閑話 女剣士の恋。(前編)
本編で目立てなかったユスティナさん視点のお話です。
なんですか、なんですか、なんなんですか!
なんですか、あの常識外れの強さは!?
なんですか、なんですか、なんなんですか!
なんですか、あの愛らしい生物は!?
これが、あの子と初めて出逢った時の私の心の声でした。
†
ある日のことです。
私たち探索者パーティー〝黒銀紅〟は、いつも通りにウィンテンの町にある迷宮を探索していました。
今は第三階層の奥の方にいます。
この迷宮は〝ウィンテンの迷宮〟と呼ばれています。
なんか安直ですね。
もうちょっと捻った名前は付けられなかったのでしょうか?
あっ、申し遅れました。
私は黒銀紅のリーダーをさせて頂いています、中位探索者の剣士ユスティナと申します。
ユスティ、ユスティちゃんと、気軽に呼んで頂けるととっても嬉しいです。
私の仲間はふたりいます。
中位狩人のエマニュエルさんと、同じく中位魔法士のフィロメナさんです。
エマニュエルさんは〝森人族〟ですが、この辺りでは珍しい〝黒耳族〟です。
このウィンテンの迷宮があるデスヴォルクス継承帝国は、元々は〝白耳族〟の国ですからね。
エマニュエルさんは褐色の肌が色っぽくて、えっと、ある部分が非常に発達していらっしゃいます。
う、羨ましくなんかないのですよ?
べ、別に私は、すれ違う男性に振り向かれたり、その部分を注視されたりはされたくないのですからね?
まあ、もうちょっとあるといいなぁ、とは思わなくはないですけども・・・。
私は女性としてはちょっぴり背が高いですし、剣士という職業柄、女性として度を超さないように気を付けていても、どうしてもある程度は筋肉質になっちゃいますからね。
何故かは分かりませんが、その女性的な部分は先に薄くなってしまうんです。
はぁ
もうひとりのフィロメナさんは、中位の魔法士です。
〝小人族〟だから、ちっちゃくてすっごく可愛いんですよ?
フィロメナさんの頭の位置は私にはちょうど良くて、ついつい撫でてしまいそうになってしまいます。
彼女は成人した立派な大人です。
ここは我慢、我慢なんです。
フィロメナさんはいつもは無口なんですけど、好きなことを話す時だけはいっぱいしゃべってくれるんです。
私は剣士で魔法はまったくと言っていいほど不得手なんですが、フィロメナさんの一生懸命に話す姿が可愛いくて可愛いくて、たまに魔法を教えて貰ったりしてるんです。
あっ、動機が不純なのは分かってますが、授業はちゃんと受けてますよ?
教えてくれるフィロメナさんに申し訳ないですからね。
ああ!
心の中だと、愛称で呼び忘れてしまいます。
気を付けなくちゃ。
えっと、エマニュエルさんはエマ、フィロメナさんはフィロ、エマにフィロ、エマフィロ、エマフィロ、エマフィロ、エマフィロ、エマフィロ・・・
これだけ繰り返せばきっと大丈夫ですよね!
黒銀紅のパーティー名は、私の赤髪、エマの銀髪、フィロの黒髪に由来してるんですよ。
黒銀紅、いい名前だと思いませんか?
私たちくらいの年齢の女性探索者のパーティーで、全員が中位探索者というのは結構珍しいんですよ?
探索者では、実は男女混成のパーティーは少ないのです。
純粋にパーティー編成として考えれば、前衛に攻撃職の男性、後衛に回復や補助職の女性というのはひとつの理想形ではあるのですが、その、ね?
えっと、生理現象の事ですとか、野営の都合ですとか、その、ま、間違いがあっちゃったり、とか・・・。
ぼっ
い、色々あるんです!
き、聞くのはマナー違反、なんですよ!
めっ! ですよ?
†
「フィロ、一度引いて体勢を立て直す。合図をしたら何か魔法を叩き込んでくれ」
「ん、承知、した」
私が指示をすると、フィロメナさ--こほん、フィロがいつも通り短く答え、頷きます。
「エマはその援護を頼む」
「わかりましたわぁ」
エマも相変わらずおっとりした感じで答えてくれます。
気の弱い私が何故パーティーのリーダーなんかやってるのか不思議ですよね?
フィロは短くしかしゃべりませんし、エマはのんびりとしているので、どうしても指揮するのには向いていないんです。
ああ、どこかに強くて頼りになる、指揮役の出来るソロ探索者はいないのでしょうか。
うーん、そうですね。
贅沢は言いませんけれど、禁欲的で、私たちを引っ張ってくれるような素敵な男性だといいですねぇ。
あら、私ったらそんなはしたないことを。
聞かなかったことにして下さいね?
†
「ふ、フィロ! エマが! ち、治癒魔法は!?」
「ん、少し、待つ」
私の切迫した声に、フィロが答えます。
「だ、大丈夫です、わぁ。ちょっと掠っただけ、ですか、ら・・・」
エマが力なく言いました。
左腕が焼き爛れています。
ああ、綺麗な褐色の肌なのに。
そう、ついさっきの事です。
コモン・スライムの集団を相手にしていた時でした。
先ほども言いましたが、私たち三人は揃って中位探索者です。
自慢ではありませんが、第十五階層まで攻略しているウィンテンの町でもトップクラスの探索者なんです。
決して、第三階層で大怪我をする様な未熟なパーティーではありません。
でも、今は状況が違っていました。
コモン・スライムは第一階層で出現する代表的な雑魚の魔物です。
水源があるこの第三階層でもたまに現れますが、私たちの脅威にはなり得ません。
でも、それでも、です。
リーダーである私は、もっと気を配らなきゃならなかったんです。
コモン・スライムに気を取られて、気付くのが遅れてしまいました。
第十五階層以降でしか確認されていない、しかもそこでも滅多に遭遇しない稀少種であるアイツが、物陰から忍び寄っていた事に。
アイツ--ヒュージ・スライムがです。
続きます。




