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エルクトンの街~星空~

「皆さん初めまして、マユカと言います。職業はクレリックです。レベルはまだ1なのですが精一杯頑張ります」


 好青年に連れられてギルド会館の中にある会議室の一室で、マユカは挨拶をした。


 好青年の他に4人居た。男女混合のメンバー。


 見たところ職業はバラバラのようだが、ずっと辺境の村に住んでいたマユカは誰がどの職業かはわからなかった。


「めっちゃ可愛い子やん! どこで捕まえてきてん!?」

「誘拐に決まっとーやろ! 無理やり連れてこられたに決まっとる!」


「おいおい、お前ら……」


 二人居る女性から責め立てられる好青年。


 意外と結構そんな感じのところがあるのだろうか。


 でも、すごく仲間同士の仲が良さそうではあった。


 こういうのが仲間って言うんだなーなんてマユカは少し羨ましく思う。


 前世では引きこもりのニートだったマユカなので仲間というものはネット上に居る晒しあげ仲間しか居なかった。なので、こういう純粋な仲間っぽい感じのことを経験したことがない。


 自分もこういう関係になれるのかもしれない。


 そんな淡い希望が胸にあふれた。


「マユカ、彼女がクレリックの君の先輩だよ。色々聞くと良い」


「あっ、マユカです。よろしくお願いします!」


 こういう自己紹介は慣れないのであたふたするマユカ。


「よろしくねマユカちゃん。というかめちゃくちゃ可愛いし! 胸おっきいし!! 何食べたらそうなるの!?」


「そんなっ、別に可愛くないですよ」


 マユカは内心そりゃそうだろなんて思いながら、猫を被って可愛らしく首を振る。


「はははっ! 照れちゃって~。可愛いな~。よし、おねーさんがマユカちゃんにクレリックのことを色々教えてあげよう! 魔法でもスキルでもどういう動きをしたらいいとか。わからないこととか知りたいことがあったらいくらでも聞いていいからねっ!」


 クレリックのおねーさんは、マユカを抱き寄せて頭をくしゃくしゃと撫でくりまわして遊びながら言ってきた。


「や、やめてくださいよー」


 少し抵抗しながらマユカは。あっ、なんだか仲間っぽい。なんて少し嬉しくなった。


「とりあえず、これからよろしくね」


「はい、よろしくお願いします!」


「そうだ、あとでとっておきのスキルを教えるよ。きっと役に立つ」


 クレリックのお姉さんはマユカの耳元でぼそっと言ってきた。


 それだけ言ってお姉さんは離れたのでマユカはお姉さんの目を見て軽くお辞儀した。


 こうしてマユカは好青年のパーティーに加わることになった。


 マユカのために簡単なクエストを選んで、みんなで楽しくクリアする。

 マユカの歓迎パーティーが開かれる。(マユカは未成年のため酒は無し)

 マユカにパーティーの戦闘においての動きの基礎を教えてくれた。


 数日の間だけでもこれだけのことを経験させてもらったマユカ。


 それが純粋に嬉しくて、純粋に楽しくて、自分も仲間というものが作れた気がした。


 レベルもみんなのおかげで5まで上げることが出来た。


 そんなある日の夕食時。


 ギルド会館の食堂でみんなとご飯を食べながらくつろいでいた。


 マユカと最初に声をかけてきた好青年以外はみな酒を嗜んでいる。


 マユカは未成年だからだが、好青年も普段酒を飲まないそうだ。


 だんだんみんなの酒の盛り上がり方がひどくなって行く。


 大声で叫び、大声で笑い。大声でしゃべる。


 マユカは周りの目が気になりオロオロとしていたが、


「大丈夫だよ。いつものことだ。それに見てご覧他の冒険者も気にしてないだろ」


「本当ですね。そういう人たちって思われてるってことですか?」


「いや、冒険者というものが大抵こんな感じだからだよ」


 そう言われて、マユカは、確かに。と思った。


 いつも食堂は賑わっている。


 昼夜関係なく誰かがここでお酒を飲んでいるイメージすらある。


「でも確かにみんなうるさいね。僕らは食べ終わったし、ちょっと外に出ようか」


「みんなを放っておいても大丈夫なんですか?」


「大丈夫。いつものことだよ」


 そう言われて、マユカは好青年とともにギルド会館を出た。


 夜のエルクトンの街の表外道は明るい。


 村の夜道とは違い、足元がちゃんと見えるのだ。


 それはとても便利だし安全だけれど、空を見ると、村より星空が少ないのが切ない。


「どう? 結構冒険者慣れてきた?」


「はい、おかげさまで」


「そっか、なら良かった。でも最初が僕らでよかったよ。ちゃんとレベルも上げれてるしこのまま行けば割と早くレベル一人前に慣れると思うよ」


「そうですか。頑張ります!」


 マユカは目をキラキラさせながら言った。


「ちょっとそこ曲がろう」


「はい」


 好青年に言われて、二人で右に曲がる。


 どこか行く場所があるのだろうか、表外道とは違い、歩いて行くと薄暗くなっていく。


「そうだ、そういえばまだお礼をしてもらってなかったね。いや、こちらから言うのも悪い感じするけど」


「あっ、それはすみません。本当に感謝しています。ありがとうございます」


 マユカはそう言いながら深々と頭を下げた。


「あー、お礼ってそういうことじゃないんだよな」


「?」


「わかってないみたいだな。こういうことだよ」


 狭い路地でいきなりマユカに振り返ったかと思うと、そのまま壁に背中を押し付けられた。


「ちょ、何をするんですか?」


「何って、礼をしてもらうんだよ。君の体でね」


そう言ってマユカの顔の横に壁を押し付けてる手とは逆の手でマユカの胸を揉む。


「君の顔と胸は最高だ。初めて見た時から気になってたんだよ。たまらない柔らかさだな」


「クズ野郎が」


 マユカはすべてを察した。


 助けたのも、パーティーに誘ったのもそういう目的だったのだと。


「最初からそのつもりだったってことでいいんでしょ?」


「はっ、そうだ。そのつもりで近づいたわけだ。あの戦士に金払ってまでしてな。光栄に思えよ、それだけ君の体は美しいってことだ」


 好青年は未だマユカの胸を揉む手を止めない。


 それを抵抗せず黙って揉まれるマユカ。


「どうした、怖くて動けないのか? だとしたらせめて喘ぎ声でも聞かせて欲しいものだが」


「そんな揉み方じゃ喘げねーよ。下手くそが!」


 それを聞いた男が平手打ちをマユカの顔にしようとした。


 が、マユカはそれを手で受け、相手が次の動作に動かないうちにもう片方の拳を好青年の顎を的確に殴りつけた。


 綺麗なアッパーカット。


 それはクレリックにはとても似つかわないほど綺麗な動きだった。


 脳が揺らされ、その場に倒れる好青年。

 当然意識は無いようだ。


「クズ野郎のくせに私の胸触りやがって、局部切り取ってやろうか?」


 苛立ちを隠せないマユカは、意識を失ってる好青年の顔を足で思いっきり踏んづける。


 いや、そもそもこの男を好青年なんて呼ぶのはもう無理だ。


 とんだクズ野郎だったわけなので。


「あ、でもナイフ持ってないな。残念チン」


 しかたがないので、男の荷物を漁って、カネと高く売れそうなものと使えそうなアイテムを貰い、その場を去る。


「にしても、クレリックのお姉さんには感謝しないと。格闘のスキルを教えてもらったわけだし。絶対役に立つから覚えてたほうが良いよ。って言ってたのはこういうことだったのかな」


 あの男はクズだったけれど、クレリックのお姉さんはどうしてあんな男のパーティーに居るのだろうか。


 それは知るよしもないけれど、マユカは少しだけ寂しくなった。


 正直この数日間はめちゃくちゃ楽しかったから。


 前世から憧れていた仲間というものが手に入るかもしれないと思ったから。


 少し希望を持ってしまったことと。人を信じようかなと思った気持ち。

 そしてその両方が同時に裏切られてしまったこと。


 人ってなんだろうなー。なんて空を見上げたけれど、やっぱり村とは違って星があまりちゃんと見えなかった。



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