#98
その後、ライティングがNano Muff Personal Insight(ナノ マフ パーソナル インサイト)通称ナノマフPIのパイロットに選ばれ、彼は四肢――両手両足を義肢へと変える手術を受けることになった。
リーディンは手術前の彼の傍にいたが、声をかけることはできなかった。
「そんな顔しないでよリーディン。これで帝国からみんなを守れるんだ。最悪ボクが負けても、その間に逃げる時間くらいは稼げるはずさ」
そんな彼女に気を遣ったのか。
ライティングは笑顔を振りまいていた。
彼に対する罪悪感からか、リーディンはやはり何も言えずにいた。
それは、いくら顔が笑っていてもライティングの体は震えていたからだった。
ライティングは自分の身代わりになったのだ。
今からならまだ代わってあげられる。
だが、自分にはその勇気はない。
リーディンはただ泣くことしかできなかった。
泣きたいのは彼のほうだと理解していながらも、自分では溢れる涙を止められない。
「必ず生き残ろう」
ライティングは目の前で泣いているリーディンを抱きしめた。
そして、その抱擁と同じように穏やかな声で続ける。
「生き残って、また一緒に笑ったり泣いたりしよう」
「ラ、ライティング……。ワ、ワタシなんか……」
「ボクはリーディンが好きだ」
リーディンを抱きしめていた手に力が入る。
それは少し痛いくらいで、彼の震えを直接感じさせる。
「理不尽なことばかりで、良いことなんてなにもなかったけど……。ボクが君に会えたのは幸せなことだったよ」
リーディンは彼に強く抱かれたままさらに涙を流していた。
この涙はさっきのとは違う。
彼に――ライティングに愛されていたことが嬉しかったから流れている。
「こんなときにならないといえないなんて……我ながらズルいと思うけど……。今まで酷い人生を送ってきたボクにだって、君といたいって望みくらい……告白してもいいだろ」
「ああ……ライティング……。ワタシ……うれしい……うれしいよぉ……」
ライティングは必死に言葉を吐くリーディンに、自分が着ていたトレンチコートを羽織らせた。
これを預かっておいてほしい。
また会うときに返してもらうため、必ず生き残って君の元へ帰るために……。
その後、義肢手術を終えてナノマフPIに組み込まれたライティングを見送り、リーディンは幹部と非戦闘員ら共に脱出。
中には、ろくな武装もない状態でも、ライティングに付き添い戦場に残る少年少女たちもいた。
それはライティングの人柄ともいえるものだったが、彼は正直誰にも残ってほしくなかった。
「日が昇った。これが最後の通告だ」
ストリング帝国から最終勧告が出された。
返事がないことを確認した帝国は、一斉に軍を炭鉱へと向ける。
それから激しい戦いが始まった。
残っていた少年少女は無残にも殺され、ライティングはそれに負けないくらい数の兵をナノマフPIのビーム兵器で消し去ってく。
そこには若き日のジャズ、ジャガー·スクワイア双子の姉弟が、ナノマフPIの圧倒的な強さに驚愕する姿があった。
「彼らが降伏をしなかった理由は……あんなものがあったからなの……? 降伏していれば無駄に命を散らすこともなかったのに……」
「どうやらエレクトロハーモニー社の新型みたいだな。まったくあの会社は誰にでも商品を売るから質が悪いぜ」
ジャガーはそういうと、前線に出ていた兵に下がるように指示を出した。
そして、自分はインストガンを構えると前へと飛び出そうとする。
「何をするつもりよ!? 死にたいのあんたッ!?」
「このままいたずら犠牲を増やすよりも、イチかバチかオレ一人で突っ込んだほうが効率がいい。安心しろよ姉貴、策はある」
「なら、ここは姉であるあたしが行く! あんたはすっこんでなさい!」
「そうはいかねぇんだわ。なんてたってオレはノピア将軍の右腕だからなぁ。はぁ~たまには楽してぇ~」
「なによそれ!? それじゃあたしが左腕みたいじゃないのッ! 将軍の利き腕はあたしよッ!」
「おい……そこ重要じゃなくね?」
二人が言い争っていると、そこへこの軍を指揮するノピア·ラシックが現れた。
ノピアは二人に落ち着くようにいうと、ジャズの持っていた銃剣タイプのインストガンを奪う。
「少し借りるぞ。ブレードを置いて来てしまったからな」
「将軍! あのドローンの相手ならあたしがッ!」
「こんなところでお前たちを失うわけにはいかん。二人には今後の指揮を頼む」
ジャズがノピアを止めようと声を張り上げたが、ジャガーは素直にいうことを聞いて全軍に指示を出し始めていた。
それからノピアは、ジャズの声を無視して一人ナノマフPIの前に飛び出していく。
「うおぉぉぉッ! いかせるかぁぁぁッ! みんなを……リーディンを守るんだぁぁぁッ!」
ナノマフPIに乗るライティングは、叫びながらディストーションドライブ――高出力のビーム兵器を発射。
だが、そのビームはノピアの腕で簡単に弾かれてしまう。
そして、唖然とするライティング――ナノマフPIの前にノピアは立つ。
「何も言わなくてもわかるぞ。ここまで戦った理由は仲間を逃がすためだな。私はお前のような者を心から尊敬する」
ノピアはライティングに敬意を表すると、その右腕――白いメタリックな機械装甲の拳を構えた。




