#80
強い陽射しにもかかわらず、涼しげな風が街の中に吹いていた。
そんな街を歩く日傘をさす女性や、白衣姿の研究員たちも、吹く風を感じて皆気持ちよさそうにしている。
風が冷たくなってきたということは、夏もすでに終わりかけていることを意味する。
秋が近づく景色の中、ミックスはぐったりとした表情で歩いていた。
「はぁ~やっとお昼休憩だ……」
その男子高校生が手には学校指定の鞄があり、パンパンに膨れている。
「あんたが悪いんだよ。もう夏休みも終わるってのに、ほとんど手をつけていないんだから」
ミックスの隣には別の学校に通う女子高生――ジャズ·スクワイアがいた。
どうやらミックスが夏休みの宿題を終わらせておらず、彼女が手伝っていたようだ。
「うぅ、ジャズも一緒にやってくれれば早く終わるのに……」
「それじゃ意味がないでしょ。あんたの宿題はあんたが解いてこそ意味があるんだから。それともなに? せっかくわかんないとこ教えてあげているのに、あたしなんていらないと?」
「いえ、ひじょ~に助かってます……。ジャズさんがいないと終わりそうにありません……」
「わかればよろしい」
そんな二人の後をついて行く電気仕掛け仔羊ニコは、怒られているミックスを見て楽しそうに鳴いている。
ミックスたちは、こないだの事件で半壊した図書館が直ったことを聞き、宿題をやりにいっていた。
今はちょうどお昼時となったので、休憩がてら昼食を済ませようと外へ出ている。
そして、もちろん勉強を教わっているミックスは、立場的にジャズとニコの分もおごることになっていた。
「あッ、ここカフェなんてできてたんだ。ねえ、ここにしない?」
ジャズが声を弾ませていった。
彼女はストリング帝国から来ている留学生だ。
帝国にはカフェというか外食するような文化がない。
それが当たり前だった彼女だったが、このところ後輩のウェディングやクリーンといろいろな店へと行っているのもあって、すっかりオシャレなカフェが好きになっていた。
だがミックスは、カフェの前にあるメニュー表を見てからエレクトロフォンを出し、手持ちのお金――残高を確認する。
(なんだよこの店は!? コーヒー一杯で俺が作る料理三食分の値段もするじゃないかッ!)
ミックスは、心の中で叫びながらエレクトロフォンをポケットへとしまうと、顔を引きつらせてたまにはカフェ以外もいいんじゃないといった。
彼は、ジャズがウェディングやクリーン二人と散々カフェにいっていることを知っていた。
だからこういっておけば、けして店の料金が高いから嫌だという本音には気付かれないと考えたのだ。
「それもそうね」
「う、うん(よかった……)」
「うん? なんかニコがここが良いっていってるよ」
ニコが手を伸ばしている先には、ゴージャスな外観をした気品のあるレストランが建っていた。
誰がどう見ても高校生が入るような店ではない高級店だ。
どうやらニコは、その店のメニュー表にある旬野菜のコースが気になっているようだ。
ミックスはそんなはしゃいでいるニコをガッチリと掴み、ジャズに聞こえないように耳打ちする。
「ねえニコ。俺は別にロボットだからとか食えなくてもいいとは言わないけど……。いくらお前が雌だからって、こういう店のチョイスはどうかな~」
ニコはミックスの鬼気迫る顔を見て、涙ながらに高級店を諦めることを承諾した。
「どうしたの? 急にニコを抱きしめて?」
「い、いや~、ニコがやっぱりこういう店はやめようってさ。そうそうファミレスがいいって! いつもいくとこがやっぱ落ち着くみたいだよ。なあ、ニコ」
ジャズからは見えないように睨まれたニコは、震えながら頷くしかなかった。
そんなミックスとニコを不思議そうに見ていたジャズ。
だが彼女は、ニコがそういうならと言い、いつも学校帰りに寄るファミリーレストランへ行くことに決定した。
ミックスはホッと胸をなで下ろし、ニコを抱いたまま意気揚々と歩き始めた。
「さて、ではニコが行きたがっているファミレスへ行きましょうかッ!」
ジャズはなんだか元気がなくなってしまったニコと、急にハキハキとし出したミックスを見てまた不思議そうにしていたが、気にせずに彼の後について行く。
「いや~俺はどこでもよかったんだけどね~。ニコがそういうならしょうがないよね~」
「でもさ、いつものファミレスならそんなにカフェとメニュ―変わらなくない? 別にさっきの店でもいいんじゃ……」
「いやいやそこはニコの望みを叶えてあげなきゃッ! さあ、迷わずファミレスへ直行だ!」
「あッ! ちょっと待ちなさい⁉ もう、急に走るなッ!」
そして、結果はミックスの望み通りとなり、彼のおごる金額はなんとか抑えられたのだった。




