エルクトンの街~パーティー~
「んあ~……。よく寝た」
宿に部屋をとったマユカは、久しぶりにベッドで睡眠をとった。
温泉に浸かった後、ゴスロリの服を着て、それまで着ていた服を捨て、更にパジャマを購入して宿に泊まったのだ。
「にしても、結構お金ってすぐ減るなぁ~」
50ブラン持っていたが、残りは25ブラン。
「宿代ってバカにならないから、安定収入を得ないといけない」
となると毎日こないだの様なことを続けるか、もしくは冒険者としてちゃんとギルドに通い、クエストをこなしていくか。その二択だった。
「短期間で稼げるのはやっぱあれだけど。私も冒険者なんだからクエスト収入で暮らすってのも悪く無いか」
マユカはクレリック。
いわゆるヒーラーなのだ。クエストによっては重宝される役職である。
それにマユカは1人なのでパーティーを組む必要がある。
そこで戦闘は他の人に任せてマユカは回復役に徹底する。
その構図がきちんとできれば、クエスト収入でも暮らせるはずだ。
「よし、イケメンで実は貴族の御曹司をゲットするぞ!」
マユカはそう決めると、素早く着替え、ギルドに向かった。
「へぇー、ここがギルド会館かぁ~」
赤レンガで作られた大きな建物。
見た目的には元の世界のナヴォイ劇場の様な感じだ。
行ったことはないので写真でしか見たことがないけれど……。
とは言え立派な建物であることに違いない。
「こんな立派なところに通う……。つまり私、セレブっ!?」
ここに通って報酬をもらう。つまり職場。という認識をマユカはしたけれど、そんなわけがない。
「とりあえず入ってみよう」
入ってみるとそこには様々な人が居た。
大体が冒険者らしく、格好がそれぞれ個性的だった。
やっと自分が剣と魔法の世界に来たんだなーと実感したマユカは受付らしきところに向かった。
「いらっしゃいませ。見かけない顔ですが、登録ですか?」
窓口に居たお姉さんの前に立つと声をかけられた。
「はい、えっと初めてなんですが、大丈夫ですか?」
「もちろんですよ。登録してカード作成しますので、こちらに記入お願いします」
そう言われて用紙を渡された。
割りと事務的な対応だなーなんて思ったけれど、窓口なんてどこもそんなものだろう。
テキパキと記入してお姉さんに渡す。
「なるほど、マユカさん……。職業はクレリックですね。んで……レベルは1と」
記入内容を口に出すお姉さん。
レベルに関してはあまり口に出してほしくないのだけれど……。
というかシルバー天使は使えないな。なんでレベル1なんだよ。
「あら、でも覚えてる魔法は結構使えるかもしれませんね。回復魔法に補助系。いい感じじゃないですか。ではカードを発行するのでその間適当にギルド会館の中に居てください。できましたらお呼びしますので」
そう言われてマユカは会館内をうろちょろしてみた。
色々な部屋があり暇はしなかった。
会議室、展示室、図書室、トレーニング室に食堂まである。
食堂に至ってはお酒も売っているようで、朝から酒盛りをしている人が結構いる。
「冒険者って自由奔放なんだな~」
酒盛りをしている姿を見て、マユカは率直にそう思った。
しばらく散策していると、係員の人が声をかけてきた。
どうやら冒険者カードが出来たらしい。
「マユカさん。カードが出来上がりましたのでお渡しします。これから冒険者としてがんばってください! パーティー募集の張り紙やクエストの案件は掲示板に貼りだされているので確認してくださいね」
「わかりました。ありがとうございます」
受付のお姉さんにペコリとお辞儀をすると、早速掲示板に行ってみる。
様々なクエストがあるけれどどれもマユカ1人では難しそうだ。
となると、やはりパーティーに加わるしかない。
パーティー募集の張り紙を見てみる。
幾つか回復役を募集しているのがあった。
「これならすぐ見つかるかも」
需要はあるようだ。この中からイケメンとか金持ちそうなところを見つけよう。
「おや? 君は仲間を探しているのかい?」
いきなり後ろから声をかけられた。
「はい、そうです。でも初心者なので迷ってまして」
男の声だったので少し猫をかぶりながら振り向く。
するとそこにはガチムチの戦士らしき人が立っていた。
「君、職業は?」
「クレリックです」
正直ガチムチはタイプではないので適当に話をするだけにしようと考えるマユカ。
「クレリックか、いいね。もし良かったら俺とパーティーを組まないか? 回復役を探していてね」
まさかの勧誘である。
ガチムチはやだな……。なんて思ったが、ここのパーティーにこの人以外の男もいるかもしれない。
「えっと、あなた以外はどんな感じのパーティーなのでしょうか。あなたは戦士みたいですけど他の人はどんな感じなのかなーって思いまして」
「他は居ない!」
「えっ?」
「俺は1人で冒険するのが好きでね。でも最近は相方が欲しいと思ってたんだ。いつまでも未婚じゃ辛いからな」
「相方……ですか」
この言い方だと結婚相手を探しているように聞こえる。
「そうだ、相方だ。人生を共に歩む。これは素敵なことじゃないか。そして君は美しい。ぜひとも俺の相方に!」
「お断りします」
即答だ。こんなの即答で断るに決まっている。
なんなのだこの男は。
「そんな。待ってくれ。俺のことをよく知らずに断るのは失礼じゃないか?」
「私のことをよく知らないのにそんなことを言っているあなたも失礼じゃありませんか?」
「いいや、全然失礼じゃない」
えええええええええ。何言ってるのこの人。
「とにかく、話をしよう。話をしたら俺の良さがわかるはずだ」
「わかりたくないし、話もしたくありません」
「やめたまえよ」
マユカが困っていたら、もう一人、男の人が声をかけてきた。
戦士風の男とは違って、イケメンの……職業はわからないが、背の高い細身の好青年と言った感じだ。
「なんだお前は、人の恋路を邪魔するな」
「恋路なら邪魔をしない。だが、その子は困っているし、嫌がっているじゃないか」
「そんなわけないだろ。むしろ喜んでいる!」
「人それぞれの趣味はあるだろうが、どう見ても喜んでいるようには見えない」
「何を言っている。邪魔者は消えてくれないか」
「本当に邪魔者だとしたら大人しく消えよう。でもその前に彼女に聞いてみよう。君はこの男に絡まれて困っていないか?」
「困ってます。助けてください」
「なっ!!」
戦士風の男がびっくりしていた。
本当に困ってないと思っていたのだろうか。
「これでわかっただろ、引き下がるのは君の方だ」
「くっ、覚えてやがれ」
戦士風の男は思いっきり足音を立てて去っていった。
「大丈夫かい?」
「あ、ありがとうございます」
「いいんだよ。困った時はお互い様だ」
「は……はい」
なんて良い人なんだろうとマユカは思った。
「君は新米冒険者なの?」
「そうですよ。今パーティーの募集の張り紙を見ていたところです」
「そうなんだね。職業は何かな?」
「クレリックです」
「クレリックかーなるほど。念のためレベルを聞いてもいいかな?」
「レベル1です」
「本当に新米さんなんだね。だとしたらうちのパーティーで少しレベル上がるまで一緒に来るかい? その後どうするかは君が決めたら良い」
「えっ? いいんですか?」
「もちろんだよ。うちには割りとレベルの高いクレリックが居てね、最初クレリックと聞いて、難しいかなと思ったけどレベル1ならむしろその人に色々教えてもらうと良い」
「それはありがたいです!」
「じゃあ決まりだね。じゃあみんなに紹介するよ。ついてきて」
「はいっ!」
マユカはなんの疑いもなく、その好青年についていった。