#99
――リーディンの話を聞いたジャズは、自分がその戦場にいたことを伝えた。
そして、永遠なる破滅が降伏していれば、誰も死なずにすんだと弱々しく言葉を続ける。
「それじゃあなたは武装してやって来た侵略者に何もせずに従うわけね。だったら今すぐあの化け物をこちらに渡しなさい」
「どうしてなのッ!? サービスがどうして化け物なのよッ!? あの子はただの子どもだよッ!」
ジャズは両手をあげたまま叫び返した。
そんな彼女を見たリーディンは眉間に皺を寄せる。
「降参したいって言ったくせに、ずいぶん反抗的じゃないの? もしこれがあのときのワタシたちの態度だったら、きっと撃ち殺されているでしょうね」
「あのときとは違うわッ! だって、サービスにはなんの罪はないもの」
「はッ!? 罪がない? それはあなたがあの化け物の正体を知らないからよ」
「正体なんか関係ないよッ! それよりも聞いてほしいことがあるのッ! あの、戦闘用ドローンに乗っていたパイロットは……」
ジャズが言い切る前に、突如監視員が現れた。
アミューズメント施設の警報器か、それとも誰かが連絡を入れたのだろう。
現れた監視員の隊員が、両手をあげているジャズではなく、トレンチコート姿のリーディンのほうを警備ドローンで包囲し始めた。
囲まれたリーディンは、トレンチコートから再びトランプカードを出してジャズを睨みつける。
ジャズは、騙しやがってとでもいいたそうな彼女の表情を見て、誤解を解こうと声をかけた。
だが、リーディンは――。
「ふん、あなた、大した役者っぷりじゃないの。まさか時間稼ぎのために昔話をさせるだなんてね」
「ちがうッ! あたしはあんたと話し合おうと思って……」
「うるさいッ! この状況でまだそんなことをいうのかッ!」
訊く耳を持たないリーディンに、ジャズはそれ以上かける言葉がなかったが。
ジャズには、どうしても彼女に伝えなければいけないことがあった。
「聞いてリーディンッ! あんたの仲間、ライティングは……」
「その名前を気安く呼ぶなぁぁぁッ!」
激昂したリーディンは、トランプカードを警備ドローンに投げつけ破壊すると、空いた包囲網から逃げ出して行く。
ジャズはそんなリーディンの背中に声をかけ続けたが、彼女は振り向くことなく咆哮した。
「あの化け物は必ず殺す! そして次はあなただからねッ! 覚えてなさいッ!」
「待ってリーディンッ! 彼はライティングはまだ帝国でッ!」
ジャズの声は届くことなく。
リーディンはアミューズメント施設から姿を消した。
それから監視員の隊員が声をかけいてきたが、ジャズは力なくその場で両膝をついた。
地面に俯くジャズへ隊員は声をかけ続けていたが、反応がない彼女を見てすぐに救護班を呼ぶよう連絡している。
ジャズは思う。
リーディンがああなってしまったのは自分たちのせいなのか。
彼女は世界のことを強烈に憎んでいる。
それはあのときに、ストリング帝国が永遠なる破滅を鎮圧したからなのかと。
「だったらどうすればよかったのよ……。あたしたちが止めなかったらもっと多くの人が死ぬじゃない……。今だって……彼女を止めなかったらサービスが……」
何をどうすればよかったのか。
彼女の頭の中ではその言葉だけが回り始め、ぐちゃぐちゃになってしまっていた。
リーディンはあの戦争の犠牲者だ。
そんな彼女と戦いたくない。
だが、抵抗しなければサービスが殺されてしまう。
どうすれば、どうすれば――。
回っていた言葉が変化し、彼女の脳内を埋め尽くす。
「ジャズ、大丈夫?」
聞き慣れた声がする。
今いるバイオニクス共和国に来てからずっと聞いてきた声だ。
ジャズは自分でも気が付いていなかったが、その声を聞き、バラバラに壊れそうだった心が落ち着いていった。
「ミックス……」
「ごめん、遅くなっちゃった」
「バカッ! バカバカバカッ! あんたはなんでいつもそうなのよッ!」
やり場のない気持ちをミックスへとぶつけるジャズ。
ミックスには、ジャズに何があったかはわからなかったが、何もいうことなく彼女の傍にいた。
いくら罵倒されようと文句一つ言わず、嫌な顔も見せず、ただ喚いている彼女のことを受け入れている。
「遅いのよッ! もう少しでサービスが危なかったんだからッ!」
ミックスの胸の中で喚くジャズの傍に、いつの間にか立っていたサービスとニコ。
ニコは喚くジャズを見て悲しそうに鳴いている。
するとサービスのほうは、そんなジャズの姿を見ていると突然泣き出してしまった。
「うわぁぁぁん! じゃずがじゃずがぁぁぁっ! うわぁぁぁん!」
横にいたニコは、そんな彼女を慰めようと、精一杯抱きしめてその頭を撫でるのであった。




