ララオールの街~共に旅をする仲間~
「さあ、ララオールの街に着いたわ!」
マユカはそう高らかに言う。
横で何やら言いたそうなアズミを、無理やり無視するように。
「早速街の探索をしましょう。この街もきっと素敵な街だわっ!」
そう言ってマユカは歩き出したが、相変わらずアズミはマユカにジト目を向けるのをやめない。
「何よ! 何か言いたいことでもあるのっ!?」
耐えきれなくなったマユカがついにアズミの方を見る。
「いや、別に目的のない旅だというのも知っているし、行き先は任せたけれどさ……」
流石に道に迷ったとかそういうわけじゃないわよね?
そうアズミは問いかけてきた。
「え? いや、道には迷ってないわよ。エルクトンを出るとき、ララオールに向かおうと思ってたし。言ってなかったっけ?」
「それは聞いてない。……でも、それを聞いて新しく質問したいことができたわ」
「なに?」
「なんでエルクトンの後にララオールなのよ」
エルクトンの街は所謂冒険者初心者が集う街だった。
そして、今マユカ達が着た、ララオールという小さな街は、その初心者たちがエルクトンへと向かう街なような街だ。
つまり、小さな田舎街。
「なんでって言われてもなー」
「しかも、さっきマユカはララオールに向かうつもりだったって言ったってことは、今後のとりあえずの行き先は決めているわけよね?」
「おっ! 流石アズミ。わかってんじゃーん。私は王都じゃなくトォールーズをとりあえず目指しているわ」
「北を目指しているわけじゃなかったから王都じゃないのはわかってたけど……」
呆れるようにぐったりと肩を落とした後、目をキッとさせ、アズミはまた口を開く。
「突っ込みたい所はそこじゃないの! トォールーズならもっとちゃんとした道なりがあるでしょ!!? エルクトンからトォールーズはブリラブガイアルドに行ってそのまま南下すればいいじゃない!!」
地図を見なさい地図を!
とアズミはマユカに地図を見せてバンバンと地図を叩いた。
「あー、そのルートはダメよ」
「なんでっ!?」
「私、チョール出身だから、そのルートだと故郷通っちゃう」
「……だから山越えして、ララオールに行ってから南下するルートにしたの?」
「その通り!」
にっこり笑顔でVサインをアズミに向ける。
「何よそのポーズ」
「Vサイン」
「……どういう意味?」
アズミの言葉でこ、の世界にはVサインというものが存在しないのだというのを思い出したマユカ。
「そうね、なんかこうVって感じよ。可愛いでしょ~。ダブルピースなんてしちゃうとそりゃもう乙女感抜群の破壊力よ」
そう言って、顔の両側にVサインを作ってアズミに笑顔を見せてみる。
「…………可愛いのは認める」
おや? 案外ちょろい?
というかやっぱりレズ疑惑?
「流行らせていいよ」
「私も今度やってみようかな」
「アズミも美人だから似合うんじゃない?」
アズミは顔が整っていてセミロングのマユカより5~8センチほど背が高い可愛い系の女の子である。
Vサインが似合わない訳がない。
マユカがアズミを美人だと言ったのは、可愛いのは私だという自負と一応年上への敬意として可愛いという言葉を使わなかった。
「似合うなら良いけど、今度練習してみよう」
よし、上手く話を逸らせた。とマユカは思いつつも他の話を思い出していた。
稼いだ金額で勝負だとこないだ言ったけれど、よく考えたらアズミはひとりから摂取出来る金額が多いのではないだろうか。
「一つ聞き忘れてたんだけどさ……」
「ん、何よ改まって。答えられることだったら答えるけど、答えたくないものだったら答えないわよ」
Vサインを右手で作りながらウインクしたり、首をかるくかしげてみたりと、色々なポーズを取りつつ返事を返すアズミ。
「アズミってさ……」
「うん」
「その……さ……」
いざ本人に聞くとなると結構聞きづらい。
これだから対面は……。
「だからなに?」
「しょ、処女なの!?」
「んなっ!!!?」
Vサインの練習をしていたアズミはいきなりどこから出したかわからない声を上げる。
「ん、な、ななな、なに聞いてるのよ!」
「いや、やっぱ直で聞くのは恥ずかしかったけど……実際どうなのかと」
「そ、そんなのあれよね。普通にあれよ。なんというかレディーの嗜みというか。その大人への階段というか。通過儀礼というか」
明らかに早口なアズミ。
「やっぱそうよねー。アズミって私より年上だろうけど、いくつなの?」
「ひ、人の年齢を聞くときはまずは自分からよね」
明らかにまだ動揺している様子のアズミだが、マユカは対人スキルが無いためこれに気づいていない。
「私は14歳。アズミは?」
気づけば村を出てから一年経っている。先日誕生日を迎えたので今は14歳。
ついに結婚ができる歳になってしまった。
「14か。やっぱまだ若いわね……というか14歳でこの胸って……」
「いや、おっぱいについては今更だからもういいからアズミの年齢教えてよ」
「私はマユカの4つ上。18歳よ」
18歳。ということはやはりもう経験済みなのかな。とマユカはぼんやりと思った。
これだけ美人なのだから男はきっと寄ってくるだろう。
「18歳かー大人だなー」
「まぁマユカよりは大人かもね」
やはり経験済みなのだろう。
そこで、前世はとうとう処女のまま死んでしまったマユカは聞いてみることにした。
「あ、あのさ……やっぱエッチって……気持ちいいの? でも初めては痛いって聞くし……どうなのかな?」
「ひぇっ!? え、え、え、え、えっち? エッチ……そのえっと……あの……」
「ん? どうしたの?」
「いや、べ、べつに。知ってるわよ。うん、知ってる。エッチね。そりゃあれよ。まあそんなところよ!」
答えているようで全く答えてないアズミだが、マユカは何を思ったのか、それが返事と捉えたらしく、
「やっぱそうなんだー。痛いのは嫌だけど、気持ちいいのはホントなのかー……」
などとわけのわからないことをつぶやいている。
「ま、マユカは経験あるの?」
「いや、処女だよ。というかだから聞いたんだよ」
「そ、そっか。うん、そうよね。よし!」
「……今、よしって言わなかった?」
「言ってないわよ?」
「……どうせ子どもだと思ってバカにしてるんでしょ。というか怖いんだからしょうがないじゃん」
「別にいいと思うよ。それが全てじゃないし。それがなくても生きていける。というか男なんてものは要らない。女だけでいいのよ!」
「あ、はい」
アズミはもしかしたら過去に男に対して嫌なことがあって、それで男嫌いになり、女の子趣味になってしまったのではないだろうか。などとマユカは感じたが、それはあえて言わなかった。
しかし、やはり、男経験のある相手となると稼ぐ金額で優位になるのでは、と考えるマユカ。
「金額勝負するって言ったけど、やっぱりアズミは勝てる算段があるってことよね?」
「そりゃー。いくら可愛いって言っても年下に負ける訳にはいかないわよね」
ということはあるのだ、算段が。
「くぅー。やっぱりやっちゃうほうがお金稼げちゃうのかなー。アズミはその手でくるよね?」
「あ、あぁ。そう。そりゃそうよ! もうそんな感じでバシバシ稼いじゃうから」
「じゃあやっぱ私は数をこなさないとダメかー。期間は一週間だよね?」
「一週間で! って言ってたけど、この街でその勝負をするの?」
「確かにあんまり大きな街じゃないから、客がかぶっちゃうかもね。でも私は最後までやらないから姉妹にはならないわ」
「姉妹? なんだか言ってる意味はわからないけれど」
「でもまぁ、今日明日ぐらいはゆっくりして、そこから勝負にしない?」
街探索を今からしたいと思ってたがその前に疲れた。
と言っても、それ以外で正直旅疲れはあるので久しぶりにベッドでゆっくりしたい。
「私はマユカがよければそれで、んじゃ私は街探索でもするかな。掘り出し物が売ってるかもしれないし」
「じゃあ宿とってから夕食までは別行動でってことで」
「もちろん宿は同じ部屋で――」
「うん、そのほうがお金の節約になるし」
「いいの!?」
「えっ……。うん……部屋2つ取るよりベッドが2つある部屋とったほうが安いし……」
「じゃあ、早速宿に行きましょう!」
アズミって結構硬い感じの人かと思ってたけど、あんがい良い意味で変な人かもしれない。と思いつつ、二人で宿に向かう。
「あー、うち一人部屋しかないんだ。すまんな」
「そ……ん……な……」
がっくりと肩を落とすアズミ。
そんな姿を見て、アズミと一緒に過ごすのって思ってた以上に面白くなるのかもしれない。と思うマユカであった。