第68話 紅薔薇と白百合と俺。
「あらあらぁ、盛りのついたメスネコ共がアタシのマグナちゃんと何を話してるのかしらぁ」
「団員! ア、タ、シ、の、マグナちゃんよぉ。団員はステファン様が本命でしょう?」
「まあ、そんな独り占めみたいなこと言わないの!」
ぞわぞわぞわぁ
ま、また出た!
地獄の釜が開いた!
おお、神よ!
何故に我にこのような試練を与えたまうのか!
別に宗教はやってませんけど。
そういや、この世界の神ってどうなってんだろ?
「何を言っているのですか? このマッチョブタ共は? 油臭い体臭が移るから近付かないで下さるかしら?」
「ラディスの言う通りだ。ブタはブタ箱で大人しくしていろ。ああ、その山賊のような風体でも一応は騎士だったな。牢屋にはそうそう入らんか。残念だな」
うっわぁ。
何この緊迫した雰囲気は?
もしかして仲悪いの?
「ふんっ! 女同士で盛ってる悪趣味な輩は、口も悪いのねぇ」
「そうよそうよ!」
「はっ! 男同士でまぐわっている下卑た趣味のお前たちに言われる筋合いはない」
「そうですわ!」
いやぁ、この場合はどっちもどっちじゃない?
個人的な感覚としては白百合さんたちの意見に賛同しますけどね?
ヴィジュアル的にさ。
あっ、今は妄想厨は出てきてはいけない!
白百合なお姉様たちだけならばっちこいだけど、今は紅薔薇のオネェ様たちが視界にある。
これは危険過ぎる!
「エルメ殿?」
「あの、この方たちの騎士団は継承帝国に併合される前は敵対していた隣国の出身で、その、趣味の違いもあって・・・」
「ふむ。まあ、理解はした」
「すみません。どちらの騎士団の皆さんもいい方たちなんですが・・・」
エルメさんは悪くはないんですけどね。
ん、いや、俺をここに連れて来たのこのお嬢さんか。
ちょっと反省してもらおう。
「エルメ殿にはまだ聞きたいことがあったのだが、今日はこの辺でお暇しよう。クロ!」
「はい」
「逃げ--ご、ごほん。そろそろ宿に戻るぞ」
「イエス・マイマスター」
こうして、俺は人生最大の危険地帯から、そそくさと逃げ出しました。
因みに、白百合と紅薔薇の騎士団はまだいがみ合ってます。
まる。
†
だだだだだっ
ばん!
「ま、マグナさん! は、早く逃げ--!!」
翌朝。
血相を変えたエルメさんの悲鳴のような言葉で俺は起床しました。
なにこの既視感?
「え、エルメ殿? いったいどう--」
だだだだだっ
どどどどどっ
「「マグナちゃん!」」
「「マグナ殿!」」
うっわぁ
また出ましたよ。
白百合と紅薔薇の皆さんが!
出来ればどちらとも、もう関わりたくなかったです。
本心から。
ラディスラヴァさんの爆乳には若干の未練がないとは言わないけど。
今もぶるんぶるんしてるし。
あっ、下半身のアレは男の朝の生理現象ですよ?
マッチョ見たらすぐ萎んだけど。
「あ、アンタたち邪魔よ!」
「それはこっちの台詞だ!」
あー、人の部屋で口論は止めてもらえませんかね?
他の部屋の宿泊客が開いた戸口から覗いてますよ?
「マグナさん、すみません。朝早くに届いた報告を聞いた団長さんたちが言い合いをはじめてしまって、お二人が落ち着くまでマグナさんには隠れていてもらおうと思ったのですが・・・」
と、申し訳なさそうなエルメさん。
最初の凛々しい女騎士はどこいった?
クラウディアさんもピーちゃんにめろめろになってすぐにキャラ崩壊してたけどさ。
そういえば、エルメさんもどっかの領主の娘とか言ってたよな?
この世界の姫騎士ってこんなんばっかですか?
オークに捕らえられても屈服せず、「くっ、殺せ!」といいつつも快楽には逆らえず--
って、もっとダメじゃん!
「エルメ殿、その報告とは?」
「あっ、それは--」
エルメさんが言いかけたその時、
「そうよ!」
「そうだ!」
聞くに耐えないのでスルーしていた、罵り合う団長二人がこちらを振り向く。
「マグナちゃん!」
「マグナ殿!」
「は、はい!」
あっ、素で返事しちゃった。
だって怖いんだもん。
「「グロニゲンを襲った万を超える〝魔物の大氾濫〟から街の危機を救った〝不発の大魔導師〟ってマグナちゃん(殿)のことなの(か)!?」」
あー、そういえば、そんな事もあったっけ。
この世界じゃあ情報伝わるのにタイムラグ結構あるみたいだからな。
クラウディアさんの手紙の時みたいに。
普通に旅程で一週間かかるこの町になら、今くらいに報告来たっておかしくないな。
俺たちはクロでショートカットしちゃったし。
おい、まさかその〝不発の大魔導師〟って俺の二つ名!?
グロニゲンでも聞かなかったよ!?
「マグナさん、私も聞いて驚いたのですが、本当にマグナさんが?」
「うむ、確かにそうなのだが、その二つ名はなんなのだ?」
「えっと、報告書では--強力な従魔を引き連れた大魔導師のアルス・マグナが、魔法を使う事なく万を超す魔物の大群を一瞬で葬った--と。で、--大魔法を準備しつつも使うことなく戦いを終わらせ、不発の魔導師と呼ばれる--と」
従魔が活躍したとこで報告止めとけよ!
なんだよ不発って!
確かに「ぽふゅ」とか言って魔法は不発でしたがね!?
間違ってはいませんけどね!?
報告書を書いたのどっちだ!
筋肉領主か!?
残念姫騎士か!?
正解。
二人で書いた原稿を書記官が複製したものが各地へ送られた。




