兄のブルマが風に揺れ、入道雲は流れゆく。
はて、ブルマを知る世代が如何ほど居るのかのぅ?
今年も真っ青な空に兄のブルマがヒラヒラと揺れている。
ああ……夏が来た。
水と緑と土の匂い。いつもの夏が。
濃紺のブルマがまだ本気を出していない午前中の日差しを受けて……
「あ、干してくれたんだ」
縁側に座り、目に映る無常な光景に軽く悟りを開きかけた、その間際。ワンピースを着た兄が廊下に現れた。
「……洗濯機にブルマがさ……兄貴……」
洗濯物の一番上に……ぽふって。
「夏の間はお姉ちゃんと呼びなさい。スペア履かせるわよ?」
……俺の兄はインターネットに動画を配信している。いわゆる馬鹿だ。男の娘ジャンルに夏期限定で出没する妖怪、そういう事になっている。つまり馬鹿だ。
「せめて自分で洗ってくれよ。自分が洗濯当番の日にまとめて洗えよ……」
まだうだるような暑さがない午前中なのに俺は既にへとへとだ。元気良く鳴いてる蝉が憎らしい。ブルマ履かせんぞごらぁ。
「……アイドルは洗濯しないもん」
夏によく似合う白のワンピースの裾がフワリとひるがえる。
何故ターンした? 何故ボージング? そのぶりっこ……。
「ぶち殺すぞ変態」
ただいま絶賛反抗期だ。反抗期だけど家事は欠かせない。まぁ当然だな。でもブルマは違う。絶対に違う! 反抗期にブルマは駄目だ!
「いや~ん。可愛い弟が反抗期に入っちゃった~。可憐ちゃんどうしよう~」
「ぶち殺すぞ変態」
その手のカメラはなんだ変態野郎。
でも殴れない。
兄は化け物のように強いから。そして負けると……。
「小さい頃は一緒に可愛い服を着てたのに……可憐ちゃん……哀しい……ぐすん」
「よーし、男には負けると分かってても立ち向かわないといけない時がある」
それが今だ!
「いや~ん、可憐ちゃんこわ~い」
蝉の声と……太陽と水の匂い。今年の夏はやはりいつもと同じ夏だった。
……土の味も例年と同じで涙のしょっぱさも同じだった。
「は~い、可憐ちゃんで~す」
「…………」
「今日は可愛い友達を紹介しちゃうぞ~?」
「………………萌美」
「きゃー! かわいい~! このいじらしい萌美ちゃんは可憐ちゃんの実弟だぞ? 可憐ちゃんの二割増しの可愛さでもう……たまらんよね! しかも……このスカートの下は……ブルマだぁぁぁぁぁ! 野郎共! 崇めよぉぉぉぉぉぉぉ!」
蝉の声が鳴り響く夏の日。青い空にもこもこと成長を続ける入道雲。
いつもと同じ夏の音。
いつもと同じ夏の空。
今年も夏が始まった。
そして……ネットのサーバーは世界的にパンクした。
……滅んじまえ、こんな世界。
本編の可憐ちゃんは男の娘であり、『おねぇ』に非ず。カブキチョーの可憐ちゃんとは別人です。
……いや、脳内変換してもいいんですけどね?
ちなみにカブキチョーの可憐ちゃんには二つ名で『ギガンテス』という物があります。ギガギガー!