ハロウィンの日に
なろうの知り合いとハロウィンネタの短編を出し合おうとして書いたものです。
私の趣味は小説を書くことだ。と言っても、本職の小説家ではなく、この小説投稿サイトで掲載するのみである。
プロになるわけでなく、自分のペースで執筆して投稿し、読者に楽しんでもらい評価してもらう。誰にも干渉されず物語を創造するのが私には丁度良い。
話を作るには資料を調べ、構想を思い描き、細かな繋ぎを練る際は買い物がてらに外に出る。歩きながら見る景色の中に様々なアイデアが隠されているからだ。
10月31日、この日は一用事で大きな街に行く都合があり、その帰りにハロウィンのイベントに遭遇した。パンプキンのお化けや魔法使いや色んな何やらに仮装した人達でごった返していた。冬も近い寒い日だと言うのに。
小説を執筆するために知識を日々探求する手前、こうしたイベントや流行には疎いところがある。しかし、こうした祭り騒ぎを見るのも好きだ。何故なら普段にない光景を眺めているうちに私の脳内に新しいアイデアが創造できるかもしれないからだ。
時間にも余裕があり、近くにコンビニの飲食スペースからハロウィンのイベントを見ることができる。そう思い、私は人混みを避けながら道を進む。
因みに、私は騒ぎ事を傍観するのは嫌いではないが、参加するのは好きではない。何より私は寒いのが苦手なのだ。
「おっ?」
私は声を出した。目の前の小柄な後ろ姿に見覚えがある。
「あれ?」
と、彼も私の気配に気付き、後ろを振り返り私の姿を見た。
「Sじゃないか。久しぶりだな!」
「久しぶりだな。元気してたか?」
私の友人のSであった。彼は150㎝ほどの小柄な奴だ。
「何だよ、その顔はハロウィンのメイクかよ?」
と、私は言う。彼の顔は右目に眼帯を着け両頬には痛々しい大きな傷跡がある。普通なら死んでいてもおかしくない位の凄まじい物で、特殊なメイクを施したのだろう。
「ん、これか?まぁ、そんなもんだな」
「ここで話すのもなんだ。どっか近くの喫茶店にでもよろうぜ。時間は大丈夫か?」
「う~ん、そうだな」
と、Sは声を濁しながら懐から古い懐中時計を取りだし時間を見た。そして、辺りを見渡す仕草をした。
「誰か待ってるのか?」
「そうだが、待ち合わせの時間になっても来ないから。暫くお前に付き合うよ」
「大丈夫か?」
「心配はない。それに、6年振りに話ができるからな」
そう言って、私はSと一緒に近くの喫茶店に入った。古風な店内で時々時間潰しに来る馴染みの店だ。今日の日に合わせて隅に置かれた机には、可愛らしいパンプキンのお化けが置かれていた。
暖房の効いており、コートを脱ぎ窓側の椅子に座り出されたコーヒに砂糖とミルクをいれながら旧友と話す。
「6年振りだなS、お前は何してたんだよ」
「ん、留学してたんだ」
その言葉に私は耳を疑って聞き返した。顔に似合わず知らない内に凄いことしてたんだと感心する。
Sは話を続けた。留学先での生活や出来事、色々な体験談を眈々と話す。何れもこれも聴くだけではテレビドラマや小説の話のように思えてしまう。
「ところでT先生は元気か?」
と、Sが聴いてきた。T先生とは私やSの大先輩であり、この人がいなければ今の私たちはいなかったと言える人だ。
「元気だが何分あの人は苦労人だから、まだどこか悩まれてるらしいな」
「そうか。ところで、お前は何の仕事をしているんだ?」
「俺か?」
私は一口飲んだコーヒーカップを受け皿に置いた。
「俺は軍人だよ」
「えっ、ホントか?」
「あぁ、今は休み貰って帰ってきてたんだ」
そう言って、私は左手を見せた。中指と薬指が欠けているのを見てSは少し固まったようだ。
「前の戦争で、北部戦線でやられたんだ」
「そうか、お前も苦労してるをだな」
「お互い様だな」
と、私とSの会話が途切れかけそうな時に店の扉が開き備え付けの鐘がなる。私の背中に外の冷たい風が当たる。
「ココニイタノカ」
片言の日本語を使う女性の声がした。これに反応したのがSで、私は声の方に頭を向けた。
全身の衣装を真っ白にして大きな魔女帽子を被るその姿は、白い魔法使いとでも表現できるだろう。西洋のおとぎ話にでも出てきそうな不思議さと今日のハロウィンにピッタリな格好だ。その女性は銀髪赤目の整った顔立ちは幼さを少しだけ残した美女である。
「そろそろ行かないとな」
Sは席を立ち彼女の方に近寄り向かい合い、小柄なSが女性を見上げながら外国語で会話を始めた。すると、二人は私の方に顔を向けた。
女性は私を覗くように見ながら少しだけ会釈をし、私も咄嗟に条件反射で頭を下げた。
「悪いが俺はもう行かないとな」
「そうか、気を付けてな。コーヒー代は奢るよ」
「ありがとう。また、いつかな」
「あぁ、またいつかな」
私の挨拶を聴き終えるとSは彼女を連れて店を出て行った。その後ろ姿を見送って、私はSとは二度と会えないのではと思ってしまう。
ハロウィンが特別な日ではあるが、それは人種や文化によって考えが異なる。しかし、人はこうした日に日常と少し違う日常を求めてしまうのではないだろうか。
私は今、この間の出来事を書き記しながら思うのだ。
少し遅れたハロウィンネタの初短編です。とは言え、ハロウィンのイベントとは殆んど無関係なのですが。