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ララオールの街~女の子の笑顔~

「マユカったら、すごい自信がありそうだったわね」


 アズミはマユカと別れてからどうやって稼ごうかと少し頭を悩ませていた。


「あの子一体いくら稼ぐのかしら。一週間だからそんな大した額じゃないと思うけど……」


 10ブランぐらいかしら?

 とつぶやきながら歩いていると、道で泣いている女の子を発見した。


「あらあら、どうしたの?」


 おそらく迷子だろうと思い、5歳位の女の子に近づくと、目線の高さを合わせるようにしゃがみ、声をかける。



「おかーさんがね、ぐす。どっかいったの、ぐす」


「そっかそっか、じゃあおねーさんと一緒に探しましょう!」


「おがーさーん」


 やはり知らない人が話しかけられるのは怖いのか泣き出してしまった。


 どうしようと少し考えたアズミは何かを思い出したかのように鞄の中から棒についた大きな飴を取り出した。


「これすっごく甘いよ~」


「あめ……!」


 女の子は左手で涙を拭いながら右手で棒をつかむ。


 小さい舌をだしてペロペロと舐めだした女の子は泣き止んでアズミの手を握ってきた。


 アズミはそっと手を握り返すと、二人で商店街を歩き、母親を探した。


暫く歩くと、


「あっちゃん!」


 という声がしたかと思うと、女の子がアズミの手を離して駆け寄っていった。


「おかーさん!」


「あっちゃん、どこ行ってたの。心配したじゃない」


「あのおねーさんが助けてくれたー」


 その言葉を聞いて、母親はアズミに近づいて礼を言う。


「気にしないでください。これもクレリックとしての役割みたいなものです」


 笑って返すと。


「おねーちゃんクレリックなの?」


「そうだよー。これでも結構レベル高いんだから」


「じゃあおねーちゃん。お父さんを助けて!」


「こら、あっちゃん。お姉さんにこれ以上迷惑かけちゃダメでしょ」


「えっ、どうしたんですか。お父さんがどうとか」


「いや、うちの人、出稼ぎに行ってたんですが怪我して帰ってきたんですよ。それで薬を買いに来たんです」


「そうだったんですか……。家はどこでしょうか?」


「え?」


「私がお父さんの怪我を治します」


「でもそんなご迷惑をかけるわけには……」


「迷惑じゃないですよ。それに……」


 こんな小さい子の悲しい顔が見たくないだけです。

 と、アズミは言った。



 家に案内されたアズミは、女の子のお父さんが寝ている姿を見ると絶句した。


 足は骨折しているのか吊るされ、見えている範囲でも包帯で巻かれている箇所が多い。


「実は……。街の教会に居るクレリックの方には治すことができない。ある程度薬で治れば可能性はあるけど……と言われまして」


 しかし、これでは薬である程度回復するというのも難しいのではないだろうか。


「……私に任せてください」


「おねーちゃん治せるの?」


 女の子が心配そうに見つめてくる。


「お姉さんに任せて! お父さん元気にするからね!」


 そう言って、アズミは回復呪文の最上級魔法の呪文を唱えだした。


====================================


「おねーちゃんありがとう!」


「お父さん元気になってよかったね」


 アズミは女の子の頭を撫でた。


 回復魔法とはいえ最上級の魔法は流石に魔力消費が激しい。


 少し座らせてもらって休んだが、長居するのは失礼だと思ったアズミは女の子に手を振って家を出ようとした。


「おう、ねーちゃん。待ちな!」


 後ろから声をかけられる。

 見つかってしまった。


「もっと休んでいけばいいじゃねーか」


「いいえ、それは失礼かと思いまして」


「失礼なんかじゃない。こっちはどんだけ礼をしても足りないぐらいだ。家内も晩飯の買い物をしに行った。せめて晩飯食べて行ってくれ、あんた冒険者だろ? 礼をする機会なんて今を逃したらないじゃないか」


「私は、その子の悲しい顔が見たくなかっただけですから。なので礼には及びませんよ。そうですね、次は怪我しないようにお気をつけてくださいね」


 そう言って家を出ようとする。


「……わかった! じゃあ止めない! だが、これは受け取ってくれ!」


 そう言って差し出されたのはずっしりと重い袋だった。


「これは……」


 袋の中を見たアズミは驚愕した。


「ダメです! こんなの受け取れません!」


 袋を突き返そうとしたが、女の子のお父さんは受け取らなかった。


「ねーちゃんは言ったよな。この子の悲しむ顔が見たくなかったと。俺が怪我したままだったら……いや、もし俺があのままだったら命を落としていた。そしたらこの子はもっと悲しい思いをしただろう。だが、ねーちゃんのお陰でこの子は悲しまずに済んだ。だからそれはその対価だ。あんたがもらうべき物だ。だからもらってくれ」


「ですが……」


「じゃないと買い物に言った家内に帰らせたと言ったら大目玉だ」


 そういってニカッと笑顔を見せられたので、アズミは軽くため息をして肩を落とし、


「わかりました。有り難く頂きます。どうかお元気で」


「おねーちゃんほんとうにありがとう!」


 女の子の笑顔に見送られ、アズミはその家を後にした。


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