝決めていた。
でも、あいにく外は雨降ってきてる。
「雨だし駅前のドーナッツ屋さんで打ち合わせしようよ。」
あたしはロードくんに提案した。
「あ・・・・・うん。えっと・・・・」
あれ?・・・・・ロードくん、ちょっと引いてる?
そんな弱った顔しなくたって・・・・
あたしがお店に誘ったの、迷惑だったの?
それとも財布も電子マネーも持ってないとかだったりして。
「嫌ならいいよ。それとも明日の朝早めに来て相談する?」
「いっ、いや。行こう・・・・・ドーナッツ。」
ロードくんは慌てたように言ってサッと荷物をつかんだ。
なんだ、いいんじゃん。よかった。
「うん。あたしのデザインすごいんだよ!楽しみでしょ?じゃあお店で発表しまーす!さあ、レッツゴー、いっくぞー、ロード、ヤシロ!」
あたしは楽しみ深くてハイテンション。
この頃になるとあたしはもうお昼休みに恥をかいたこともすっかり忘れていたの。




