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トナカイのエルン 後編

 エルンは、フォクシーヌにもらったパンケーキの入った袋をかかえて、森の中を歩いていました。

 雪はまだまだふり続いています。道がどこだかわからないくらい雪が積もっているので、まよわないように、木の形をたしかめながら進んで行きました。

「まつ毛も鼻も手も足もこおってしまったみたいだよ。なんて寒いんだろう。でも、ミスターはもっと苦しいんだ。これくらいがまんしないといけないよね。そろそろリスのクルリンの家が見えてくるはずなんだけど……」

 エルンは鼻にのった雪をふり落とし、あたりをきょろきょろと見回しました。

 すると、森の中でもとても小さい家が、木のえだの上に見えてきました。あそこにちがいありません。

 エルンは、ドアもえんとつも、何から何まで全部小さい家に向かって、走り出しました。


 エルンは袋をわきにかかえ、こごえた手をこすり合わせて、指先をあたため直しました。

 やっとのことで、木の上にのぼったエルンは、トントントンと、木の実のリースがかざってあるドアをたたきました。

 へんじがありません。

 エルンはもういちど、トントントントンとドアをたたきました。

 つつつつつっと、家の中からかすかな足音が聞こえてきます。リースのベルがちりんとなりました。

「あっ、クルリンだ」

 ほっとひと安心です。

 こんな高いところまでのぼってきたのに、クルリンに会えなかったら、エルンはどれほどがっかりしたでしょう。

 ドアがカチャッとあいて、中からクルリンが顔をのぞかせました。

「誰? こんなに寒い日にやってくるのは。クルクル」

 クルリンが床からジャンプして、くるりと1回転しました。

「ぼくです。トナカイのエルンです。こんなおそくにおじゃましてごめんなさい。お願いがあって、やってきました」

 エルンは頭の上にどっさりと雪をのせたまま腰をかがめ、クルリンをまっすぐに見て言いました。

「それならしかたないね。さあ、寒いから中に入って。そうそう、頭の上の雪も忘れずに落としてよ。さーーてと……。いったい、何があったの? クルクル」

 クルリンは本を持ったまま、ぴょんとジャンプして、今度はくるりくるりと2回転しました。

 エルンは低くかがんだまま部屋の中に入りました。立ち上がるとツノが天井にささってしまうので気をつけなければいけません。

 クルリンの部屋には本がたくさん並んでいました。

 エルンは、クルリンがとても勉強家なのを思い出しながら、ミスターサンタのことを話し始めました。

「大変なんです。ミスターが、かぜをひいたので、今夜の仕事ができなくなってしまったんです。クルリン、お願いです。どうしたらいいか、いっしょに考えてください」

 クルリンはびっくりして小さな目をぱちぱちとまばたきしました。

 そして、くるりくるりくるりと3回転しました。

「なんだって! それは大変だ。子どもたちにプレゼントがとどけられないじゃないか!」

 クルリンはジャンプを止めて、指をおでこにあてながら、むむむとつぶやきました。 

「そうだ! いいこと思いついたよ。エルン、ちょっと待ってて」

 クルリンはまどぎわにある机に向かってすわり、ペンをにぎって、すらすらと何かを書き始めました。

「これでよし。この手紙を、フクロウのホーリーのところに持って行くといいよ」

「ありがとう、クルリン。これを持って行くといいんですね?」

「そうだ。ホーリーならミスターの力になれるよ。きっと元気になる」

 クルリンが書いてくれた手紙を持ってエルンは外に出ました。

「クルリン。勉強のじゃまをしてごめんなさい。そうだ。これは、フォクシーヌにもらったパンケーキです。勉強のとちゅうでお腹がすいたら食べてください」

 エルンは、パンケーキの入った袋をクルリンに渡しました。

「えっ? こんなにたくさん?」

 クルリンはうれしそうに袋の中をのぞきこみました。

「この手紙があるからだいじょうぶです。クルリン、どうもありがとう。それじゃあ、またね」

 エルンは、ゆっくりと木から下りると、クルリンに向かって手をふりました。

 クルリンも手をふりながら、また1回転しました。


 エルンは、まっ白な雪の道を、森のおくに向かって、どんどん歩いて行きます。

 そして、雪の降り続く森の中に、きえてゆきました。




 エルンは、クルリンに書いてもらった手紙を持って、森の中を歩いていました。

 いつの間にか雪はやんだようです。空を見上げると、雲が切れて、星がまたたいているのが見えました。

 最後に残っていた雪雲もどこかに消えてしまい、月が顔を出しました。

 月に照らされて、森じゅうが、やみの中にキラキラ輝いています。

 エルンは立ち止まって森のおくを見ました。右側も見ました。左側も見ました。今、歩いて来たばかりの道もふり返りました。

 大変です。ホーリーの家がどこにあるのか思い出せません。エルンはツノを何度かなでて、空を見上げて考えました。

「そうだ。今、思い出したよ。ぼくは、ホーリーの家に行ったことがなかったんだ。だから家がどこにあるのか、知らない。どうしよう。クルリンの家までもどって、たずねたほうがいいのかな」

 エルンは自分の足跡のついた道を引き返そうと、ぐるっとからだの向きを変えました。すると、誰かが呼んでいる声が聞こえます。

「エルン、エルン。道に迷ったのですか? ホーホー」

 ちょうどエルンの目の前にある木の枝に、くりくりの目をした丸い鳥がとまっているのが見えました。

「あなたは、もしかして、フクロウのホーリーですか?」

 エルンは丸い鳥に向かって言いました。

「はい、そうです。わたしはホーリーです。雪がやんだので、配達がてら森の様子を見に行くところだったのですよ、ホーホー」

「あの……。リスのクルリンに手紙を書いてもらいました。これをあなたに持って行くようにと言われて」

 エルンは手を伸ばして、手紙をホーリーに渡しました。

「どれどれ。なんて書いてあるのかしら」

 ホーリーは羽の中から取り出した赤いめがねをかけました。そして、月の明かりをたよりに、手紙を読み始めました。

「ふむふむ。おやおや。それは大変。ミスターがかぜをひいてしまったのね。わたしの仕事は郵便配達。世の中の出来事は手紙でしか信じないの。うわさ話はもうこりごり。クルリンの手紙は世界中で一番信用できるわ。さあ、行きましょう。ミスターの家はここからだとずいぶん遠いはず。急いで! ホーホーホー!」

 すると、あっちからも、こっちからも、丸いからだのフクロウが、たくさん飛んできました。

 1羽、2羽、3羽。4羽、5羽、6羽。まだまだ飛んできます。

 7羽、8羽、9羽。10羽、11羽、12羽……。もう、数えられません。

 エルンは、木の枝にところ狭しととまっているフクロウを見て、目を丸くしました。

「なんて、いっぱいいるんだろう。ホーリー、仲間を集めて、どうするのですか?」

 エルンは不思議で仕方ありません。

「エルン。そんなことは気にしなくてもいいから。ミスターが待ってるのでしょ? みんなも、用意はいいわね。ミスターの家まで全速力で行くわよ」

 ホーリーは仲間にそう言って、びゅんと飛び立ちました。仲間たちも、後について一斉に飛び立ちました。


 エルンもぼんやりしていられません。足首をくるくると回して、準備運動をした後、ミスターの待つ家に向かって、雪の上を目にもとまらぬ早さで駆けてゆきました。

 ミスターサンタのそりをひく時よりも、ずっと早く走りました。


 そして、エルンはやっと、ミスターサンタの待っている家にもどって来ました。ホーリーと仲間たちは一足早く着きました。

 エルンはふらふらになりながら、ミスターサンタのそばに近寄りました。どうやら、まだ眠っているようです。

「エルン。プレゼントはどこにあるの?」

 一緒に部屋に入ってきたホーリーがききました。

「ぼくが、いつも、寝ている小屋の裏の。ふう〜。倉庫においてあります。ふう〜。ホーリー。そんなことをきいて、いったい、どうするつもり、ふう〜。なのですか?」

 エルンはあまりにも大急ぎでここまで帰ってきたので、何度も大きく息をしながら、とぎれとぎれにしか答えられません。

「わかったわ。裏の倉庫ね。エルン。あなたは、まきをどんどん燃やして、ミスターの看病をするのよ。ミスターの目が覚めたら何か食べさせてあげなさい。いい? わたしは仲間たちと一緒に、プレゼントを配って来るから……」

 そう言って、ホーリーは部屋から飛び出していきました。

 次の瞬間、パタパタと大きな羽音がしたかと思うと、すぐにあたりはいつものように静かになりました。

 エルンはホーリーに言われたとおりに、まきを燃やして、部屋を暖めました。そして、お鍋に残っていたスープも温めて、夜中に目が覚めたミスターサンタに飲ませました。


 小鳥の声がチチチチと聞こえてきます。窓からは、まぶしい光が差し込んでいました。

「ああ、よく寝た」

 エルンは腕をのばして、のびをしました。

「あれ? ここは……」

 エルンは腕をのばしたまま、あたりを見回しました。目の前には、ミスターサンタが眠っています。エルンはミスターサンタのベッドの前でうたた寝をしていたことに気付きました。

「たいへんだ! お日様が出てるってことは、もう朝になってしまったんだよね。ぼくは、ミスターの看病をしていて、そのままここで眠ってしまったんだ。どうしよう。どうしよう。今日はクリスマスなのに、子どもたちにプレゼントを配るの、忘れてしまったんだ」

 エルンはあわてて立ち上がり、玄関のドアのところに行きました。今からでも、自分ひとりでプレゼントを配ろうと思ったからです。

 すると、ドアのすき間に何かがはさまっているのが見えました。

 手紙です。


『エルンへ』


 そう書いてあります。

 エルンは、大急ぎで封筒を開けて読み始めました。


『ミスターの具合はいかがですか? エルンも、疲れてはいませんか? プレゼントはちゃんと子どもたちに届けましたよ。安心してください。そうそう、今朝は森のみんなからエルンに渡してくれと次々とクリスマスカードを預かっています。あとで届けに行きますね。それでは、素敵なクリスマスを。ホーリーより』


 エルンは思い出しました。夕べ森のみんなに相談して、最後にフクロウのホーリーに助けてもらったことを。

 エルンは、手紙を胸に抱きしめて、優しかったみんなのことを順番に思い浮かべました。

 そして、ベッドの上に起き上がって、にっこり笑っているミスターサンタに言いました。

「メリークリスマス、ミスターサンタ」 と。するとミスターサンタも言いました。

「メリークリスマス、ミスターエルン」 と。

 エルンは、生まれて初めてミスターと呼んでもらって、うれしくて、そしてちょっぴり恥ずかしくなって、じまんの鼻を、ぽりぽりとかきました。

 

 

 

 

   






最後まで読んでいただきありがとうございました。

この『トナカイのエルン』は、絵本のイメージで書きました。パステル画でも添えて、レイアウトできればいいなと思っています。

ではみなさまも、素敵なクリスマスをお過ごしになってくださいね。

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