#50
しどろもどろになりながらも、なんとか自己紹介しようとするミックス。
だがブレイクは彼のいうことなど聞かずに、刃物のような鋭い視線を向けている。
「兄様ッ!」
そこへクリーンが割って入り、ブレイクはソファーから立ち上がって彼女のほうを向いた。
さすがにクリーンのことを睨んではいないが、その不機嫌そうな表情は変わらない。
「なんだクリーン? 彼氏でも紹介しようってのかよ? お前ってこういうナヨナヨした奴が好きなのか?」
「からかわないでください」
ブレイクは急に口を開いたかと思うと、クリーンを茶化すようなことを言い出した。
すると先ほどまで不機嫌そうだった顔が、ヘラヘラとまるで相手を小馬鹿にするような笑顔へと変わっている。
クリーンはそんな彼のことを反対に睨みつけていた。
一方で傍にいた小雪は、ソファーで寝ている真っ黒な犬に近寄ってその身体をこすりつけている。
(毛の色以外はそっくりだ。犬の双子ってやつなのかな? いや~それしてもかわいい)
ミックスはたわむれる二匹の犬を見て一人癒されていた。
なんだったらこの場に電気仕掛け仔羊ニコを連れてきて、エレクトロフォンで撮影でもしたいと思っている。
そんなミックスは完全に蚊帳の外にされ、ブレイクとクリーンのベルサウンド兄妹は会話を続ける。
「じゃあなんだ? こんなバカで弱そうなのをオレに紹介して、一体どうするつもりなんだよ?」
「この人は、ミックスさんは弱くなんてありませんッ! 頭は悪いかもしれませんが……」
「おい、質問の答えになってねぇぞ。俺はこんなのを連れてきてどうするつもりだと訊いたんだよ」
ブレイクの質問にクリーンは返事をしなかった。
ミックスの知っている彼女とは違い、とても強張った表情のまま兄を睨み返しているだけだ。
すでに時間は午後五時五十分くらい。
図書館内に、間もなく閉館時間になりますと機械による音声が知らせている。
それでも何も言わずにただ見つめ合っているブレイクとクリーン。
ミックスはその緊張感に耐えられなくなってきていた。
(なんかイメージと違って怖いお兄さんだなぁ……。うぅ、もう帰りたい……)
ミックスが聞いていた――。
静かなところが好き。
人が少ない場所が好き。
――という話から、おそらく読書家でクリーンのような落ち着いた人物だと思っていたのだが。
目の前にいる和服姿の男は、その顔も態度もチンピラにしか見えない。
「では、答えましょう……」
「なんだよ? 早く言え」
「ミックスさんはあなたを倒すためにここへ来ました」
クリーンが口を開くと、ブレイクは気が狂ったかのように笑いだした。
まるで顔の皮膚が焼け爛れたかのような歪んだ笑みを浮かべ、腹を抱えている。
しばらく笑っていたブレイクだったが、突然笑うのを止め、ミックスのほうを見た。
いきなり見つめられたミックスは、ビクッとその身を震わせる。
ブレイクはそんな彼を見て口角をあげていた。
「おい能無し。さっさと失せろ」
「いや~でも、一応俺……約束しちゃってるんだよねぇ」
「あん? そんなビビッてるくせになにが約束だ。いいから失せろ」
「でも……ねぇ……」
「今なら見逃してやるって言ってんだよッ!」
ブレイクは威嚇し続けたが、ミックスはけして彼の言う通りにはしなかった。
ビクビクしながらも、頼りないながらも、その場でブレイクに反抗している。
ブレイクはそんなミックスの態度に苛立ち、チッと舌打ちをすると彼との距離を詰めていった。
そしてミックスのことを、その鋭い眼光で睨みつける。
「言ってもわかんねぇんなら骨の一本や二本折ってやろうか? 苦痛っては人を覚醒させる感覚の一つだからな」
「イタイのはヤダなぁ~。できればこうやって話し合いでうまく収めたいとこなんだけど」
にじり寄るブレイクに、ミックスはなんとかコミュニケーションを取ろうと必死になっていた。
だが、今すぐにでも殴られそうだと内心でヒヤヒヤしている。
しかし、ブレイクも手を出すつもりはないのだろう。
もし彼が本当に殴るつもりでいるのなら、すでに手を出しているはずだ。
「ミックスさんは……マシーナリーウイルスの適合者です」
クリーンがブレイクにそういうと、彼の目の色が変わった。
先ほどの相手を見下すようだった目が大きく開き、睨むというよりは驚いているようだ。
「マジか? なら試してみるのもおもしれぇか」




