第46話 異世界ではじめてキレました。
「ここが某の家です」
翌朝。
宿に迎えに来たクジマに案内されて赴いたのは、貧民街にほど近い江戸時代の長屋みたいな集合住宅だった。
ある程度予想はしてたけど、病人には衛生的にも精神的にもあんまり良くはなさそうだ。
多分、治安もあまり良くはないだろう。
二人暮らしだって言ってたけど、クジマがウィンテンに行ってる間、妹さんは大丈夫だったのかな。
「しばらくすると治癒士も参りますので、我が主をおもてなしすることも出来ませぬがそれまでお待ち下さい」
「うむ。気にすることはない」
薄い扉を開けてクジマが家に入り、俺もそれに続く。
「イヴ、戻ったぞ」
「邪魔をする」
狭い廊下を進み部屋に入ると、ベッドに寝ていたひとりの可愛らしい女の子が身体を起こした。
「はい。お帰りなさいませ、お兄様。それと、お兄様が仰っていた新しいご主君さま、ですね。ようこそおいでくださいました。私はクジマの妹でイヴァンナと申します。どうぞイヴとお呼び下さい。このような病床の姿で申し訳なく思いますが、ご遠慮なくお寛ぎ下さい」
時代がかった物言いは一緒だけど、忍っぽいクジマと違ってお姫様っぽい。
イメージは深窓の令嬢ってやつだ。
俺より少し下くらいの年齢かな?
銀髪に生える頭の耳がぴくぴくしてて可愛い。
ん?
あれっ?
銀髪の犬耳っ娘?
えっ?
「あー、その、クジマ? 彼女は義理の妹、なのか?」
「いえ、イヴは実の妹ですが?」
じーー
俺はクジマを見る。
そういえば、クジマっていつも帽子みたいにして布を巻いてたから、まともに頭を見たことなかった?
「二人は犬人族、なのか?」
「いえ、某とイヴは狼人族と鬼人族の双種になります。言ってはおりませんでしたかな?」
あっ、家臣になった時になんか言ってた気がする!
すっかり忘れてました!
「すまぬな。もしかしたら最初に聞いたかも知れん。失念していた。生国はクーイウ、大公国だったか? 狼人族の国なのか? それとも鬼人族か?」
「ああ、そういえば我が主は遠方の出自のお方でしたな。旧帝国語が達者でしたので、某こそ失念しておりました。クーイウ大公国は継承帝国より南東にある狼人族の国になります。鬼人族の血は更に東になります」
「お兄様ったら、ご主君さまにそんな基本的なことを伝え忘れるなんて。不敬ですよ」
「むうぅ。我が主よ、申し訳ございませぬ」
あっ、しゅん、と項垂れた。
俺からするとしっかりしているクジマだけど、妹さんには弱いみたいだね。
「耳はその布で覆っているのは分かるが、尻尾はどうしているのだ?」
「ああ、尻尾は腰に巻いております」
巻いたりしてバランスは大丈夫なのか?
「そうか。余計な事を聞いたな」
「いえ--」
とんとん
「イヴさん、クジマさん、いますか? あっ、お邪魔しますね。おはようございます」
と、部屋の扉を開けて治癒士っぽい服装をした壮年の男性が扉を開けて入って来た。
「おお、先生殿! いつもご足労頂き、申し訳ない」
「いらっしゃいませ。アルデルト先生」
「いえいえ、治癒士が患者の下に足を運ぶのは当然のことです。気にする必要はないですよ」
気さくでいいお医者さんなのかな。
にこにこしていて好印象だ。
「それで、今日は薬を持って来て欲しいとの事ですが、薬代が工面出来たのですか? 本当なら安く譲りたいところなのですが、この薬は元が高くてそうもいかないのですよ。不甲斐ない治癒士で情けないことですが・・・」
そう言って目を細め、すまなそうにしながら手にしていた鞄から小瓶を取り出す。
「そんなことはありませぬ! なかなか病状を見に来てくれる治癒士はそうはおりませぬ! 某もイヴも、先生殿には頭が上がらぬ思いです!」
「はい。私もアルデルト先生には感謝しております」
・・・・・・
「先生殿、こちらの御仁は某の新しい主のマグナ殿です。今回は我が主のご助力で薬を買うことが出来る事になったのです」
「ほほう。それはそれは。クジマさんは良い主君を見つけられたのですね。おめでとうございます!」
・・・・・・
「ご主君様?」
「我が、主?」
「ん、どうかなされましたかな?」
・・・・・・
「治癒士殿、つかぬことを伺うが・・・」
「はあ、なんでしょうか?」
「その薬は、イヴ殿の病の進行を和らげる効果があるもので間違いないか?」
「はい、そうですよ。イヴさんの病状を見て、私が知り合いの伝で取り寄せたものですが、何か?」
「ふむ。クジマは我が第一の家臣である。そして、イヴ殿はその大事な妹御である」
「はあ」
むかむか
まだ惚けるか。
「ご主君さま?」
「我が主? 一体?」
いい加減、付き合ってられないな。
久々にぶちギレそうだ。
「治癒士殿・・・いや、詐欺師殿と言った方が良いかな?」
「なっ!」
「あ、あるじ?」
「ご主君さま!?」
「そのような紛い物で我が家臣を謀り 、貧しい兄妹から金をむしり取ろうというのか!」
「えっ?」
「はっ?」
スキル【威圧】、発動!
「この恥知らずの極悪人が! 直ぐに立ち去れ! この兄妹だけでなく、もし二度とこの様な事をすれば我が魔法で消し炭にしてくれるぞ!」
がたん!
「ひっ、ひい!」
腰を抜かした詐欺師が、這いずって部屋を出て行く。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
あー、危なかった。
マジで火炎の強化版、フィロメナが自信をなくしたあの火炎弾を容赦なくぶちこむとこだったよ。
「わ、我が主?」
「聞いての通りだ。我は【鑑定】のスキルを持っていてな。あの小瓶に入っていたのは、ただのよく効く栄養剤だ。精々、銀貨数枚の価値しかない」
プラシーボ効果はあるかも知れないけどな。
安く売るってことならそれも医療行為だけど、それで金貨を何枚も請求するなんて詐欺でしかない。
まったく。
そういえば、父親が言ってたな。
いつも笑顔のヤツには気を付けろ、って。
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