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闇堕ち

「マユカさん……。もうダメです……」


「は? まだ開始したばっかりじゃない。何言ってるのよ」


「だって、俺……もう限界なんです……」


「我慢しなさい。私はまだ全然楽しめてない」


「無理です……。もう体力の限界です……。これ以上動けません……」


「意気地なし! もっと動きなさいよ。体で返すって言ったでしょ!」


 森の中で二人の声が聞こえる。

 しかもメリオスの息切れが激しく、呼吸が荒い。


「あ、もう限界です……」


 メリオスはそう言って倒れこんだ。


「は? 誰が倒れていいって言ったのよ。立ちなさいよ! まだクエスト二個目じゃない! 体力無いとかそういう次元じゃないわよ」


「だって……荷物が……」


 うつ伏せに倒れているメリオスの背中には大量の荷物があった。


 それもそのはずだ。今までマユカは1人だったためドロップアイテムは厳選して持ち帰っていたのだけれど、それをすべて持ち帰るためにメリオスにすべてのアイテムを持たせている。


 もちろん、ドロップアイテムだけでなく、いつもより持ってくるアイテムも多くしているのでその分のアイテムもメリオスに持たせている


「ぜ、全部ドロップアイテムを持ち帰るのって普通なんですか?」


「そりゃそうでしょ。売れば多少なりともお金になるわけだし、使えるものは自分で使うし。あるにこしたことはないじゃない」


 普通は売っても対して金にならないものは持って帰らないし、ある程度の厳選はするのだけれど、自分で持たなくても良いということから少しでも金になるならという欲がでていた。


「もう帰りましょうよ~」


「男がそんな情けないこと言うな。クズかお前」


「女の人がそんな言葉遣いするのも……」


「なにか言った?」


「い、いや……。折角可愛いのにって思って……」


「可愛いからなに? 可愛いから大人しく男に媚を売れってこと?」


「そういうわけじゃないですけど……」


 メリオスがそう言いながら目を泳がせる。


「なに胸みてんのよ!」


 そう言って倒れたままのメリオスの頭に思いっきり足で踏みつける。


「見たんじゃないです。見えたんです」


「ほう、じゃああんたは私が胸をあんたに意図的に見せた。そう言いたいわけね」


「違います。ほんと違います」


「…………。ちょっと気がついたんだけどさ。あんたってもしかして……M?」


「えっと、Mってなんですか?」


「そこから説明するのはだるいから自分で調べといて」


「は、はぁ……」


「どうでもいいけど早く立ってくれない? さっさとクエストクリアして報酬貰いに行くわよ」


「実は……立ってるから立てないんです……」


「…………は?」


 トンチかなにか?

 とマユカは思ったけど、すぐに、立ちたくないだけの言い訳だろうと解釈した。


「いいから早く立ちなさいよ」


「嫌です」


「は? 何いってんの。私に抵抗する気?」


「そうじゃないんです。そうじゃないんです。でも立てないんです。というか立ってるんです」


「私をバカにして――」


 そこまで言ってマユカは気がついた。


「このクソ変態! やっぱりMじゃねーか! というかMどころかドMやん!」


 そう言って更に力強く踏みつける。


「あぁ……。ありがとうございます」


「今ありがとうございますって言った!? はっ!? 気持ち悪!!!!」


「すみません、つい心の声が……。もっと踏んでください。ハァハァ」


「このケダモノが!!!!!」


 マユカはメリオスの顔面を思いっきり蹴った。そりゃもう全力で。


 しかし。


「あぁ、なんていう絶妙な手加減……。本当に素敵です」


 クレリックのマユカの脚力ではドMにとってちょうどいい具合だったようだ。


「くっ……」


 屈辱以外の何者でもなかった。


「お願いします。そのおっぱい。見せてくれるだけでいいんで。触りたいけど、触らせてくださいだなんて贅沢は言わないので、お願いします。全部ポロンと見せてください」


「誰が見せるかぼけがああああああああ」


 足では喜ばせるだけだと思い、ロッドを本気で頭に殴りつける。


 何度も何度も。


 すると、メリオスが静かになった。


 頭から真っ赤な液体が大量に流れていることに気がつく。


「あっ、やべ」


 このまま殴り続けたら死んでしまう。


 いや、むしろこのまま放置しても死んでしまう。


 メリオスは完全に意識を失っている。


 気持ち的にはこのまま帰りたいけれど、放っておいたら殺人犯になってしまう。


「……モンスターのせいにできたとしても、罪悪感は一生拭えないかもしれない」


 そう考えると方法は一つしかなかった。


======================


「いやー、本当にマユカさんは優しいですね」


 美味しそうに肉を頬張るメリオスが言ってくる。


「死にそうになってる俺に回復魔法をかけてくれただけじゃなくこうしてまたご飯をおごってくれるだなんて」


「…………」


「いやー、本当にマユカさんは見た目も中身も素敵ですね。あ、もちろんおっぱいも素敵ですよ」


「黙って食べろ……」


 マユカはそこまで殴りつけてしまった罪悪感からクエストから帰るときは荷物を多少持ち、クエスト報酬でまたメリオスにご飯を食べさせていたのだ。


「今後はやっぱちゃんとおっぱい見せてくれたり、その度に俺を罵り、更には可愛らしい喘ぎ声を聞かせてくれるようになるんですね!」


「そんな展開は一切ないわ。むしろあなたとはここでお別れ、もう二度と会うことがないわ。バイバイ」


「殺人未遂って立派な罪なんですよねー」


「…………脅すつもり?」


「いえいえ、そういうわけじゃないですけど、あぁ、この人、自分で回復魔法をかけて飯でも食べさせておけば大丈夫だろう。みたいなこと考える人なんだなーって」


「…………何が望みなのよ」


「そうですね。俺からは別に何も望みません」


「は?」


「マユカさんが俺に対して贖罪するのでは俺は止めませんよってことです」


「ものは言いようね。もしかしてずっと演技だったわけ?」


「さぁ、それはどうですかね。ただひとつ言えば、俺はドMではない。ということですね」


「そうね、あんたはドMじゃないわ。ドMと見せかけたドSだわ」


「いやいや、そういうのは違うんじゃないかな。だって俺が何かを求めたわけじゃないからな。あくまでマユカがしたければしたらいいってだけだ」


「……そういうのをドSって言うのよ」


「で、これからどうするんだ? 贖罪をするのか、それとも殺人未遂の罪で牢屋で暮らすか選ぶ権利はマユカにあるけど」


 ニヤニヤとしながら見てくるメリオスに対して、マユカはそっと流し目をして俯く。


「そんなの……決まってるわ……」


「そうだよな。じゃあ疲れたし、飯を食ったら早速宿に行って休むか。なっ、マユカ」


「あら、何を言っているのかしら」


 マユカはメリオスに優しく微笑む。


 そして、ゆっくりと表情を変えていく。


「私を騙そうとした覚悟はちゃんとできているわよね?」


 マユカは少し笑いそうになるのをこらえながら冷ややかな目で睨みつける。


「はっ、何を言っているんだこの女は、状況がわかっていないのか?」


「状況がわかっていないのはあんたの方よ」


「そんな子ども騙しみたいな脅しに俺が応じるとでも?」


「そう、今後あなたがもう二度と私に近づかないという条件を飲むのなら、見逃してやってもいいと思ってたんだけど、しかたないわね」


 マユカはそう言うとパチンと指を鳴らすと、店中の客全員が立ち上がった。


 全員男で職業は様々で、どれもレベルが高そうだ。


「……?」


 状況がまだ飲み込めてないメリオスにマユカが説明をしてやる。


「私はね、あることがあってから人を信じられなくなったわけ、だからお金や私の体を対価に色々味方をつけたのよね。まぁ、まだ人数は少ないけど。この店は完全に私の味方しか居ないわけ」


「はっ、なんだ、純粋そうな顔しやがって、ただの売女ばいたじゃないか」


「勘違いしないでほしいわ。この人達は私の体に一切触れていない。むしろ私に触れようとしたらどうなるのか、この人達が一番知ってるかもしれないわ」


 そう、マユカは人を信じられない。だから味方と言っているがこの護衛団のことも1人1人に対して信用なんてしていない。


 だからこそ、自分に興味のある人を集めたし、その上でお互いを監視させている。


 もちろん、ご褒美をあげなきゃ味方になってもらえるわけがないので、こういうことが起こった場合に、触らせはしないが性的にサービスをしてやっている。


 それだけで、男はわりとなんでも言うことを聞く。


 この世界に写真というものがない為、成り立つのかもしれない。


「はっ、こんなの訴えたらどうなるのかわかっているのか?」


「私からはあなたに最後に三つ言うわ。まず一つ、あなたは私のことをわかってない。二つ目、私がそっち方面にも手を打ってないと思ってるのがおかしくて笑い転げてしまいそうだわ。三つ目、死になさい」


 マユカはそう言って立ち上がって店を出た。


 メリオスの叫び声が聞こえるがそんなことはお構いなし。


 村を出てから学んだことは人を信用出来ないということだけではない。


 人を利用したほうが有利なんだということ。


 そのためにマユカは冒険者としてクエストを消化しながら水面下で活動してきた。


 人の死に関しても、自分が直接手を下してないのならなんとも思わない。


 人はいずれ死ぬものだし、それが少し早くなっただけ。


 私が良ければそれでいい。


 店からの叫び声はもはや悲鳴に変わった。

 おそらく泣きながら命乞いでもしているのだろう。


 その声を聞きながら、マユカは口頭が上がってしまった。



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