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太陽系興亡史  作者: 双頭龍
第3章目的のためには教育だ
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第12話

 ええーい、ドクトリンの話に入れなかったじぇ。次は間違いなくドクトリンです。取りあえず昨今の状況から5000文字あたり完成しだい投稿しております。その日のテンションによって文章の質が上下するのをなんとかしたいのですが、まあ無理でしょうね。 あと、目下不定期投稿になっております、大変申し訳ございません、頑張って定期更新にしま……、たいです。

 「どの文明であっても、どの時代であっても、滅亡の危機は常に存在するわ。例えば今なら隕石や星の周期による気候の変動、それに伴うかもしれない疫病等々、原因は一つかもしれないし、複合的なものかもしれないけど、まあ理由は様々よ」

エルザは続ける。


 「その時、持ち札は多ければ多いほど生き残る可能性が高くなるのは理解できるでしょう。まあ簡単に言うと、そういうことよ」


 「持ち札の一つになりうると? それが原因で滅ぶかもしれないのにですか?」

 カウルがシャムシより先にエルザに質問をぶつける。 


 「もちろん、核兵器で滅ぶの危険性も確かに存在するわ。しかし同時にそれが無かったから滅ぶ危険性も確かに存在する。要はどちらの危険性が大きいのか客観的に考えろってことよ。宇宙じゃね、文明が、知的生命体が、さらに言えば星自体、いいえそれどころか恒星系すら、簡単に滅ぶのよ。そうならないためにあらゆる可能性を提起するのも私の今の役目でもあるしね。もっとも決めるのは私じゃないから、そこの所は後ろから楽しく拝見させてもらうわ」

 その少し距離の感じられる物言いにシャムシとカウルが考え込む。


 たぶん発破をかけているだけだと勝手に俺は思ってるが、ちょっとエルザは口下手かな、やっぱり。


 確かにこの宇宙は危険に満ちている。それは当然のこととして俺は理解しているし、おそらく薄々はシャムシ達も気付いているだろう。


 ま、特に日本人という民族は自然災害、地震や台風等々、に晒されてきた経緯もあってか、自然発生的、また外的要因性の危険と言うものそれ自体については意識は持っているんだろうけど、有る意味、そしてなぜか、楽観的なきらいがあるのも事実だろう。この分野に於いて俺は人類学者でも心理学者でもないから置いとこう。


 うーん、まだ考え込んでいるなあ。これはちょっとフォロー入れとくか?


 「お嬢様、少々言い過ぎでは? 大丈夫ですよ、皆さん。こんな口調でもお嬢様はおやさしいですからね。一度係わった方はそう簡単に見捨てられる方ではございませんよ」

 ブラムがエルザの発言の足りない部分を補填する。

 さすがブラム。エルザとの付き合いが長いだけあって即座のフォローは年季すら感じられるものがある。


 「例えば核兵器を使う可能性についてはどういうのが有るんだい?」

 シャムシがブラムのフォローを聞いて、取りあえず情報を収集してみようと思ったようだ。

 「未来、俺の元いた時代、でよければいい例があるが聞くかい?」

 仮定の話にもなってしまうがこの話は特に興味を持って貰えるだろう。


 「お願いするよ」

 シャムシが神妙な顔つきでこちらを見る。ちょっと大人っぽくなった顔つきも凛々しいの部類に入りきっていない。まあそれはどうでもいいからさっさと本題に入ろう。

 

 「よし、つまりシャムシが聞きたいことを要約するとこうなると思うんだ。実際核兵器を使用して何かしらの文明や知的生命の破滅を救うことが出来るのであろうか? とね。結論から言うと出来る、いやそれが起こった時では現実的、そして唯一の解決法だった、俺らの調査ではね。実際この時代に来る前にアメリカで2013年のロシア、チェリャビンスク州の隕石落下について大学の友達が調べているのを手伝ったことがあるんだ。チェラビンスクの隕石は結局は結構な上空で爆発したことにより壊滅的な被害は地上に及ぼさ無かったとは言え、負傷者約1500人、被害額10億ルーブルもの被害を出した。空中で、それも比較的高い高度で爆破したからこそ良かったもの、もし高度が低かったらさらに地上に対してエネルギーを放出していたことはまず間違いない。計算ではTNT換算で最大500~600キロトンに匹敵するエネルギーが放出された、と考えられているよ」


 「核兵器並みの威力ですか、凄まじいですね。それにしても死者がいないのはちょっと腑に落ちないところがありますが」

 カウルが驚きながらも質問してくる。


 「まあ兵器じゃないから、放出したエネルギー量=破壊力ではないね。核兵器はその持てる物理学的エネルギーを十二分に発揮するように高度に計算、設計されているからね。話を元に戻すよ。一般的にエネルギーは教えた力学の分野において運動エネルギー=2分の1×質量×速さの2乗だったね。この公式から導き出せるのはもし速さが2倍になるとエネルギーは4倍にもなってしまうってことだね。さらに隕石の質量は密度×体積で、この場合は球体であると仮定して、まあ計算が楽になるからね、3分の4πrの3乗、つまりだ半径が、もし2倍になると質量は8倍に、同時にエネルギーも8倍になってしまうんだよ。それ故、衝突時の速さが速く、なおかつ直径が大きかった場合、被害は想像するだけでも恐ろしいことになるね。過去地球は何度もこの天体衝突に遭遇しているし、それで今までに滅んだ種も少なくないよ。話をチェラビンスクの隕石に戻すけど、せいぜい最大でも直径15メートル程度でこの被害だからね。直径がこれより大きく、かつ大きすぎないために見落とされている隕石は多いだろうしね。そしてもし発見が遅れたら、結局は何処かで隕石の軌道をずらすか、粉々になるまで砕かないといけない。発見が速ければ核兵器を打ち込んで軌道をずらす必要はないかもしれない、なぜなら軌道を物理的にずらすための宇宙船を作れるかもしれないからだ。でももし遅れたら、あるいは直径が大きすぎて軌道をその時代の宇宙船建造、または設計の技術では、ずらす宇宙船が作れなかったら、何度も計算しながら粉々になるまで砕くか、核兵器のエネルギーを使ってでも軌道をずらすかしかない。計算では衝突の阻止限界軌道は隕石が大きくなるほど地球から遠のく、だから観測さえしていれば時間はあるはずなんだけどね。結論として直径が人類滅亡クラスまで大きければ、特に最小のコストでかつ早急に軌道を変えなければいけない時は核兵器の爆発を利用して軌道をかえる。俺達が研究していた時にはこれしかなかったんだよ。でも実は地球の近くで核兵器を使うと、被害が大きくなるからね、隕石を地球に落としたほうが被害額が安上がりなことも在ったりもするんだよね」

 まあ色々とはしょって説明したけど大体は説明できただろうか。 



 「なるほどね。エルザがもしこの事態に対処するとしたらどんな方法をとるの?」

 シャムシは一応の納得を得てさらにエルザにも質問する。

 

 「基本的に破壊するか軌道を変えるかが対処法としてはお勧めね。何にしても早期発見、早期対処が肝心よ。それ以上は自分で考えなさい。それより何か重要なことがあって集まってるんじゃなかったの?」

 エルザは基本的な事でごまかした? のか? 何はともあれさっさと本題に入らせたいようだ。


 「ああ、そうだね。この件についてはまた今度にして、たぶんこれから話すことも時間かかると思うからここに皆を集めた本題に入りたい。助言が欲しいってのが本音だけどね。つい2日前、エラムからの商人、ほら前コウジが翻訳機の力を最大限活用して色々と交渉していた人いたでしょ、グリンさんがエラム王朝からの親書を持参してバビロン王朝との繋ぎを求めてやって来たんだ。」

 ああ、恰幅のいいあのエラムの商人か。本人(いわ)く通訳が迷子になって困っていたところを、もうその時はエルザからもらった翻訳機に頼りきった生活をし始めていた俺が間に入って通訳したおかげで、交渉がはかどったから、そのお礼に色々と情報を教えて貰ったことがあった。


 「たぶんエラムの王族か重臣に縁があると思うんだけど、彼が重要な提案を持ってきたよ。アッシリアのチグリス川側の代表であるアッシュールと下流域の代表であるエシュヌンナが同盟を結ぶ可能性が出てきたので、それを牽制する為にも是非同盟をバビロンと、更に言うとアッシリア南部にいまだに勢力を有している父とも結びたいとの事だった。もしエシュヌンナやアッシュールに出兵する際にはエラム側からも兵を出すとの好条件つきさ」

 エラムはイラン側の王朝でアッシュールはチグリス川のアッシリア地方の中心都市、エシュヌンナはチグリス川下流域の代表都市である。


 ついでに言うとバビロンの王であるシン・ムバリド王はこのエシュヌンナに負けている。


 現代ではメソポタミヤの地の更に下流にクウェートの土地があるが、この時代にはまだ砂が十分に堆積していない。そのおかげもあってエラムの商人は船でラルサやイシンの支配地域、さらにユーフラテス川を遡上してバビロンまで交易の為にやってくる。アッシュール、エシュヌンナの両都市ともアッシリア商人の繁栄の上に成り立ち、そして彼らの既得権益を守るためにありとあらゆる手段をとる。例えば法や行政面においてチグリス川ではアッシリア商人には対抗できないだろう。ユーフラテス川を基盤とし規模で言えばアッシリア商人を凌駕するメソポタミヤ商人ですら不利を悟って進出できないのに、更に異民族でもあるエラムの商人にとっては言うまでも無い。かといってその不均衡を是正するために軍事力でエラムがこの両都市に勝てるかと言われるとそう簡単ではない。もちろんエラム王朝の支配地域は確かに広大である。それはメソポタミヤのどの都市国家よりも広く、人口も多い。それゆえしばしばメソポタミヤの都市国家はエラム王朝の支配下におかれる事がある。しかしその持ちうる力を完全に発揮する事は王位を兄弟間の戦争によって継承したばかりの現王の下では出来ていない。国内にはいまだに現王に反対する勢力も少なくない状況である。


 イシンとラルサはお互いに反目しており、もともとはラルサの宗主国であったイシンであるが現在はそこまでの勢力はない。そしてイシンはエシュヌンナと同盟関係、ラルサがもしこのエラムとの同盟の話に係わろうものなら、おそらく本格的にエシュヌンナがこの2国の戦争に介入してくることだろう。


 そのためこの2国にエラムが話を持っていくことは無い可能性が高い。というのも、もしラルサとエラムが同盟を組みイシン、エシュヌンナ、アッシュールと対抗しようにも、エラムだけでラルサの支援とエシュヌンナに対する牽制あるいは攻撃、そこにアッシュールに対する牽制または攻撃か防御となると国力が足らない。それどころかそのような最大動員中に最悪国内反乱が起きる可能性すらある。まあ消去法でバビロンとその客将であるイラ・カブカブ王との同盟がとりうる手段であろう。これならば持ちうる力すべてを引き出さなくてもアッシュール、エシュヌンナの両都市に対抗することが出来るだろう。

 

 「大体の状況は理解できますがエラム側としては見返りは何を求めているんですか? やはりチグリス川の商業権へのアクセスですか? しかしもし成立して両市を攻めた場合、いやエシュヌンナだけ攻めた場合でもか、ラルサ側をも利することになりかねませんね、そこのところは王達はどうするつもりなんでしょうか?」 

 カウルが同盟の趣旨に質問をぶつける。


 「父はマリとの戦闘において劣勢なのはいうまでもない事実だからね。将来のラルサのことより先ずは自分のことと考えているよ、確実にね。すでに出された餌は毒入りであったとしても口にせざるをえないのが現状だ。一方のバビロン側は現状では前向きに受け止めていることしか漏れ伝わってこない。アッシリア商人にそこまでの恨みもないだろうし、当然アッシュールに対してもね。エシュヌンナに対しては東を守っていたカウルのほうが実感がわくんじゃないかな。そういうわけでカウルにも調べてほしいんだ、それが今日集まってもらった目的の一つだよ」


 カウルは正確に言うとバビロンの支配地域にある豪族の一員であり、当たり前であるが客将であるイラカブカブ王の子であるシャムシが命令することは出来ない、カウルがこの学校にいるのはこの学校の監視もかねている向きすらある。しかしカウルとしても礼を尽くす必要が無いわけではないし、縁というか、繋ぎ、というのも重要である、たとえどの都市国家の支配下にあったとしてもだ。


 加えてカウルの一族は情報の収集にかけてはバビロンでも有数の一族でもある。一族の者が商家に嫁いだり、有力官僚の養子に行ったり、神官になったり。血縁関係を伸ばして権威を追い求めると王から睨まれ粛清、衰退の道を歩むがこの一族は少し方向性が違う。もともと何代か前の王族の血も入ってると言う理由もあるものの、権威を追い求めるより情報を追い求める。そしてその情報を王や重臣をはじめとする官僚、軍人、はたまた商人から神官まで、幅広く教えている。

  

 「なるほど、解りました。親父殿にも相談して情報を集め、分析もしておきましょう。それで目的の一つと言うことは他にも何かあるのですか」

 

 「そうなんだ、もしこの同盟が実現すると父はエシュヌンナに向けて攻勢をかけ始めると思う、となると僕も一軍を率いなければならなくなる。今回の本題はこの軍勢の軍備のことだよ。現状の技術力と経済力でどこまでの軍を揃えれるかをエルザやブラム、コウジに助言を貰いに来たのさ。もちろん少し用意が早すぎると言うことも理解はしているよ。だからこそカウルにも居てほしいのさ」

 珍しく難しい顔をしたシャムシが助言を求めてくる。


 たしかに客分である将の子供が、正式な方針の決定を待たずして軍備の計画を立てるのは、たとえ情報が入ってきていたとしても少々問題があるだろう。バビロン側からしたら物騒極まりない事態でもあるだろう。そうでなくても得体の知れない高度な技術を持っている未来人である俺や、更に高度な技術を持っている宇宙人の2人が居るのだから。


 であるからこそ保険ともいえるカウルをこういった話し合いの場に翌々招待しているのでもあるが。


 「軍備をどうするか、ですか? 難しい問題ですね」

 同じく難しい顔をしながらカウルが口を開く。おそらくではあるが、カウルはバビロン側にこの件を説明するのが面倒だ、と思っているのかもしれない。


 「結局は何時までに、どれぐらいの兵員数で、というのが重要になってくるかな。技術の流出などの無茶をするなら主兵装はマスケット、ライフルマスケット、あるいは後装式に改良したマスケットやライフルマスケットも作れると言えば作れるが、火薬をどうするかと言う問題も出てくるし、兵站や実際の戦術、作戦行動の基礎となるドクトリンも軍備にあわせて考える必要があるしなあ」

 

 「ドクトリンって確か部隊編制、装備体系、戦闘陣形、戦闘方針の根本ともなる考え方だったよね。軍備によっては変わるよね」

 


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