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まだ未完、だから夢中に迷妄中  作者: メイズ
第1章 トラップのゴシップでスリップ
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『日本人』の定義

 そして、永井先生は帰りのSHRの最後に付け加えた。


「牧野のばらさん、お話があります。放課後はちょっと残ってちょうだい。」


 牧野さんに一斉に注目が集まった。


 あたしからは牧野さんの斜め後ろからの横顔が見える。


 彼女はふと首を傾げて斜めに先生の方を見た。


「・・・・・はい?」


 ひとこと答えた。


 彼女の目線はすぐにパッと移動した。


 それは、振り向いて牧野さんを見てる業村(なりむら)くんに向いてる?


 業村くんは前に向き直った。



 永井先生、牧野さんに何の話があるんだろう?



 日直の号令で挨拶してSHRは終わった。



 みんなガヤガヤしながら荷物を自分のリュックやスクールバッグに詰め込み始めた。


 鷺坂(さぎさか)さんはSHRの前にはそういう雑事は終わらせているらしい。


「先生さようならー。みんなー、おっ先ー!」


 荷物をつかむと真っ先にささっと教室を出て行った。


 ・・・・・・・だよね、はぁー。


 あたしとロードくんの為に放課後残ってなんてとても言いづらいよ。言ってもたぶん業村くんに振るよ、きっと。


 何かいい打開策はないものかしら?



 あたしが考え事しながらもたもた荷物を入れてたら、なんだかんだとあっという間にクラスの半分以上はいなくなってる。


 リアもロードくんも部活に向かってもう行ってしまってる。


 教壇にて今日帰りに配った数種類のプリントの残りをとんとんとまとめて片付け、出席簿になにやら記入し終わった永井先生は顔を上げた。



「牧野さん、来なさい。」



 牧野さんはケータイ画面に何やら昨日と同じようにさっさか忙しく指をタッチさせていた。


 呼ばれたことに気付き顔を上げた。


 スマホを片手に握ったまま教壇に立つ先生の前に立った。


「はい、何ですか?永井先生。」



 教室にまだ残っていた7、8人の視線が二人に集まった。



 先生、牧野さんに何を言うのかな?


 彼女は目立つけれどクラスの子と積極的に関わることもなくって、だから教室内でトラブルなんて無い・・・・・・くもないね、昨日は業村くんとバチバチだったもん。



「牧野さんの髪、ずいぶん赤いわね?それはどうしてかしら?」


 えっ?その事なの?


 彼女の髪は天然だって噂聞いてたけど。


 誰一人として牧野さんがほんの1ミリでもプリン頭になったところなんて見たことないって聞いてる。



 永井先生は淡々と言っているけれど、その表情は威圧的高圧的。


「本当は染めているんでしょう?正直におっしゃい。」 


 まるでドラマに出てくる悪徳刑事(デカ)みたい。それっぽい人を犯人に仕立て上げ平気で冤罪作る・・・みたいな。あたし、怖いわ。



 牧野さんは自分の長い豊かなウェービーヘアをひと房つかんで先生の目の前にかざした。



「永井先生、私のこの赤い髪の色は生まれながらの色なんです。私の家族の遺伝なんです。私に注意する前にプリン頭の業村(なりむら)くんに注意したらいかがですか?」


 牧野さんは淡々と答えた。



「先生は女なんだから、同じ女子に厳しくするのは当たり前でしょ!それに、牧野さん、人のこととやかく言ってないでその頭、黒く染めて来なさい。」


 永井のヒステリックなキンキンした声が教室に響き渡った。


 教室内にはまだ、7人くらい生徒がいたけれど、皆シーンとしてしまった。



「どこに地毛の色だっていう証拠があるって言うの?普通の日本人がそんな髪色してるわけないでしょう?提出書類によればあなたのご両親は日本人だわよね?」



 牧野さんは横に首を横に振をった。


「はぁー・・・・・生まれ持った特徴にそのようなことを言われるなんて・・・・・」


 牧野さんの嘆かわしいつぶやきが響いた。



「先生、私の祖父、母と兄弟はは皆この髪色です。それに両親が黒髪黒い瞳の日本人だからって全ての子どもが黒髪黒い瞳って訳ではありませんし。それに・・・普通の日本人と言われる人の中にだって天然で虹彩にグレーやグリーンが混じってる人もいるの、知らないのですか?マイノリティ迫害はやめて下さい。現在では、アイデンティティーが海外由来の日本人だってたくさんいるのではないでしょうか。その場合はどうなるのですか?」


 牧野さんの嘲笑を微かに含ませた口調が私の耳にも届く。


 永井先生は牧野さんに反撃されて悔しそう。すごい目で睨んでる。



「・・・・・・・・」



 牧野さんは教壇前から無言できびすを返した。


 こちらを向いた牧野さんの顔が見える。


 無表情・・・・・?


 ううん、口元がわずかに嗤ってる?



 彼女は自分の机の上に置いてあった荷物を持つとそのまま振り向く事もなく教室から出て行った。



「全く!私の話をちゃんと聞いていたのかしら?あの子!・・・・あんたたち!早く教室内から出なさいっ!」



 残っていた生徒たちに向かって最後にひとこと八つ当たり。


 永井先生はひとりおかんむりになっていて、出席簿をガッとつかむと大股で教室から出て行った。




 唖然。


 もう、先生ってつけらんない。


 ひどい!


 今の永井のセリフ。


 意味不。


 業村くんは茶髪にしてたのを黒髪戻しで黒く戻したけれど、徐々に色が落ちてまた茶髪が現れたのは明らかなのに。

 どうして牧野さんにだけこんな注意したの?


 クラスには他にも数人明らかにヘアダイによる茶髪が毛先に残ってる子がいるのに。


 まだ、教室に残っていて事態を目撃した私たち数人は全員集まって早速今起こったことについて解釈を始めた。



「何で牧野さんが怒られるのかな?理不尽だよね、業村くんはあれでOKなのに。」


 あたしは嫌いな業村くんが永井に優遇されてんのがまじムカつくからそう言った。


「そうよ、永井ひっどーい!生徒によってあんなに態度違うなんて。」


「今のは許容できねーよな。何で牧野さんがターゲット何だよ?俺の心の彼女がよぉ。」


「あら、あんたも "隠れのばら推し" だったんだ?」


「いつもはツンツンしてるのにたまに見せる微笑みがグサッとくるんだよなー。俺だけじゃねーぜ、それ。」 


 

 永井先生vs牧野のばら・・・・・このこと、即座に噂がひろまりそうだね。




「・・・・・・・夏休み明け頃だろう。御愁傷様。」


 ふうらちゃんがちいさくつぶやいたのが聞こえた。



「何?それ。」



「・・・・今の時代、一般人とて(おおやけ)での言動には注意が更に必要だということを知らないのだろう。学校と言う特殊ルールで隔離された空間もSNSの普及によりワールドワイドで(あらわ)にされつつある。」


 ふうらちゃんの抑揚の無い、セリフの棒読みみたいなつぶやき。


「人権思想について先進的な西洋の国々からの影響により今、世界的に対人言動はよりセンシティブに受け取られるような風潮だ。そして放たれた言葉は相手の気分次第でほぼすべてに置いて "なんとかハラスメント" に置き換えることが可能だ。そしてその非難に対し賛同を唱える人は必ず出てくるのが常。特に海外からの批評は気にされるところだろうな。」


 ふうらちゃんはリュックを背負いながら淡々と話す。



「それに永井先生は転任だからよく知らなかったんだろう。牧野家のこと。」



『では、みなさん、ごきげんよう。』


 そう言い残してふうらちゃんはてこてこした足取りで教室を後にした。



 ふうらちゃんの言ってることはよくわかんないな。


 いつも淡々モードのふうらちゃん。


 もっとこう、"むっかー" っていう沸騰する感情は起きないのかしら?


 あたしみたいに。







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