第10話 ダンジョンは異世界のロマンだと思います。
「やあ、僕はテオドルス・エル・ブラウエル。ここで騎士をやってるんだ。よろしく」
爽やかに自己紹介された。
金髪がさらさらと流れている。
ふぁさぁ
とかの効果音がCMばりに流れそうだ。
マジでテンション下がるわぁ。
何このイケメンは。
ただの僻みだってのは重々承知してるけど、モテない厨二にはその存在自体が当て付けだよね?
一晩ここにお世話になるんだし、挨拶しない訳にもいくまい。
ここは大人の対応をしなくては。
「我は魔導師のアルス・マグナ。すまんが暫しの間、世話になる」
「マグナ殿、彼はこの街の正騎士で私の上司になりますの。ここ街の守備隊の責任者ということになりますわ」
イケメンで地位もあるなんて、嫌味なやつだ。
いや、卑屈になるのはよそう。
イケメンは性格悪い(偏見)と相場は決まってるけど、もしかしたらいいやつかも知れないしな。
「ふーん。商協同盟の中隊規模の兵士を瞬殺して、キミを助けたってのは本当かい?」
「はい。マグナ殿がいなければ、私は今ここにはいなかったでしょう。私の命の恩人なのですわ」
クラウディアさんがフォローしてくれる。
いや、改めて言われると照れますな。
「クラウがそう言うなら信じるけど、人族の魔導師がねぇ」
あっ、やっぱりいけ好かないやつな気がする。
何か、不審者を見るようなオーラが漂っている。
エルフがファンタジーのイメージ通りなら、魔法に秀でていて、人族なんかが強いのはプライドが許さんとかか?
ぴくぴく
見下すような失礼なもの言いに、ちょっとこめかみの辺りに青筋が立ちそうだ。
我慢我慢。
大人な対応、大人な対応。
よし、俺は冷静だ。
「オークやゴブリンを倒したのは我が友カルマであるからな。今回我は何もしていない」
そう言って、腕の中で寝ているピーちゃんを撫でる。
ちょっとぴくっとした。
「まさか竜種を従魔にしているのかい! これは驚いたな! ということは、本当に凄い魔導師なのかい!?」
イケメンエルフがピーちゃんを見て目を輝かせる。
名前は聞いたが、こいつは心の中でも呼んでやらん。
「ブラウエル殿、私の恩人に対してそのもの言いは失礼ではないかしら?」
いや、クラウディアさんもピーちゃんを見る目がきらきらしてますよ?
まあ、今更か。
「いや、ごめんごめん。そんなに凄い魔力を持ってるようには全然見えなかったからね。気分を害したなら謝るよ」
謝ってるのか、それ?
どことなく貶してね?
俺も魔力の強弱とか分からんから、小物扱いされても仕方ないか。
「それで、何か用ですの?」
「ああ、クラウが衛兵に頼んでた彼の泊まる手配が済んだからね。手が空いていた僕が伝えに来たんだ。商協同盟の中隊を蹴散らしたという魔導師殿にも、個人的に興味があったからね」
「そうですか。それはお手数をお掛けしました。後は私の方で案内しておきますわ」
クラウディアさんもこいつが苦手なのかな?
さっさと出てけって聞こえる。
もっと言ってやれ。
「了解了解。では魔導師殿、僕はお邪魔みたいだからこれで失礼するよ」
そう言って、イケメンエルフは踵を返して去っていった。
去り方も颯爽として絵になってるなんて、やなやつだ。
しかし、さっきから心狭いなぁ、俺。
こんなに僻みっぽかったっけ?
「申し訳ないのですわ。テオも性根は悪い人間じゃないのですけど、アールヴ貴族としてのプライドが高くて。彼は騎士ですが、魔術を得意としているのでマグナ殿に対抗意識でも持ったのでしょうね。不快に感じたら私からも謝罪しますわ」
んー、それだけじゃなさそうだけどなぁ。
どっちかって言うと、クラウディアさんに悪い虫が付かない様に釘を指しに来た感じ?
クラウディアさんもさらっとテオとか愛称で呼んでるし。
辺境伯令嬢の騎士で美少女だもんなぁ。
さもありなん。
もしかして、クラウディアさんって鈍感なのかな?
いや、天然?
「いや、大して気にはしていない。何処の馬の骨とも分からん我に警戒するのは、ある意味当然であろう」
「マグナ殿は寛容ですわね。話は戻りますが、マグナ殿はこれからどうするつもりですの?」
そうだなぁ。
ここはやっぱりテンプレでいくべきかな。
「うむ。少し尋ねるが、この国には冒険者という職業、或いはそう呼ばれる者はいるか?」
異世界転移で職業の第一候補ったら、当然これだよね!
第二候補は知識チートで商人とか料理人とか?
「冒険者、ですか。いるにはいますが、冒険者とは名ばかりで、あんなものは無法者か無頼漢といったところですわよ? 傭兵たちのように戦争に参加して国に利することもそうはありませんし、強力な魔物を討伐出来るほどの者はそういませんの。ですが、中途半端に力があるから厄介なのですわ」
なんか辛辣じゃないですか?
クラウディアさん。
傭兵と冒険者は違うのか?
ラノベとかだと混ざってること多いよな。
「ほう。そういうものなのか?」
「ええ、冒険者崩れの野盗も多いですの。国を守る者としては、魔物と変わらず始末に悪い者たちですわ」
クラウディアさんの整った眉目がちょっと歪んでる。
美人が怒ると怖いよね?
「冒険者ギルド--組合のようなものは?」
「ギルド、とは何ですか? それは聞いたことがないですわね。マグナ殿の国では冒険者を管理する組織がありますの?」
「うむ」
頷いておく。
あったのは現実じゃなくて、ラノベとかゲームの中とかだけどね!
そういや冒険者って歴史にはないか?
んー、いやに活動的な考古学者か大航海時代の船長さん?
ギルドの概念も、ない?
職業や商業の組合が広まったのって中世じゃなかったかな?
「冒険者を取り纏めるような組織はないのですが、迷宮探索者であれば攻略するために町に腰を据えてますの。ですから、宿屋や魔石の売買を専門としている商会とは親密ですわね」
はい!
来ましたよ、これ!
厨二魂を震わせる素敵キーワード、迷宮!
つまりはダンジョン! そして魔石!
「迷宮があるのか。迷宮探索者とは、名前の通り迷宮を探索する者たちのことなのか?」
「はいですわ。迷宮に潜って魔物や魔獣を狩って生計を立てている彼らは、冒険者と違いそうそう一般人に迷惑なことはしませんの」
冒険者、相当嫌われてるなぁ。
でもギルドとかなくて統率が取れてないと、無法者ってイメージは分かるか。
「マグナ殿は冒険者になるつもりですの?」
「いや、ギルドがあれば仕事を斡旋してもらって、路銀を稼ごうと思ったのだがな。そういうことなら探索者がいいということか」
いやぁ、美少女にここまで嫌われてる職業になりたいとか、このタイミングでは言えないです。
ヘタレですまん。
「冒険者ギルド、ですの。そういう組織があれば、彼らも少しはまともになるのかも知れないですわね」
クラウディアさんは思案顔で考え込む。
ホントにダメなんだな。
冒険者って。
個人的にはイケメンに怨みはありません。(嘘っぽいな)