第92話 双剣と地竜王と大魔導師。
びしぃ!
なんとなく格好を付けて、伝説級の大杖を前に掲げて魔力を貯めたのはいいのだけれど・・・。
街中で攻撃魔法は野次馬を巻き込んじゃうからNGだよな?
クジマ倒した時みたいに【思考加速】と【隠密】のコンボか、【透明化】の魔法か?
いや、それだと俺の活躍が皆に分からないか。
でも、せっかくの主人公っぽいイベントだ。
英雄を倒して格好いい二つ名を付けて貰いたいです!
とすると、派手だけど威力は限定的で、殺さない程度の魔法か・・・。
それって超難しくね?
この人って、英雄扱いされてる方ですよね?
「待ちなさい!」
野次馬に囲まれて対峙するステファンさんと俺の間に、中心人物であるクロが割り込みました。
「クロティルド殿!?」
「クロ?」
「だから貴方は一体誰なのです? マイマスターと私を巡って争うなど・・・争うなど・・・むっ、なかなか良いシチュエーションですね。そのまま続けてください」
おい!
「マイマスター、頑張ってくださいね」
こら!
「マイマスター・・・いや、く、クロティルド殿、さっきからのその発言は、冗談なの、ですよね?」
悲壮感が漂うステファンさんがクロに問いかけました。
「何がですか?」
「その、私を覚えてないという・・・」
「覚えてませんが? そもそも会った事があるのですか?」
ががくぅ
「そ、そんな・・・」
うっわぁ
もの凄い勢いで崩れ落ちましたね?
野次馬の皆さんも、ちょっと情けない英雄の姿に若干引いてますよ?
パーティーメンバーさんは目を白黒させてます。
余程普段とはかけ離れた様子なんですかね?
「クロ、やっぱり知り合いなのではないか? 少し不憫になってきたのだが」
さっきから、クロが言葉で精神攻撃がクリティカルしまくってますよね?
彼の心のHPは、もうかなり減ってるんじゃないですか?
MP扱いだったら死にはしないのかな?
「クロティルド殿! 貴女とのあの運命の出逢いから、私は心を入れ替えて自らを鍛え直しました! すべては貴女と再び合間見えんがためにこの迷宮都市で研鑽を積んできたのです!」
涙ながらに語る壮年の英雄さん。
惚れた女に袖にされてる様な場面なのに、絵になっててちょっとムカつきます。
おっさんでもイケメンはお得ですね。
「そして、十数年を経て大迷宮の竜を倒す事を成し、ようやくウィンテンの迷宮に再挑戦する準備が整った矢先に、この様な・・・この様な少年に従魔にされているなどと! 一体、一体何があったのですか!?」
きっ!
いや、そこで俺を睨まれてもね?
「一体何が、と言われても、遥か高みにいらっしゃる至玉なる御方に出逢い、腹を見せて従っただけですが?」
「りゅ、竜種であるクロティルド殿が腹を見せて従った!? この少年に?」
あっ、今クロが言ってるのは多分ピーちゃんの事ですよ?
クロは俺のことを至高って言うし。
「えっ、竜種? あの娘さん竜の、化身なのか?」
「じゃあ、あの少年は竜を従魔にしてるってこと?」
「し、信じられねぇ。そんなの歴代の勇者ですらそうそういねぇぜ?」
「後ろの従魔たちも相当なもんだと思うんだが?」
さっきから、野次馬の中で貴方だけ目の付けどころがいいですね?
もしかして、魔獣使いさんですか?
「カルマ様! 申し訳ありませんがこちらへお越し頂けますか!」
『キュイ? キュ!』
ぱたぱた
クロに呼ばれて飛んで来たピーちゃんは、そのまま俺の右肩に止まった。
最近は仲魔たちと一緒の事が多かったので、そんな場面じゃないんだけどつい久々に喉をかりかりします。
ごろごろ
『キュウゥ』
うむ、やはりもふもふは至福です。
「さあ、貴方も名のある探索者というのであれば、この御方の素晴らしさが解るはずです!」
いや、あのね、クロさん?
この和み系小動物のどこを見て驚くと?
「ま、まさか!? 聖竜の幼体!?」
えっ、驚くの!?
というか、ステータスも見ないで解るんですか!?
「ふっ、尊き聖竜たるカルマ様と、それを従えるマイマスターの偉大さの一端が少しは理解出来ましたか? 決闘などしていたら、貴方は今頃この世に存在していませんよ?」
「クロティルド殿! まさか私の身を案じて!」
えっ、そんな流れだったっけ?
恋愛補正?ってすげーな。
っていうかこの人、クロが竜って知ってて惚れてんの?
十数年掛けて倒して、でもって従魔にしようとしてたの?
どんだけマジなの!?
「感動してるところですまぬのだが、あー、英雄殿?」
「ステファンかステフで構わぬ。で、貴様は一体何者なのだ? クロティルド殿ばかりか聖竜を従えるなど、並みの探索者ではないのだろう?」
そういやお互いに自己紹介してませんでしたね。
探索者としては一ヶ月ちょっとの並み以下なんですけどね?
そういえば、ギルドとかないのに中位とか上位ってどうやってなるんだろう?
「我は孤高にして万象を司る大魔導師アルス・マグナである! 心してこの名を刻め! ふはははははっ!」
大魔導師ロールプレイで高らかに名乗りを上げます。
さあ、野次馬さんたち、格好いい二つ名を付けるがいい!
いや、付けてくださいお願いします!
「あ、アルス・マグナですって!?」
と、ステファンさんの後ろで茫然としていた彼のパーティーメンバーの女性のひとりが目を見開きました。
眼鏡をかけたクール系のかなりの美人エルフさんです。
胸部はやっぱり残念(失礼)ですが、美人秘書みたいでこれはこれでいいですね。
スーツとか着てみてもらいたいタイプです。
「むっ、知っているのであるか?」
同じくパーティーメンバーのでかい盾を携えた大男が反応しました。
額に角あるし、オーガかな?
「知っているもなにも、つい数日前に私たちも聞いた名じゃない!」
「数日前?」
「何かありましたか?」
狩人風のスレンダーなダークエルフの女性に、小柄な魔法士風の優男の疑問が続きました。
ん?
何かあったっけ?
その頃って樹海かリンの迷宮にいたような?
あっ!
そういえば俺の活躍の場面がぐだぐだで無くなってないですか!?
またかっ!
マグナの名声が静かに浸透中?




