#25
着替え終わったミックスは、病院を抜け出して外へと向かう。
(ジャズは、俺とアリアの会話を聞いて知っているはずだ……)
誰にも見つからないように、外付けの非常階段を降りていくミックスは考えていた。
ジャズが正直にアミノへ話すはずがない。
彼女を巻き込まないように、友人に会いに行くと嘘を言ったのは、ミックスにはバレバレだった。
きっと今頃、叔父であるブロードや親友のヘルキャットとアリアを止めに、管制塔――アーティフィシャルタワーにいるはずだ。
「ともかく急がないとッ! 取り返しのつかないことになるッ!」
ミックスが一気に階段を駆け降りると、そこには彼がよく知っている人物がいた。
「あれ? ミックスせんぱい? ベットで寝てるって聞いてたのに、どうしてこんなところにいるんですか?」
バイオニクス共和国から最も優秀な人間と認定されているハザードクラスの少女――。
舞う宝石こと、ウェディングがそこにいた。
「ウェディングこそどうして病院の、しかも非常階段の前にいるんだッ!?」
驚いたミックスがウェディングへ訊ねると、彼女はニッコリと微笑み返す。
「せんぱいが病院に担ぎ込まれたと聞いたので、お見舞いにと思ったんですけど。もう面会時間が終わっちゃってて」
それからウェディングがいうに――。
非常階段から病院へ入れば、誰にも見つからずにミックスに会いに行けると思ったようだ。
「それでも扉は内側から閉まっているんだよ。それなのに、一体どうやって中へ入るつもりだったんだ?」
「あれ? せんぱい。忘れちゃったんですか? 私のこと」
ウェディングはそういうと、ミックスへ見せるように右手を前に出した。
そして、彼女はその拳を握ると手の甲から剣の形をした宝石――ダイヤモンドが表れる。
手から生えた宝石の剣。
まるで手甲剣のようなダイヤモンドが、非常階段の側にある小さな照明に当てられて輝いていた。
「そうだった。ウェディングは普通の女の子じゃなかったんだった」
「せんぱい酷い! 酷いですよッ! 私はちょっとくらい死にかけても傷が治っちゃうのと、全身の骨がダイヤモンドだってだけのどこにでもいる女の子なのに~!」
「うん。それ、十分普通じゃないよね。そこは自覚しとこう……」
ウェディングの持つ能力の名は、超復元。
実質的にどんな重傷を負おうが、どんなウイルスに感染しようがすべて正常な状態に治してしまう治癒能力である。
彼女はその能力があるがゆえに、バイオニクス共和国のとある研究所で行われた実験――。
増幅計画と呼ばれた人体実験の被験者であった。
その全身の骨格には分子レベルでダイヤモンドを結合され、自分の意思で全身のどこからでも武器として露出可能(皮膚を突き破ってダイヤモンドにするなど)。
だが、彼女の能力の本当に恐ろしいところは、たとえ心臓を潰されようが頭を吹き飛ばされようが、瞬時に蘇生できることに他ならない。
実験により身体能力も向上され、人間離れしたスピードと宝石を使って戦うその姿から、科学者たちは彼女に舞う宝石というコードネームを付けのだった。
「わざわざ来てもらって悪いんだけど、今ちょっと急いでるんだ!」
「あッ、せんぱい。どこへ行くんですか?」
「ごめんねウェディング! この埋め合わせは必ずするからッ!」
ミックスは、ウェディングにそう言うと再び駆け出していく。
「せんぱい酷いですよッ! せっかく来てあげたのにーッ!」
残された彼女は、頬を膨らませてミックスの背中に文句をぶつけるのだった。




