第14話 はじめての、バトル?
通路の先は、突き当たりで左右に別れ、唸り声が聞こえてくる。
内部で反響してどちら側なのかはよく分からない。
俺は緊張しながらも、両手で杖を持って突き当たりの方に向ける。
心臓の鼓動が高鳴り、杖を持った掌は短時間なのに汗だくだ。
ごくり
喉が鳴る。
いや、大丈夫だ。
既に一度、オークとゴブリンと戦ってるんだ。
二度目だ。
焦ることはない。
ん、あれ?
ちょっと待てよ?
あの時って、俺なんもしとらんかったんじゃね?
あの時はゴブリン達が向かって来て、ピーちゃんが【波動砲(仮)】で一蹴して、リーダーらしきオークはこれまたピーちゃんの体当たりで頭バーンで、残敵もそのままピーちゃんの活躍で掃討して終了。
あっ、これ俺の初戦闘だわ。
ゲーム気分でダンジョンに来ちゃったけど、魔法使いのソロ攻略って、考えてみたらゲームですら死亡フラグ?
しかも、魔法覚えてたっけ?
いや、ない!
魔法覚えてねーよ!
ステータス、よく分かんないスキルばっかだったよ!
そういや【鑑定】で説明見れるのか?
試してるヒマねーよ!
どうするよ、俺!!
これって、愛と勇気じゃどうにもならんのじゃないか!?
よく考えれば、愛と勇気もねーよ!
更に少年誌の定番、友情・努力・根性のひとつもねぇ!
もう、唸り声の主はすぐそこまで来ている。
こちらは視界を照らしている光があるから、位置はバレバレだ。
かといって、消すことは自殺行為だ。
ダンジョンに生息している魔物たちと違って、俺は夜目が利くわけじゃない。
絶対絶命、だーいピーンチ!
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
と、思ってた時もありました。
えっ?
迫り来た魔物はどうしたって?
知らんがな。
だってさ、魔物の姿と思わしきが見えた直後、ピーちゃんが【波動砲(仮)】で消し飛ばしちゃったから。
死屍累々どころか、魔物がなんだったのかすら不明でした。
ピーちゃんの攻撃で一瞬目を瞑って、開けたら小振りな魔石がいくつか転がってた。
ピーちゃんさ。
無双にも程があると思いますよ?
で、それからは魔物が現れる度にそんな感じです。
流石に魔物の確認くらいはできたけど。
第一階層には、某有名なRPGに出てきそうなぷよぷよなスライムや、羽を広げると一メートルくらいありそうなでかい蝙蝠がいました。
第二階層には、霊体っぽい半透明のやつ(ウィル・オ・ウィスプ?)やぼろい装備のスケルトンがいました。
数時間経った今は、第三階層です。
ピーちゃんのお陰で攻略早いです。
蟹っぽいのと蜥蜴みたいのがさっきいました。
どこかに水源でもあるのかな?
ダンジョン低階層でお決まりのゴブリンは出てきていません。
アレはこの世界では人の一種で亜人らしいから、いなくて当然だけど。
ピーちゃんが無双している中、俺は何してるかというと、収入源になる魔石や稀に残るドロップアイテムを回収してます。
はい、ご想像の通りです。
役立たずな俺は、魔石回収の荷物持ちをしています。
迷宮をさくさくと攻略。
出会った魔物をことごとく蹂躙。
ドロップアイテムをほくほく回収。
これだけ聞くと、初心者とは思えない無双系チート主人公ですね。
ピーちゃんが。
チビドラすげぇよ。
小さくても流石ドラゴンだよ。
某モンスターズの主人公並みに俺は何もしてねーよ。
あれは一応、指示はしてるか。
ピーちゃんは瞬殺しちゃうから、指示すらいらねぇ。
俺の存在意義は回収係と荷物持ちだけですよ。
やっぱり主人公はピーちゃんですか?
俺をこの世界に喚んだやつ、いい加減に説明して!
あっ、でもマッピングはしてますよ?
脳内で。
記憶力にはあんまり自信ないので、心許ないことこの上なしですけど!
大昔のゲームでは方眼紙に地図描いてたらしいけど、そんなもんないし。
ダンジョンRPGに欠かせない自動地図プリーズ!(心の叫び)
†
「きゃーーー!」
第三階層もそろそろ終盤かと思われる頃。
半日くらい経ったのでダンジョン探索を切り上げて町に戻ろうとしたら、そんな悲鳴が聞こえて来ました。
絹を割くような女の悲鳴というやつです。
君子危うきに近寄らず。
と言いたいところだったけど、こっちに近付いてくるようだったので無視する訳にもいかずに戦闘体制を取る。
主にピーちゃんが。
俺は飛んでる、というか浮かんでるピーちゃんの邪魔にならないように距離を空けて安全地帯で待機する。
情けなくなんかないやい!
翼を広げたままピーちゃんが静止している様子は、物理法則を習った現代人としては違和感バリバリだったけど、もう慣れた。
スキルに【浮遊】とかあったから魔法みたいな感覚なんだろうと、己の心を無理矢理に納得させた。
と、先の曲がり角から三つの人影が飛び出して来た。
女性三人組みの探索者パーティーらしい。
途中で減ってなければ、だけど。
「貴方! ボケッとしてないで早く逃げなさい! レアモンスターよ!!」
現れた探索者の一人--軽鎧を纏った剣士風の赤髪の女性が、俺を視界に入れて叫ぶ。
レアモンスター!
なんだ、その心踊るフレーズは!?
ピーちゃん無双で危機意識がほとんどなくなった俺は、そんな風に暢気に構えてゲーマーちっくな言葉にワクワクしていた。
三人の後ろから、ばかでかいスライムが現れた。
「ヒュージ・スライムよ! 貴方新人でしょう!? ぼさっとしてないで逃げなさい!!」
と、革っぽい胸当てを着た銀髪の女性が弓を引きながら続いて声を上げる。
ゲームだと狩人か盗賊ってところだな。
「火炎!」
黒っぽいローブを着込んだ小柄な女探索者が叫ぶと、炎の塊がヒュージ・スライムに向かって飛ぶ。
おおっ!
異世界っぽい魔法キター!!
唱えてみよう、フランマ!