勇者の戦い
魔王の封印が解かれ、世界にモンスターが出現するようになった。
モンスターは人々を襲う。モンスターから人々を守るには、再び魔王を封印しなければならない。
その為に立ち上がった勇者は、魔王の元へ旅立つ。
だがその旅は決して順風満帆ではない。これまで何人もの勇者が挑み、消息を絶った。
第一に、数々のモンスターが、行く手を阻んでいるからだ。魔王とてそう易々と二度目の封印をされるつもりはない。自らに近づく者には、強力なモンスターを宛てて屠ろうとする。
けれど、モンスターが強いだけなら、まだよかっただろう。
『勇者であろうと倒せない“モンスター”』――――そう噂される存在の正体を知った、今となっては。
目の前に“それ”が立ち塞がっている。数は四。こちらは三人だが、完全に囲まれてしまっている。
自分たちが有利なのを悟ると、“それ”は口々に嗤った。
「勇者様〜お仲間少ないんですね〜?」
「そんなんで世界を救えるとか本気で思ってるんですか〜?」
完全におちょくっている。
「⋯⋯悪いが道を空けてくれないか」
事を荒立てたくないので、なるべく穏便に話しかけた。
本当のモンスターが相手なら、こんなことはしない。問答無用で斬り殺している。
だが、それができないのは。そうしないのは⋯⋯“それ”が、人間だったから。
それは、甲冑姿に長剣を帯びた、人々を守る兵士の格好をしていた。
「⋯⋯あなた達はこんなところでなにをしている?」
問いかける。嘲笑だけが返ってきた。
「何故こちらの邪魔をする? 我々は魔王封印を目指す旅の身、市井の人々を守るというなれば、志は同じではないのか?」
「そんな気全然ねぇよ!」
兵士のひとりが叫んだ。
「こっちはよう、雑魚モンスター倒して、人々に感謝されて、食い扶持稼いでるのさ」
「モンスターの戦利品を金に変えれば贅沢ができる!」
⋯⋯彼らはなにが言いたいのだろう?
底知れぬ寒さを感じた。彼らから発せられるのは、憎悪にも似た、ねちっこい悪意だ。とても人々を守る聖職者と思えぬ、ドス黒い感情だ。
「⋯⋯なにが言いたい?」
「つまりよう!」
兵士のひとりが剣を振り上げる。それを皮切りに、残りの三人も剣を抜いた。
「魔王封印されてモンスターがいなくなれば、俺らは職を失うのさ!」
「楽もできなくなるしな!」
「だから、魔王封印なんて掲げる馬鹿な勇者どもは、俺たちが退治してやるぜ!」
『勇者であろうと倒せない“モンスター”』――――それは、勇者を殺そうとする人間。
絶望とは、この気付きのことを云うのだろう。
目の前が暗くなった気がした。勇者が守りたいのは人々。けれど、その“人”が勇者を殺そうとする。
その“人”までも守らねばならないのだろうか、勇者というのは。
いや違う、こんなのはモンスターだ。
だけど、人の形をしている。だから、倒したりはできない。
向こうは殺そうとしているのに?
人間だから反撃もできないのか?
人々の為に魔王封印を目指す勇者が、魔王の肩を持つ人に殺される?
そんなのは間違っている⋯⋯。
武器を抜いた。
しかしその瞬間、後ろから光が放たれた。
襲いかかろうとしていた兵士たちは、バタリと地面に倒れた。
「もう、勇者様、ぼーっとしすぎです」
仲間の魔法使いが言った。
「今のは⋯⋯?」
「眠らせただけなので、大丈夫、死んではいません」
もうひとりの仲間が、兵士たちを手早く縛っている。この不届き者たちを、さっさと突き出そうというのだ。
そんな仲間たちの姿に、安堵がどっとやってきて、力が抜けてへたりこんだ。
『勇者であろうと倒せない“モンスター”』に、こうして勝つことができた。
2020/11/16
FFよりDQの方をよくやっていました。