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厨二系飼育係の成り上がり -異世界で厨二病が最強だった件-  作者: どらぬこ
第一部 大騒動な大氾濫編 第五章 樹海大氾濫
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閑話 クロ軍曹の冒険者教練。

ウィンテンの町、郊外。

今、この場所には十数名の姿があった。


「全員、整列っ!!」


ざ、ざざ、ざっ


点呼てんこ開始!」


「点呼?」


暗号名コードネームを呼ぶ! 答えろ!」


「はぁ」


「ウォッカ!」


「は、はい!」


「はい、じゃない! 何度言えば分かる、上官に対してはサーもしくはマムだ!」


「いえ、姐さん。初めて聞き--イエス、マム!」


クロティルドに睨まれたウォッカと呼ばれた男が、言いかけた言葉を飲み込んで答える。


「テキーラ! バーボン! スコッチ! グラッパ! カルヴァドス!」


「「「「「い、イエス、マム!」」」」」


男性たちが敬礼する。


「ラム! シェリー! ベルベット!」


「「「イエス、マム!」」」


今度は女性たち。


「マスターに付けて頂いた素晴らしい暗号名コードネームだ! その栄誉を深く噛みしめ、これからは本名と変わらず自らに刻め!!」


「「「「「イエス、マム」」」」」


クロティルドが満足したように頷く。


「よし! さて、お前たちは何だ!」


「ぼ、冒険者であります!」


「マムを付けろ!」


「ぼ、冒険者であります! マム!」


「そうだ、そこらの蛆虫うじむしにも劣る、名ばかりの冒険者だ!」


そう言われた冒険者たちの表情が歪む。


「何だ? 一端いっぱしに反論でもあるのか? 聞いてやるぞ」


「あっ、いえ。クロの姐さん。さすがに蛆虫は言い過ぎじゃないかと・・・」


冒険者たちを代表してウォッカが言った。


「ほう、蛆虫よりも役に立つと? 至高の存在であるマスターのお役に、今のお前たちが少しでも立てると?」


「あの、あっ、はい。いえ・・・」


クロティルドに再び睨まれ、後退さる。


今は人型を取ってはいても、彼女は竜種ドラクルだ。

その威圧感プレッシャーは半端ではない。


「よし! いいだろう。全員で掛かって来い! 私に毛ほどでも傷を付けられたら、その言を認めてやろう!」


「ぜ、全員でですか?」


「ふん! いまこの場にいる以上の人数で、私とマスターに一瞬で蹴散らされたのはどこのどいつらだ? そんなことももう忘れたのか? とんだ鳥頭だな。蛆虫にも悪かったか?」


流石に我慢が出来なかったのか、冒険者たちはクロティルドの威圧感に怯えつつも各々に武器を構え、彼女を囲む。


「あらあら、大丈夫なのですかねぇ」


と、軽装をした褐色肌の森人族アールヴが心配気に言った。


「どちらがだ?」


剣士然とした赤毛の人族ヒュームの女性が尋ねる。


「ん、決まって、る」


小柄な少女--小人族ドヴェルグの女性が、当然とばかりに答える。


彼女らは、ここウィンテンの町でもトップクラスの探索者パーティー〝黒銀紅こくぎんこ〟の面々だ。


ただ、この正式名は知る人も少なく、町では〝三美姫ビューティー・スリー〟という二つ名で呼ばれている。


最近では、彼女らのファンである魔石商の狐耳っ娘(ヴィタ)嬢によって〝三美神トライ・ゴッデス〟の呼び名が静かに浸透しんとうしつつあるのだが、当の本人たちはまだ気付いてはいない。


「終わった」


「やはり一瞬か。クロ殿の動きはほとんど見えなかったな」


「あらあら」


クロティルドと冒険者たちを見つめる三人。


「ぐうぅ」

「げぇ」

「うはぁ」


三人組の視線の先では、倒れ伏した冒険者たちがうめいていた。

クロティルドと彼らの間には、圧倒的な差があるようだ。


「これで分かったか!クソ虫共! 私の足下にも及ばぬ今の貴様らが、マスターの配下となるご慈悲を頂いたのだ! マスターにお会いするまでのこれからの一週間、死ぬ気で訓練にはげめ!!」


「わかりやしたぜ、姐さん・・・」


どうっ!


クロティルドの容赦のない蹴りが、ウォッカの腹部に沈む。


「何度言わせる! 返事はサー、マムだ! 上官へのそれ以外の返答は反抗だと思え! 分かったか!」


「い、イエス、サー!」


「「「「「イエス、サー! イエス、マム!!」」」」」


「全員、走れ! まずは町の周囲を十周だ! 遅れた者には私からの楽しい特別待遇おしおきだ!」


「「「「「い、イエス、マム!!」」」」」


クロティルドの美声が冒険者たちを地獄に叩き込む。


「あの変わった訓練は何なんでしょうね?」


「グロニゲンに戻る前に、マグナがクロ殿に教えたらしいぞ? 彼の故郷の訓練法らしい」


「ん、マグっち、ノリノリ、だった」


「フィロは見てたのか・・・」


「ん」


「一応、私たちはマグナさんから監視役のにんを任されているん訳なんですけれど、あれはほっといていいのかしら?」


「マグナの教えた訓練ならば間違いないだろう」


「ん、やり過ぎたら、止める」


「このグズ共! ぐだぐだと芋虫ワームの様に走るな! その無様な姿をもしマスターの前で見せてみろ! 消し炭にしてくれるぞ!」


「「「「「イエス、サー! イエス、マム!!」」」」」


クロティルドの罵声ばせいが響き、冒険者たちの悲鳴に彩られた訓練は続く。



「よし! この一週間、よく私の訓練に音を上げずに着いてきた! これより貴様らは、冒険者となる!」


「「「「「イエス、マム!!」」」」」


「貴様らに問う! 冒険者とは何だ!」


「「「「「殺せ! 殺せ! 殺せ!」」」」」


「貴様らの使命は何だ!」


「「「「「殺せ! 殺せ! 殺せ!」」」」」


「私たちはマスターを敬愛しているか! そのすべてを捧げられるか!!」


「「「「「ガンホー! ガンホー! ガンホー!」」」」」


一週間前とは比較にならない、一糸乱れぬ掛け声が上がる。


「やっぱり、途中で止めるべきだったんじゃないですか?」


「まあ、マグナの指示した事だしな」


「ん、マグっち、責任者」


探索者の三人組は、これまでの訓練風景を思い出したのか、諦めたように達観たっかんしている。


「これから貴様らは、至高の存在(マイマスター)に改めて拝謁はいえつすることになる! 覚悟はいいか!」


「「「「「イエス、マム!!」」」」」


「よし! では、馬車が出るまでの間、最後の訓練だ! 全員、町の周囲を隊列を組んで走れ! 少しでも遅れたヤツはグロニゲンまでそのまま走らせるぞ! 分かったか!」


「「「「「イエス、マム!!」」」」」


短槍ランス、構え! ウォッカが先頭だ、行け!」


「イエス、マム!!」


ざっ!!


ざっざっざっ!


「全員ー、進め! 『成り上がりの歌』斉唱!」


先頭のウォッカが叫ぶ。



「マグナのファミリー出来たぞ♪」


「「「マグナのファミリー出来たぞー♪」」」


「ヤーツはすーごい魔導師だ♪」


「「「ヤーツはすーごい魔導師だー♪」」」


「かなり強い!」


「「「かなり強い!!」」」


「すげー強い!」


「「「すげー強い!!」」」


「コイツはどえらい新人だ♪」


「「「コイツはどえらい新人だー♪」」」


「ドラゴンより!」


「「「ドラゴンより!?」」」


「母ちゃんより!」


「「「母ちゃんより!?」」」



「オレたちゃマグナのファミリーだ♪」


「「「オレたちゃマグナのファミリーだ♪」」」


「クーロのマームにシゴかれた♪」


「「「クーロのマームにシゴかれたー♪」」」


「マムは強い!」


「「「マムは強い!!」」」


「オレは弱い!」


「「「オレは弱い!!」」」


「地獄の日ー々はこれからだ♪」


「「「地獄の日ー々はこれからだー♪」」」


「魔物強い!」


「「「魔物強い!!」」」


「オレは強い!」


「「「オレは強い!?」」」



「父ちゃん母ちゃん見ててくれ♪」


「「「父ちゃん母ちゃん見ててくれー♪」」」


「故郷に錦を飾るんだ!」


「「「故郷に錦を飾るんだー!!」」」



迷宮の町ウィンテンに、異世界には場違いな歌が今日も木霊こだまする。


この後、彼ら冒険者たちの真似をした町の子どもたちによって、大魔導師の歌(マグナ・ソング)と呼ばれる新しい町の名物が生まれ後世まで伝えられることになったことを、悪ノリした張本人マグナは想像もしていない。


後の世に大賢者と呼ばれる大魔導師ハイ・ウィザードマグナの、数ある黒歴史でんせつのひとつである。


サーは男性に対してですが、まあ、ノリで(笑)

クロロ軍曹ではありません。


5日から第二部を掲載予定です!

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