モグラの春
畑の雪がとけ始めました。
雪の下の土の中。
そこには一匹のモグラが住んでいました。
グゥーグゥー、スゥースゥー。
モグラはトンネルのような家の一番おくで眠っていました。冬の間はどこへも行かず、こうしてじっと眠っています。
ある日のこと。
モグラは冷たい風に目をさましました。
――どこがこわれたんだろう?
寝ぼけまなこをこすり、しぶしぶ起き上がると、さっそく家の中を調べはじめます。
すると……。
トンネルのまん中あたり、天井に丸い穴があいていました。
――いったい、だれがこわしたんだろう?
穴からのぞいてみますと、大根がずいぶん大きくなっており、葉っぱが風にふるえています。
――うっ、さむっ! 春はまだだな。
モグラは風が吹きこむ穴に土をつめ、ふたたびぐっすりと眠りにつきました。
何日かすぎた日のことです。
モグラの寝ていた部屋が、大きな地ひびきとともにグラグラとゆれました。
モグラはびっくりして目をさましました。
壁がくずれ落ち、そこからまぶしい光がさしこんでいます。
――わあー、どうしたんだろう?
あわてて外をのぞきますと……。
おばあさんのうしろ姿が見え、その両手には白い大根がありました。
――なあんだ、そういうことだったのか。
モグラのヒゲをくすぐるように、地上ではあたたかな春の風が吹いていました。