エルクトンの街~マユカの方針~
「お腹すいた……」
あれからマユカは歩き続けた。
途中、馬車が通りかかることはあったけれど、その時は隠れて見つからないようにした。
馬車に乗れば当然エルクトンの街に行くのは早い。
けれど、先に起こった出来事のことが脳裏に浮かんでしまう。
エロい目で見られることはしょうがないし、それをしてほしいからおっぱいが大きくしたわけなので嫌というわけじゃない。
嫌だと思うのは、人を金で裏切るという行為だ。
裏切る、ということなので、全く知らない人であれば別にいい。
善意を見せてこようとした人に関してはそうは思わない。先の件は、おばあさんが優しく接してきたというのがある。
偽善。
それが頭をよぎる。
こっちの世界の記憶が戻ってくるとともに前世の記憶が減ってきているけれど、あれが前世でも世の中や人が嫌いだった理由でもある。
マユカ自身もその嫌いのカテゴリーの中の人間だったのだけれど――。
「これは確か食べれるやつだよね……」
マユカは自分の知識上の食べれる草や実を食べていた。
きのこも生えてはいたが、流石にきのこを見分ける勇気はない。
「エルクトンではまずお金を稼がないと」
道に生えている草を食べるのなんてこの道中だけでいい。
山道を歩いているということで、靴はボロボロ、服は泥だらけになっている。
モンスターが出てきたらどうしようかと思っている部分はあったけれど、馬車が通るこの道、弱小モンスターは近寄らないらしい。
確かに考えてみたら、あの中年男性も冒険者というような感じではなかったのになんの躊躇もなくみんなの元から離れてあんなことをしようとしたのだから、一般的にもこの辺はモンスターが出ないという認識かもしれない。
「あと一日ぐらい歩いたら着くかな。遠くに街が見えるし」
なるべく早く街にたどり着きたいが、歩く速度はどんどん落ちている。
心身ともに疲れのピークに達している。
「あー、こんな時魔法とかでひとっ飛びできればいいのにー」
なんて現実逃避をしようとしたのだけれど――。
「あれ? 私魔法使えるじゃん!」
なんで今まで気が付かなかったんだ。
案外先の件を引きずっていたのかもしれない。
「回復魔法は傷とかだから今は意味ないけど、身体能力上昇させる系は今結構重要じゃん」
肉体強化、持久力UP、身体能力向上の魔法を自分にかける。
「すごい、めっちゃ体が楽になった!」
これなら一日とかからずにエルクトンの街に着くだろう。
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「やっぱ私が生まれた村と比べたらぜんぜん違う」
エルクトンの街のは高い壁に囲まれており、限られた入り口も大きな扉がいつでも閉めれるようになっている。
モンスターに備えているのだろう。住んでいる人の安全確保に力を入れている様子だ。
中に入ってみると、人と建物で溢れかえっている。
多種多様な店があり、その道を歩いている人々。店の前に立ち止まり商品を見たり、買ったりしているし、眺めているだけの人も多い。
その道を歩く理由が様々な感じがとても都会らしかった。
「さて、私もここで一稼ぎ!」
服しか着ていない、何も持っていないおっぱいの大きいかわいい少女。
稼ぐ方法は一つしかない。
「なるべく清潔そうで金を持ってそうな人を狙う」
マユカももちろんそれを理解しているし、正直それが一番簡単に多めの金を仕入れる方法だ。
しかし、流石にマユカは最後の一線だけは超えさせないというのを決めている。
だからこそシルバー天使に処女であることを条件にしたのだ。
自分が処女というのはとてつもなく価値をつけることができる。
その処女という価値を本当に利用する場にならないかぎりマユカは経験をするつもりはない。
「おっ、いい男発見」
街を歩いている、整った清潔感のある服を身に着けている痩せ型の男を見つけた。
綺麗な服を着ているということはお金を持っていそうだ。
「お兄さん、ちょっといいですか?」
なよなよしく声をかけるマユカ。
「どうかしたのかい? お嬢ちゃん」
「あの、お兄さんは気持ちいいことって好きですか?」
「それは気持ちいいことは大好きだよ。嫌いな人は居ない。でもそれがどうしたの?」
「えへへ、私は気持ちいいって思ってくれてる顔を見るのが好きなんだけど、お兄さんの気持ちいいって顔、見たいな」
「ほう、君はそんなに若いのに娼婦ってことかな。ふむ」
お兄さんはマユカが何を言いたいのか理解した様子で、マユカの体を下から上まで眺めてみる。
「確かに、良い体をしているね。よし、いいよ。近くに宿があるからそこで」
話が潤滑に進んだ。
見た目が良いとこんなに早く男が捕まるんだなーとマユカは思った。
お兄さんと共に宿に入り、ベッドのある部屋へと案内された。
「さて、お嬢ちゃんはいくらがいいのかい?」
行為の前に料金の話をしてくる辺り、このお兄さんは遊び慣れている気がした。
そうなってくると今度はいくら要求するのかに困る。
マユカはこの世界の相場を知らないし、自分の可愛さならどれだけ要求できるのかも知らない。
「お兄さんは、私にならどれだけ払える?」
「できるだけ欲しいってことか。うん、お嬢ちゃんは確かに若くて可愛い、しかもいい体をしているから高くても構わないよ。そうだな。100ブランでどうだ?」
100ブラン。お兄さんが請求した金額。
それはマユカが居た村で普通に働いた場合での平均で考えると3ヶ月分の報酬だ。
悪い条件ではない。
しかし。
「お兄さん。私、こういうことするの初めてなの」
欲を出してみる。もうちょっと出させる事ができると見込んで。
「はっは、お嬢さんそれはダメだ。なぜかって、それを証明しようがないからね」
流石遊び慣れしてそうなお兄さんだ、簡単には乗ってこない。
「そう、わかった。でも一つお願いがあるの」
「お願いか、そうだな言ってみてごらん」
「私、その……処女だから、それだけは奪わないで欲しい」
「なるほど、まぁ、処女かどうかは置いておいて、本番はしたくないってことか……」
お兄さんは手を顎に置いて少し考えた。
「よし、わかった。50ブランだな」
一気に値下げしてきた。
「ご……50ブラン……」
半額も減らされたのだ。正直それは大きい。
「お嬢ちゃん、これでもだいぶ高いと思うよ。エッチはしないのに50ブランももらおうだなんて普通はありえない話だ。でもお嬢ちゃんは可愛いから特別だということはわかってくれないかな」
お兄さんの言うとおりだった。
50ブランでも一ヶ月の給料よりも大幅に多いのだ。
一回そういうことをするだけ、しかも処女を守ったうえでということを考えると高い。
そしてマユカは今現在一文無し。
「わかりました。50ブランでお願いします」
マユカは承諾する。
「よし、交渉成立だね。じゃあベッドにおいで」
「うん……」
お兄さんに促され、お兄さんの隣に座るマユカ。
すると、お兄さんはマユカの肩に手を回し、顔をゆっくりと近づけ、軽くキスをした。