#81
それから行きつけのファミリーレストランで食事を終えたミックスたちは、また宿題の続きをやりに図書館へと向かっていた。
前を歩くジャズとニコの後ろで、ミックスはニヤニヤとエレクトロフォンの画面を眺めている。
「よし、これでなんとか調理器具が買えるぞ」
ミックスはずっと購入しようとしていた調理器具があったのだが、いろいろあって何ヶ月も買えないでいた。
しかし、なんとか出費を抑えることに成功し、今月こそ手に入れられると一人ほくそ笑む。
そんな不気味に笑っている彼を見て、ジャズとニコは少し引き気味だ。
「そんなに必要なものなのかしらね。もう十分そろっていると思うけど」
ジャズがいうようにミックスの住む寮の部屋には、普通に料理をするぶんには何の問題ないくらいの調理器具がそろっている。
包丁、まな板、ボウルにザル。
さらに鍋、フライパン、やかん、フライ返し、ヘラ、ピーラー(皮むき器)、缶切り、計量カップと、高校生の一人暮らしには使う必要のなさそうなものまであるのだ。
ニコもジャズの言葉にコクコクと頷いていると、ミックスが彼女たちの後ろから声を張り上げてきた。
ジャズたちは全然わかっていない。
たとえば包丁一つとったっていろいろと種類がある。
魚をさばくときは出刃包丁で、刺身を切り分けるときは柳刃包丁と、ミックスは材料によって用途が違うことを力説し始めた。
ジャズとニコはそんな彼を見てウンザリした顔をしている。
ミックスは料理のことになると話が長いのだ。
「そりゃ三徳包丁は便利だけどさ。より美味しいものを作るには、同じ包丁で妥協してちゃダメなわけよ」
「うわ~メンドクサ……」
ジャズが呟くようにいうと、ニコも同意するようにメェーと鳴いた。
その後もミックスの調理器具への熱のこもった話は続いていたが、ジャズたちはほとんど相手をせずに図書館へ歩いていった。
そして、図書館までの道の途中に公園があり、ミックスたちは自動販売機で飲み物を購入しようと立ち寄ることに。
「だいたい鍋だってさ」
「いやもういいから……。あんたのその情熱をさ。少しは勉強のほうに回せないの?」
「俺としては同じくらい努力しているつもりなんだけど……」
「人には向き不向きがあるってホントね……」
ガクっと肩を落としたミックス。
たしかにこいつは真面目にやっていると思ったジャズは、励まそうにも何も言葉が出てこなかった。
彼女がいい加減に話題を変えようとしていると、公園の花壇の中で誰かが横になっているのが目に入る。
今日は風が気持ちいいので、どこかの誰かが昼寝でもしているのかと近づいてみると――。
「あれは……女の子?」
黒髪の幼女が眠っていることに気が付く。
ジャズはミックスとニコに言い、すぐに幼女を花壇から出して側にあったベンチへと寝かせた。
「この子、迷子かな?」
「それにしては服も髪もボロボロだけど」
幼女の身に付けていた服は、安っぽい布切れを羽織っているだけで、髪は伸ばしっぱなしで前髪で目まで隠れてしまっており、なんだか育児放棄された子のような風貌だった。
ベンチに寝かされた衝撃で気が付いたのか。
幼女はゆっくりと体を起こす。
「あッ目を覚ましたよ。ねえどうしてこんなところで寝てたの? お母さんは一緒じゃないの?」
ジャズは目を覚ました幼女にいろいろと訊ねたが、彼女は震えながらその身を縮めている。
だがそれでもジャズは質問を続け、幼女の名前、年齢、家の場所、通っている学校はあるかなどを訊いたが、怯えて何も答えてはくれない。
困りきったジャズに退くようにいったミックスは、穏やかな笑みを浮かべながら幼女の前に屈んだ。
なんでも彼が兄や姉に教えてもらった話によると、小さな子と会話をするときは、ちゃんと目線を合わせないとダメなんだそうだ。
「俺はね、ミックスっていうんだ。キミは? 名前いえるかな?」
幼女はミックスを見るともう震えが止まっていた。
どうやら彼の兄と姉の話は本当だったようだ。
だが、もう怯えている様子はなかったが、それでも困ったような顔をして答えられないでいる。
そのとき、ジャズが幼女の羽織っている布切れに、何か名札のようなものが付いていることに気が付いた。
「ねえミックス。これがこの子の名前なんじゃない?」
「そっかまだ名札を付けるような年齢なんだね」
二人が幼女の名札に目を向けていると、幼女はニコのほうをボーと眺めていた。
何か気になっているようだ。
そして、名札にはこう書かれてあった。
「この子の名前は……サービス?」




