閑話 女剣士の恋。(後編)
「きゃーーー!」
ヒュージ・スライムの巨体を視界に捉えた私は、つい素で叫んでしまいました。
ううっ、恥ずかしいです。
その瞬間、アイツが吐き出した強酸弾がエマニュエルさんの左腕を掠めたんです。
ああ!
私が、私が叫んだりしていないで、二人に危険を知らせていれば!
「治癒!」
私が自責の念にかられていると、フィロメナさんがエマニュエルさんに治癒魔法をかけてくれました。
ゆっくりとですが、焼け爛れていた肌が元の状態に戻っていきます。
はっ、そうです!
後悔や反省は後でも出来ます!
私だってリーダーなんです!
今は三人で、この窮地を切り抜けることを考えなくてはいけません!
「フィロ、エマ! 現状ではヒュージ・スライムを倒す事は難しい! ここは逃げの一手だ! 私が殿を務める!」
「ん」
「わかりましたわ」
二人はすぐ同意して、第二階層への階段がある通路へ向けて走り出します。
幸いにも、アイツは巨体だから動きは速くはないから、運が良ければ逃げ切ることも出来るかも知れません。
他の魔物に遭遇しなければ・・・
†
「くっ、運が悪い」
逃げ出してすぐの曲がり角のところで、気配を感じました。
魔物の挟み撃ち。
今、一番あっては欲しくない事態です。
どうか、魔物ではなく探索者であって下さい!
心の中でそう、祈りました。
そして、叶えられました。
私たちにとっては最悪の事態は避けられました。
でも、見るからに貧相な初心者装備の、新人探索者がのほほんと一人立っていました。
このままじゃ巻き込んじゃう!
第三階段にいる新人探索者では、ヒュージ・スライムの一撃には耐えられるハズがありません!
「貴方! ボケッとしてないで早く逃げなさい! レアモンスターよ!!」
私は叫びました。
逃げて下さい! 早く!
「ヒュージ・スライムよ! 貴方新人でしょう!? ぼさっとしてないで逃げなさい!!」
どうにか怪我も治ったエマニュエルさんも、いつものおっとりさんとは思えない勢いで叫びました。
「火炎!」
逃げながらも集中していたのか、フィロメナさんが火属性の中位魔法を放ちます。
がぼぅ!
のそのそと進むヒュージ・スライムに魔法が直撃しました。
ですが、巨体の一部を抉っただけで、すぐに再生されてしまいます。
ああ、ごめんなさい、名前も知らない新人探索者さん。
巻き込んでしまいましたね。
きょとんとしたあの様子では、ヒュージ・スライムの恐ろしさを知らないのでしょう。
本当にごめんなさい。
「三人とも伏せろ! カルマ!」
そう、心の中で謝る私--私たちに、その新人探索者さんが叫びました。
「はっ?」
「えっ?」
「ん?」
咄嗟のことで、私たちは揃って間抜けな声を出してしまいました。
ですが、腐っても私たちは中位探索者です。
彼が何かをするんだと理解して、すぐに床に伏せます。
『キュ!』
と可愛らしい鳴き声がして、彼の右肩に煌めく光が集まりました。
は?
あの肩に乗ってる小さい動物って?
いえ、まさか、ですよね?
「「「ど、ドラゴン!?」」」
私だけでなく、エマニュエルさんとフィロメナさんも声を揃えてその名を呟きます。
『キュイー!』
その小動物の鳴き声が迷宮の通路に響き渡ります。
白く輝く線状の光が放たれ、私たちがあれだけ必死に逃れようとしていたヒュージ・スライムが核を喪って崩れ落ちました。
たったの、一撃?
「良くやった。カルマよ」
『キュ!』
新人探索者さんは、肩に乗ってる小動物の頭をにこにこと撫でています。
な、ななななな!
なんですか、なんですか、なんなんですか!
なんですか、あの常識外れの強さは!?
なんですか、なんですか、なんなんですか!
なんですか、あの愛らしい生物は!?
†
ああ、大魔導師アルス・マグナさま。
小柄で可愛らしいお姿。
そのお姿に似合わない、自信に満ち溢れた尊大な口調。
そして、従魔のカルマ殿に時折見せるはにかんだ笑顔。
ああ、窮地を救って貰ったからでしょうか?
私--ユスティナは、貴方さまに、恋に落ちてしまったようです・・・
本人知らないところでマグナにフラグが立っていた、だとぅ!
あっ、本編はマグナ視点の一人称なので触れられてませんが、ショタっぽい外見です。
強い→ピーちゃん、可愛い→マグナ(笑)のことです。
「スライムさんと幼女メイド」もよろしくお願いします!
http://ncode.syosetu.com/n4507eb/
こっちが一段落付く頃に第二部を再開予定です。