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下僕の獲得

「こちら、マユカさまがクリアしたクエスト報酬になります」


「ありがとう!」


 窓口で通貨を差し出してきたお姉さんに笑顔で答える。


 毎日チマチマもらうのは好きではないので、クエスト報酬は10日に一度もらうことにしている。


 一ヶ月では長いし、かと言って毎週というのもだるい。


 マユカは一気にある程度のお金が手に入る喜びを知ってしまったから。


 結構な小出しでもらうと案外使ってしまうことが多い。


 それをここ二ヶ月でマユカは学んだ。


 そして、未だにパーティーは組んでいない。


 あれ以降、あまり人を信じれなくなったからだ。


 最初の方はクエストクリアするのに苦労したけれど。

 教えてもらった格闘スキルがあったため、以前よりも戦うということが出来た。


 パーティーでの戦い方も教わったからそれを応用して、1人で戦う場合。

 つまり、戦闘中に行う優先順位を自分で決めてそれをちゃんと守れば戦えなくはない。


 主に、回復を再優先でやれば、時間はかかってもモンスターを倒すことが出来る。


 大事なのはパニックにならないことだ。


 そして、MPの管理もキチンと行う。

 MPが尽きてしまえば格闘スキルがあるとはいえ、体力や防御力の低いクレリックではいつ死んでもおかしくはない。


 なのでMP回復ポーションを大量に保持していることにしている。


 HP回復ポーションよりも値段が張るが、他の魔法も使えるのでMPポーションの方が使い勝手が良い。


 それに戦闘中だとHP回復は魔法のほうが断然早い。


 本当に切羽詰まった状態だとアイテムを取り出すという行為は中々にロスなのだ。


 1人だと極力そういった手間を省くほうが潤滑に進む。


 何分、自分の命がかかっているのだ。

 効率化を図るのは当然だった。


「んー。35ブランかぁ~」


 まだまだ初級のクエストしか受けていないので当然報酬も少ない。


 とは言うものの、10日で35ブランなのだから冒険者以外の一般の人から見ると高い給料だ。


「命をかけてこの値段はやっぱり割に合わないな~」


 やっぱりおっぱいで稼いだほうが楽なのだろうか。


 そんなことを考えながらギルド会館を出て、なにかご飯でも食べようと歩き出そうとすると。


「テメエ! どこ見て歩いてるんだ!!」


「ひぃ、すみません。すみません」


「すみませんじゃねえってんだ!」


 一応冒険者らしき服装の貧相な不細工が、戦士風のいかつい男に突き飛ばされていた。


 貧相な不細工が転げまわって目を回しているうちに戦士風の男が唾を吐き、不機嫌そうにギルド会館に入っていった。


 まったく、荒っぽい人が居るんだな。


 なんて思い、その場をスルーしてマユカは、ご飯♪ ご飯♪ とスキップしながら進み始める。


「うぅ……。うぅぅ……」


 すすり泣く声が聞こえてきた。


 振り返ってみると先ほど突き飛ばされた貧相な不細工が泣いている。


 なんて情けない男なんだろう。

 マユカは哀れみの目で見る。


 しかし、同情はしない。


 人に対してなんらかの感情を持つ、というのは自分に得はしないというのを学んだから。


「うぅ……うぅぅ……。なんで俺は……なんで俺は……」


「…………」


 マユカは思わず立ち止まってしまった。


 前世、モテず、コミュ症で社会に適応出来ず、ニートになって部屋に引きこもり、全く知らない人を叩く日々。


 心では、なんで私は……。なんであいつらは幸せそうなんだ……。


 と思って自分の不幸を呪っていた。


 そんな自分とつい重ねてしまう。


「ほら、大した怪我じゃないんだから、立ちなさいよ」


「えっ……」


 困惑する男。


「いいから立てって言ってんの!」


「はっ! はい!!」


 慌てて立ち上がる男。


 マユカはその男の全身をとりあえず見る。


「擦り傷しかしてないわね。まぁ、回復魔法する必要はないわ。あなたね。男なんだからもっとピシっとしたらどうなの? 見てて苛々するんだけど」


「す、すみません……。よく言われるんですが、どうにもなおらなくて……」


「はぁ、まあ私には関係ないから良いけど。じゃあ、元気で。もっとビシっと生きなさいよ」


 それだけ言って、マユカは去ろうとすると。


 ぐぅ~。


 と音がなった。


「…………。おなかすいてんの?」


「はい……」


「はぁ……。ついてきなさい」


=======================


「ちょっと、もっと綺麗に食べなさいよ。がっつき過ぎでしょ」


「す、すみません。実は3日も何も食べてなくて……」


「は? あんた金は?」


「実はカツアゲにあいまして……」


「…………。一応冒険者なんでしょ? クエスト報酬で稼げばいいじゃない」


「僕、すごく弱くて……。それでパーティーにも入れてもらえず、1人ではとても戦えなくて……。それで何も出来なくて……」


「ほんっと情けないわね。ここの料金は全く気にしなくていいから好きなだけ食べなさい」


「ありがとうございます。ありがとうございます。めちゃくちゃ可愛くて、優しいだなんてもう天使みたいな人です」


「感謝はしてもいいけど、その言い方やめてくれる? 私は別に優しくもないし天使でもない」


 それに実際の天使。シルバー天使は性格的に全然天使っぽくないし。


「す、すみません……」


「――おい」


「はっ、はい!」


「今あんた、胸見たでしょ」


「す、すみません……。あまりにも素敵な胸だったので……」


「そういうのだけは一人前だなんてホント救いようがないわね。あんた名前は?」


「メ、メリオスです」


「……名前だけはなんか立派なのね」


「すみません……」


「そのいちいち謝るのやめてくれる? 苛々する」


「すみません……」


「…………」


 イラっとしたけど無視してマユカも食事をする。


 そして会計。


 想像以上に高い金額だった……。


「…………あんたどれだけ食ってんの?」


「すみません……」


「はぁ、まあ好きなだけ食べろって言ったの私だし。しょうがない。体で払ってもらうしか無いわね」


「か! 体!?」


「なんで嬉しそうなのよ。気持ち悪いわね。そういう意味じゃなく、クエストで稼いでもらうってことよ。報酬の割合を9:1で分けましょうってことよ。もちろん私が9」


「わ、わかりました……。でも俺弱いですけど……」


「だから9:1なのよ。あんたは私のために働く。それだけでいいの。さて、行くわよ」


「はっ! はい!!」


 マユカはメリオスを連れて、再びギルド会館へ向かった。



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