第2話 ドラゴンはもふもふでした。
嬉し気に俺の周囲をパタパタと飛び回る黄色いドラゴン。
『キュ、キュイー!』
いや、さっきは一瞬本気で焦った。
目の前にドラゴンがいたらそりゃ当然だ。
目を開けた瞬間に見えたのはシルエットだったからでかいドラゴンに見えたけど、視界の近くにいただけで実際は小さくて可愛らしいやつだった。
やー、分かった瞬間ほっとしましたよ。
マジで死を覚悟しましたからね?
人生の出来事が次々に現れては消えた。
走馬灯ってやつ?
黒歴史が多かったのはご愛敬だ。
異世界でドラゴンったら、大体は最強生物だよ?
チート系主人公が冒頭や序盤で瞬殺したりもするけど、それはあくまで理不尽だからなんだからね?
チートなしだと、精々雑魚の代名詞的なスライムかゴブリンくらいが限界じゃね?
俺の周りを相変わらずパタパタと飛び回るチビなドラゴン。
略してチビドラだな。
見た目は西洋的な竜だけど、体表は鱗じゃなくて某永遠な物語みたいな毛が全身を覆ってる感じだ。
全体的に黄色いけど、羽や尻尾の先が薄く緑がかっている。
俺が拾って教室で飼ってた小鳥と同じ特徴だ。
「ピーちゃん?」
『キュ!』
チビドラゴンが嬉しそうに俺の胸に飛び込んできた。
ぐべっ
結構衝撃が強かったようだ。
胃液が逆流してくる感じがする。
しかし、むむっ。
これは・・・これは、至極のもふもふ!
犬猫を代表とした小動物に勝るとも劣らぬこのもふもふ感。
もふもふの境地が、今、ここに!
はあぁ。
癒されるぅ。
ああ、これはモフラー冥利に尽きますなぁ。
あっ、モフラーってのはもふもふ愛好家の事ね?
因みに、もふる対象がいいなりになっちゃうくらいもふり上級者はモフリストに認定だ。
まあ、俺が勝手に言ってるだけだけど。
・・・とか言ってる場合じゃない。
「お前、本当にピーちゃんなのか?」
『ピィ!』
と、俺の腕の中で猫みたいに丸まりつつ、首を縦に振るチビドラゴン。
どうやら言葉は理解しているようだ。
小鳥にピーちゃん。
クラスメイトには猫にタマ、犬にポチと付けるくらい安易だと不評だったけど、分かりやすいって大事だと思うんだよ。
「何でドラゴン?」
小鳥のピーちゃん召喚して、何でドラゴンになってんだろう?
『ピィ?』
俺が首を傾げると、ピーちゃんも一緒に首を傾げる。
くっ、なんだこの可愛い生き物は!
こいつぁ世界を獲れるぜ!
じゃない。
どうどうどう。
落ち着け、俺。
ピーちゃんがドラゴンになっちゃったのは仕方ない。
今のところは理由は置いておこう。
話し相手が出来たんだからここは素直に喜ぼうか。
まあ、俺がぼっちだってのは変わんないけどな!
はははっ
†
「第一回異世界でどうする会議~」
『キュー!』
ぽふぽふぽふ
ピーちゃんが器用に左右の翼で手を叩くようにするが、毛でパチパチと音はならなかった。
「当然、議題はそのまんま、『とりあえず異世界来たみたいだけどどうするか?』だ!」
遺跡の瓦礫を椅子代わりにして座るピーちゃんに言った。
俺は対面に立って、石柱を壁替わりに講師みたいにしてる。
おっと、小動物相手に寂しい奴とか言うなよ?
ピーちゃんは友達だ!(ぼっち悪化中)
因みに、異世界(暫定)の(暫定)は取りました。
ここまで現実感があるヴァーチャルなゲームなんて聞いたことないし、魔法みたいなエフェクトやドラゴンいて、元の世界って事はないよね?
厨二的にも異世界認定しとこう。
「さて、異世界に来たらまずは魔法は定番!」
『キュイ』
「ピーちゃんが喚べたので、召喚魔法は既に成功しました。これで、魔法かそれに近い現象が成立する世界であることが分かりました」
『キュイ!』
「小鳥だったピーちゃんがチビドラになったのは、考えても仕方ないのでこの際スルーします」
『キュウ?』
「という事で、『召喚士』か『魔獣使い』がこの世界にはありそうだと思います。で、ピーちゃん」
『キュイ!』
ピーちゃんは勢い良く片翼を上げて答える。
「ブレスって吐ける?」
『キュ!!』
左の翼を背に回し、右の翼を自分の胸に当てて反り返るピーちゃん。
威厳を出したいのだろうが、可愛らしいので目論見は失敗といえよう。
誠に愛らしい生物である。
ピーちゃんは物理法則は無視した感じでふわっと飛び立ち、俺の頭上を軽く旋回する。
遺跡の大岩のひとつを正面にすると、翼を広げて体を反らして静止した。
ピーちゃんの口元が、さっき俺が召喚した時みたいに煌めく。
あっ、なんかこんなんアニメで見たことある気がする。
主にSF的な作品で。
ドガガァン!
次の瞬間。
轟音と共に集束した閃光が大岩に人間大の孔を穿ち、岩の破片を飛び散らせた。
はい。
もう、唖然とするしかないほど、想像以上の威力でした。
チビドラ、パネェ。
ぼっちにはせめてペットを!