旅立ち~人の黒い部分~
「レベルを上げなきゃ……」
ルーガルーとの戦闘によって、圧倒的に攻撃力と防御力が足りないことを実感したマユカ。
しかし、現状として、ルーガルー相手にこんな感じなのだとしたら一人でレベル上げは難しい。
「エルクトンの街で仲間を作ろう」
コミュニティに参加して募集をかけるか、もしくはすでにかかってる募集に応募すれば仲間ができるはずだ。
そんなわけで、逃げ込んだこの村でお金を渡して服を譲ってもらい、破れた服は捨てた。
あの服はもう修復不可能だし、しょうがない。
破れた服と比べて全然可愛さのない服だけれど、贅沢は言ってられない。
あんなレイプされた後みたいな服で居るよりマシだ。
その後、乗り合いの馬車に乗せてもらい、エルクトンの街に向かう。
「ネットがない社会だからといって、ここまで交通の便が悪いのはどうなの……」
3日も馬車に揺られるということを考えると少し気が滅入る。
でもマユカ自身が日本を拒否したのだからしかたない。
我慢して知らない人たちと共に三日間の馬車の旅。
馬車にはマユカを含めて6人。老若男女様々だが、若い女はマユカだけだった。
あとの女性はおばあさんが一人乗っているだけ。
他の4人は男だが、これも若いのは居ない。中年男性が3人とおじいさんが1人。
「お嬢ちゃん、1人かい?」
おばあさんが声をかけてきた。
「はい、これから私旅に出るんです」
「おー、そうかい。冒険者なんじゃね」
「まだまだ弱いんですけどね」
苦笑しながらマユカは言う。
「謙遜しなくていいさね。それに最初から強い人なんて居ないんじゃから」
決して謙遜をしたわけではない。最弱の部類であるルーガルーに泣きながら逃げる程度の強さなのだから。
「これから頑張って強くなろうと思います」
ははは、と軽く笑って返した。
そのやり取りを横目で見てくる中年男性達。
何を考えてるのかわからないのでちょっと怖い。
その後は会話も無く、夜になり野宿することとなった。
外灯なんて無いから夜道は危ないので焚き火をしてみんなそれぞれ食事を取る。
その後馬車の警護の人はモンスターが現れないか見張り、乗客たちは眠りにつく。
マユカも疲れたので眠りにつこうとウトウトしていると。
1人の中年男性が静かに近づいてきた。
「お嬢ちゃん。ちょっと良いかい?」
「私ですか? なんですか?」
眠い目をこすりながらマユカが答える。
「馬車でクレリックだと話していたのを覚えててね。実は俺、怪我をしているんだが、治して欲しいんだ」
「それは大変ですね。早く言っていただけたらすぐヒールをかけましたのに。じゃあ治しますね」
「ちょっと待ってくれ、あまり他の人に怪我をしているとバレたくないんだ。だから少しついてきてくれないか?」
マユカは眠いながらに、傷がちょっとグロいのかな? なんて考えて中年男性についていった。
「どこを怪我しているんですか?」
「実はな、ここなんだよ」
中年男性は自分の股間を指差した。
なんて場所を怪我してるんだ。というのと、確かにそこなら他の人に怪我していて治してもらってるところを見られたくないという気持ちが何となくわかった。
しかし、よく見てみると中年男性の股間は不自然に膨れている。
「腫れてるんですか?」
「あぁ、すごく腫れている。これを治せるのはお嬢ちゃんだけだ」
「わかりました。治しましょう」
普段のマユカならそんなことは言わないが、眠いというので判断能力が鈍くなっていた。
正直さっさと治療して寝たい。
「じゃあ脱ぐぞ」
中年男性がズボンを下にやると、そこから硬くなったそれが直立している。
「んなっ!」
「お嬢ちゃん早く治して遅れ。手で触れてもいいし。口でも構わない。まさか嫌だなんて言わないよな。さっき治してくれるって言ったんだから」
「するわけ無いでしょ。この変態中年が! 10代の若い子相手にこんなことして恥ずかしくないわけ?」
「あ? 口答えするのか?」
いきなり低く声色を変えてマユカの頭を乱暴につかむ中年男性。
そして思いっきり自分の股間にマユカの顔を近づけようとする。
「何すんだこのクソおやじ! くっせーんだよ。離せ!」
「お嬢ちゃんがそんな可愛い顔してエロい体してるのが悪いんだろ。早く舐めろこら!」
「だれがこんなくせーもん舐めるか! 口が腐るわ!」
頭を強引に抑えこまれようとしているのを、中年男性の太ももを掴み、腕で必死に抵抗する。
本当ならこんな毛むくじゃらな太ももを触りたくはないが、これに触れなければもっとひどいものが顔にあたってしまう。
「こんなことしてただで済むと思ってんじゃねーだろうな。悪臭おやじが!」
「ほう、どうなるってんだ。言ってみろよ」
「はっ、強がってるけどな。私が今ここで叫んだらどうなるかわかってんのか?」
「誰も来やしないさ。だから大人しく言うことを聞いてしゃぶるんだな」
「きゃああああああああああああああああ。誰かああああああああああああ」
マユカは叫んだ。可愛らしい声で助けを求めるように。
しかし、なんの返答もなく、物音さえ聞こえなかった。
「だから無駄だと言っただろ?」
「くっそ、なんでだ……」
「みんな俺に買収されてんだよ。だから誰も助けになんか来やしない」
クズなのはこの男だけじゃなかった。
あの人の良さそうなおばあさんでさえ、買収されていたのだから。
全く、この世界も人間ってのはクズしか居ないのだろうか。
「はっ! そういうことならこっちだってなりふりかまってられねーな!」
マユカはそう言って、思いっきり中年男性の股間にアッパーをかましてやった。
「んがっ――」
中年男性はその場に倒れこむ。
戦闘力の低いマユカでも、急所に力いっぱいぶちかませば、やはり効くらしい。
「こんな汚くてくっせー物体に触れたくなかったけど、仕方ない。当分そこで悶とけ、おっさん」
そう言って、その場を去ったマユカ。
しばらくは走っていたが、追ってきていない様子だったので歩き出す。
一応、道を歩いているが、これからどうするか悩んでしまう。
「……荷物全部、あの馬車に置いてるんだけど――」
しかし取りに戻るわけにも行かない。
なにせ、あそこの連中はあの中年の男に買収されているんだから戻ったら何されるかわかったもんじゃない。
マユカに戦闘力があればまだ良いのだが、無いものを考えても仕方ない。
「貧乳クソ天使が稼いだお金も全部無くすはめになるなんて私本当に運が無い……」
そういえば、おっぱいポイントと美人ポイントは使ったけれど、運のポイントに関しては何も聞かされてない。
もしかしたら運は持ち合わせていない可能性がある。
「いやいや、これはあれでしょ。可愛いがゆえの苦悩みたいな感じでしょ。多分。こっからいい事があるに違いないもん」
前向きに考えることにした。
悲観的になってしまったらとことん悲観的になってしまう。
そうなってしまったら本当に運が逃げてしまう気がした。
「あっ、お母さんにもらったロッドも荷物と一緒だ」
運が逃げてしまいそうだった。
「とにかく、エルクトンに向かうしか無いね。ロッドが無くても魔法は使えるわけだし」
馬車で3日かかる道を歩いて向かわないといけないので時間は掛かりそうだけれどそうなってしまったものは致し方無い。
マユカは暗い道を歩き進んだ。