双子の弟
その剣筋はまったく見えなかった…
腕が振られたかに見えただけ。
アタシは確かに弱くなったと自分でも思う。しかしそれは"力"の部分であり"目"ではない
このアタシが、マサムネの速さについていけなかった。このアタシが、だ。
マサムネとは双子で、共に柊華の家に生まれた。
アタシは太刀"柊翠"を得るが、
マサムネは"持たざる者"だった
男子は頭首になれない。それは柊華の家だけに限らず、王家である巴桜・柊華と同じ双家である菊華、その他にいる花の一族もしかり。
剣を持つ者を"是"とし、それ以外を"非"とする。
それは仕方のないこと… 例え優れた男子であろうとも。
なぜなら剣に選ばれるのは、例外なく女性であるということ
剣に認められると、所有者となり恩恵を受けることができる。それも破格の力だ
満16才を迎えると、"選剣の儀"が執り行われるのだ。
これについては一族の男女が、共に受けなければならない。
女性は剣の所有者に、男性なら個別の能力が開花されるのである
そんな中、マサムネは一族であるにもかかわらず、なんの能力も持たなかったのだ
だから目の前のマサムネが本当にアタシの弟なのか分からなかった。
「な、な、なんだお前はっ?! "加速っ"」
男は同時にバックステップで距離を取ろうとするが
「ただ速くなるだけか」
いつの間にかマサムネが男の後ろにいた。
「っ! このスピードについてこれるだと?」
「違うね、上回ってるんだ。お前、遅いよ」
そう言って、男の両足をけり転倒させた。
マサムネが剣を振り上げつつ、近付いていく
「マサムネ待てっ!その男は殺すな」
「姉さん、なぜでしょうか?」
「そいつには聞きたいことができた」
「それは?」
「"準備が出来て皆集まっている"と、そいつは言ったが、それはどういうことか知りたい」
アタシの言葉を聞き、マサムネはハヤテに問う
「聞こえてるだろ?姉さんの問いに答えろ。チャンスは1度だぞ、いいな?」
ハヤテは悩む
話すつもりはない。話すつもりはないが…
黙秘や明らかな嘘は拷問されてしまうだろうと。
では、機を待って逃走あるいは仲間が来てくれるというのはどうか…
それにはある程度の時間を要す。しかし、ハヤテが助かるにはこれしかない
ハヤテは決断した。出た言葉は
「待ってくれ。いまこの場で、はな
"ザシュ"
「なら死ね」
言葉より速くマサムネは動く
黒い片手剣がハヤテの胸を貫いていた
「時間を稼ごうとする奴は必要ない。なにより姉さんを傷つけたんだ。生きようとは思うなよ」
ハヤテは返事をしなかった。既に事切れていたからだ。マサムネがハヤテを蹴り、剣を抜く。
その黒い剣から鮮血が滴る…
あの剣はいったい…
それは、血を浴びるのを喜ぶかの様に、剣からオレンジゴールドのオーラが揺らめいていた
(マサムネ…お前は本当にマサムネなのか?)
そう思ったアタシはつい口にする
「お前は誰だっ?!」
「……。」
「なんとか言えっ!」
アタシは声を荒げる
マサムネはアタシを見つめて口を開いた
「姉さん…俺もマサムネなんだ」
マサムネの寂しそうな顔が、アタシの心に刺さる
「…アタシが納得できる答えを言え」
マサムネに問う
「………やっぱりあいつの言った通り、姉さんには分かるか…
どの辺で気付いた?」
マサムネの口調と雰囲気が変わる
それにあいつとは?マサムネは何かを隠してる
「あいつとは誰だ?」
「マサムネだよ。…もう1人のね」
「もう1人のマサムネ? それはこころの話か?」
「いや、ちゃんと実在するマサムネだ」
「実在するもう1人のマサムネだと?!」
「ああ、実在するんだよ。…しかしどこから話すべきか…」
そして正宗は語り出した