表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
太陽系興亡史  作者: 双頭龍
第3章目的のためには教育だ
40/63

第11話

 忙しい合間を縫ってようやくの投稿です。毎回謝っている気がしますが今回も、ゴメンナサイ忙しすぎです、時間をください。出来る限り速めに投稿していきたいと思いますが、さてどうなることやら(おい!)。キューバ危機は次で米軍のドクトリンの話と技術的特異点の実例、(成ってるかどうかは分かりませんが)にしたくて乗っけました。そのせいで少々長めです。J・F・ケネディ政権の国防長官ロバート・マクナマラが軍のドクトリンにに与えた影響をチラッと乗っけたいのです。あ、あとそろそろ軍備計画に進もうかなと予定してます。ドクトリンと軍備の関係をつたない私の文章構成能力で出来ればいいなと思っています。

 「これが完成品か」

 校長にサエルさんが代表で鍛冶場で完成した職人達の努力の結晶である前装式小火器を手渡している。


 後ろの反射炉の火は止まり、何時もの職人達の活気をどこかに追いり、鍛冶場は今、野次馬の生徒達の騒々しさに包まれている。


 反射炉と加工場の完成から2週間ほど経った休日、サエルさん達、鍛冶職人は校長に完成した品物を献上、というかお披露目? している。


 校長は前装式小火器、名前をライフルマスケットというらしい、を両手で持ち、左右上下に傾けながら厳しい目つきで眺めている。


 そして校長は溜息とともにこう呟いた。


 「図書館の資料だけでここまでの完成品を作れるとは思っても見なかったんだけどな、さすがだな。鉄の加工に始まり自転車や火薬、炉、水車等々、なんともまあ、皆よくやった。思えば入学以来さまざまなことがあったが学校生活も残すところ後数ヶ月だな。彼ら鍛冶職人のように生徒全員、楽しめよ」


 それを聞いた生徒達は笑いながら肩を叩き合っている者、にやけ顔をしている者、少し涙する者まで、皆さまざまな反応をしている。


 「で、これの試射はしたかい? 弾はどうするつもりなんだい?」

 

 「弾は図にあった椎の実型の鉛弾を用意してあります、火薬はニトロセルロースを基剤にした火薬を使用します、その二つを紙で纏める紙薬莢、発射はパーカッション式で行います。最終的には後装式、金属薬莢、連発式を目指して作って行きたいと思います」


 サエルさんがすぐに答える。 


 椎の実型の弾は椎の実(ドングリです。カシ・ナラなどコナラ属樹木の果実の総称)の形をした弾頭で弾丸の周りには溝、後ろの部分にはくぼみが掘られている。窪みには紙や木片で詰め物がされており発射時に窪みに火薬ガスの圧力が入ることで弾の直径が大きくなって刻んであるライフルにかみ合い高速で弾を回転させて発射することを可能にするのだ。


 ついでにパーカッション式とは発射火薬を着火させるための方法のことで、この小火器の場合は蓋の形をした固められた薬品(発火薬)を指し、衝撃、火、電気等で起爆する。


 さらには弾と発射火薬を紙で包み、装填時間を短縮する。蓋は引き金に連動しているハンマー(撃鉄)に装着して、本体に内蔵された撥條ばねを使用してハンマーを叩くことで衝撃を生み出し発射する。


「そうか、そこまで考えてるのか。まあ試射の時にはまた呼んでくれ、楽しみにしている」

そう言うと校長はライフルマスケットをサエルさんに手渡し帰っていった。

 

 「よし、皆、きいたな。試射は一週間後を予定してるのは知っての通りだ。試射に向けて全力で行くぞ」

 サエルさんが関わった職人達に向けて激を飛ばす。そしてそれに呼応して歓声が上がる。校長がチラリとこちらを見て苦笑いしている。




 ----------


 「しかし情報だけでここまでの物を作れるとは少々見くびっていたかな?」

 俺はうなりながら目の前に立っている彼に話しかける。まさしく江戸や明治時代の日本人のごとく情報が入ってきたら試さずにはいられないかのようだ。


 「まあ、火薬を作っていたときからそんな気はしていましたけどね」

 目の前にいるカウルはそう呆れながらこぼしている。


 「情報だけで出来るなんてまったく思ってなかったんだよ、実際」

 

 「それこそ、見くびりすぎだったわね。知らないわよ、進む科学技術、それについていけてない倫理観、行き着く先は文明の滅亡なんてことになっても」

 エルザが部屋の椅子に座りながら嘯く。


 「技術的特異点ってやつか? だいたい反対しなかっただろうが、もっともそうなるとも限らんだろう。案外倫理観はそこまで悪いわけではないと思うしな。それにいつかは技術力を底上げしようと思っていたんだから、リスクは許容するさ」

 俺は言い訳がましくつぶやいた。もちろんそれが言い訳である事は判っているし、第一コントロールできていない技術の発展は文明の掌握を難しくする。最悪の懸念は最終兵器と考えられる物を製作してしまうことである。トライアンドエラーもなしに一足飛びに修得した技術に対しての拒否感があるのも否めないところである。


 「倫理観が低くないと言ってくれたのはありがたいね。ところで技術的特異点って何?」

 シャムシがエルザと俺が話している内容が分からないとばかりに聞いてくる。


 「俺の時代では人工知能が、人類の限界、予測を越えて急激に進展し始める事なんだけど、この場合だと人類が生み出したテクノロジーが、人類を滅ぼしてしまうことになるかな。この概念自体は古くから存在するんだけど概念自体が存在しないと言う学者も、あるいは実現の可能性はまったく無いと言う学者もいるっちゃあいるんだけど、それはまあ横に置いといて。歴史に対する見方にもよるけど、すでに俺のいた時代では後者の定義では滅びかけているんだよね。まあある一定以上の技術はそれ自体人類に対しての脅威となりうる。もちろん技術それ自体が問題であるわけではないし、技術発展やそれを支える政治的、時代的はたまた学術的背景が問題でもない。しかし人間、いや知的生命、それ自体は失敗をするんだよ、絶対にね。その失敗をその人類を滅ぼしうる技術を使用してしてしまうと、知的生命は、いや星自体すらも簡単に滅ぶんだよ」


 技術それ自体には罪は無い、当然だ。人類にとって有用だからこそ技術は存在する。しかし人は間違いを犯す。

 そう滅びかけたのは1962年、中央アメリカ、フロリダ半島の先端から150キロほど離れたカリブ海に浮かぶ島、キューバ。


 所謂キューバ危機である。


 キューバ革命を発端とするこの一連の出来事は当初の対応如何によっては発生することは一切無かったであろうと言われている。親米軍事独裁政権であったバティスタ政権をカストロ率いる革命勢力が攻撃、一度は失敗してアメリカに亡命する。亡命生活中フロリダにてゲバラに出会い、同様の境遇に置かれていたキューバ人を糾合し、メキシコでゲリラ戦の訓練を行った彼らは再度キューバに潜入する。まあ上陸した途端、政府軍に包囲殲滅されかけてしまうが、何とか脱出、ほぼ3年にわたるゲリラ戦の後、軍事政権を打倒する。

 

 当初首相の座に着いたカストロは親米とまでも行かないものの、反米では決して無かったとさえ言われている。


 現実を見ると反米政策なんて事をすると即座に革命は失敗することを理解していたのだ。


 革命後、即座にアメリカ政府に対して友好的な態度を見せるとともに、ワシントンD.Cに訪問、革命政権の承認を求めた。


 しかし当時は冷戦、真っ只中、親米政権を打倒したカストロ革命政権をアメリカが承認することは決してなかった。それどころか共産主義者と、本人の否定にもかかわらず、非難され、失意のうちにアメリカ訪問を終えることになる。当然カストロはこの自分にとって予想外ともいえる仕打ちに完全に失望、対抗手段をとり始めることになる。当時のキューバはユナイテッド・フルーツ、現在のチキータ・ブランド、とその関連企業に農地のほぼ8割を占有されていた。その土地を国有化を推進するとともに、当時のアメリカ陣営の敵である共産陣営に急速に接近し始める。その後穏健派を失脚に追い込み、アメリカ資産の完全国有化に踏み切るとアメリカとの対決は決定的なものに発展した。


 厄介なのがこのときすでに大きなうねりとしてアメリカを揺るがしていたアメリカの暗部とも言える黒人問題そう公民権運動とも連携する動きを見せかけていたカストロをアメリカが、もっと言うとCIAとFBIの両方が見逃すはずも無かった。


 ついにキューバ政権転覆のための計画を開始、所謂亡命キューバ人部隊が結成される。あくる1961年国交断絶。アイゼンハワー政権下のこのCIA主導の秘密作戦は次のケネディ政権に引き継がれる。そしてピッグス湾事件へとつながるのである。当初作戦は成功間違いなしと事前の会議で報告されていたものの、まあ米軍の介入さえあれば、さらに言うとそれを発足間もないケネディ政権がベルリン危機のソ連軍の深刻な軍事侵攻の脅威のさなか許可していれば成功していただろう。いかに事前に情報が漏れていようとも、いかにキューバ軍に対する評価を過小に評価していようとも、どんなにずさんな計画、キューバ軍の一部が寝返るという根拠も確約もない判断、であったとしても、また当初の制空権確保のための米軍機の偽装キューバ軍爆撃機の空軍基地爆撃が失敗したとしても、キューバは再度親米政権に戻ったであろう。しかしケネディ大統領は決断をしなかった、いや出来なかった。沖合いに第2艦隊が大統領の指令を待っていたとしてもである。

 

 この事態の後、来るべき次に備えるためにキューバは最新の戦闘機からミサイルまで数多くの兵器をソ連に対して要求し始める。ソ連もこの要求の一部を受け入れ、最新の機器操作のための要員の教育のためのソ連受け入れと兵器の輸送を開始した。そしてついにフルシチョフはキューバに核を搬送し始める。つい1年ほど前にウィーンでの最初で最後の首脳会談に臨んだ時に、お互いの大国同士の『誤算』が戦争を引き起こすことについて話し、誤算を生む可能性を排除することに同意したにもかかわらず。もっともケネディも同時に再度のキューバ進行を企てていたのでどっちもどっちだとも言えるのではあるが。

 

 フルシチョフは当時劣勢にあった核ミサイル戦力の不均衡を挽回するためにキューバに核を持ち込んだとも言われている。 

 

 そして入港してくるソ連とその同盟国の艦艇の多さにアメリカも疑念を持ち始める。新任のCIA長官、前任者はピッグス湾事件の責任を取って解任されていた、はこのときすでに核が持ち込まれているのではないかと疑念を持っていたとされるが、政府としてはこの見解を裏付ける物的証拠も情報も何一つ持っていなかったのでほとんど無視されていた。しかも数度行った強行偵察を停止の決定まで大統領はしている。おそらく先の経済封鎖によって枯渇した燃料や資材であろうと推測したであろう。CIAも偵察の少なさによる情報の欠乏により正確な分析が出来ず、結局数ヶ月の空白が出来てしまう。


 この数ヶ月の間4万を越す将兵と100発にも及ぶ核弾頭、それを運搬するための中距離・準中距離弾道ミサイル、爆撃機、それらを守るための防空ミサイルやレーダー、戦車などを含む陸上戦力までをキューバに持ち込むことに成功する。

 

 キューバ人からの情報提供によってついに強行偵察が再開され、U-2がキューバ上空を偵察、中距離弾道ミサイルを発見する。ここにいたってケネディ大統領は対策を決断する必要に迫られた、外交的解決を目指すか、軍事的解決を目指すか、あるいは折衷案か。正確には海上封鎖から空爆、軍事侵攻まで様々な案が議論された。当初空爆に傾きかけていた首脳部は次に大きな問題に直面する。事前通告を、つまり警告をするかどうかである。もし事前警告も無しに空爆した場合、自分達が大々的に非難した真珠湾奇襲の裏返しであり、歴史に汚名を残しかねず、一方この事前警告をした場合は逆にソ連に反撃のチャンスを与え、かつフルシチョフが反撃に乗り出さざる得ない状況に追い込み、却って危険な状況となることがありありと予想出来た。しかも最悪なことに次々と入ってくる新たな強行偵察の解析報告からこの状況を打開するためには全土に対しての大規模かつ徹底した空爆が必要であることが遅まきながら分かってきたのであった。

 

 アメリカ首脳部はフルシチョフの意図を量りかねた。つまり何らかの取引を目的にミサイルを配備し、アメリカの譲歩を引き出すためではないかと考えて、フルシチョフに交渉の機会を与えるべきだと考え始めたのだ。いきなり軍事行動では報復を呼ぶだけであり、その後は予測も制御もできないとして、海上封鎖であればソ連は封鎖を突破しないと考えるが、一方ミサイル基地の作業の中止ならび撤去は難しいとの懸念材料もあった。まあ海上封鎖も厳密にはどのように行うかによっては戦争行為ではありうるのだが、それはさて置き、軍もフルシチョフの出方によっては空爆ありきではなく、最初は封鎖して出方を見て、そしてそれからの軍事行動に移る案に傾き始めてきた。もっとも最終的には核戦力の撤去が為されない場合、撤去のために侵攻しなければならないということも首脳部は理解していたのではあるが、取りあえずの方向性として大統領は海上封鎖に傾く。この間もソ連外相がホワイトハウスを訪ねソ連のキューバ支援はキューバの国防能力に寄与する目的を追及したものとか、防衛兵器の扱いについてソ連専門家がキューバ人を訓練しているのは決して攻撃的ではないとか、キューバに配備されたミサイルは防御用の通常兵器であるとかとか。キューバの支援に対しての言い訳に終始した。もっともアメリカ側はすでに核戦力がキューバにあることを理解していたし、すでに対応策も決定していたのではあるが、終始笑顔でこの茶番劇ともいえる会談を終えた。


 この時期は丁度アメリカの中間選挙の時期と重なっており大統領はソ連に勘付かれないためにも普段通りの予定をこなしていた。統合参謀本部を中心とした強硬派は封鎖は弱腰な態度であり即時の侵攻や空爆を主張してケネディ大統領を批判していたが、特に空軍参謀総長は強固に空爆を主張していた。ケネディ大統領はお偉いさん達の意見をその通りにして間違っていたら、間違っていたと言おうにも誰も生きていないことになると呟いたとか無かったとか。まさしくそう事態は最悪の方向に進みだすのである。翌日海上封鎖決定。さらに翌日大統領演説が予定されるものの、事前に他の同盟国や中南米諸国に説明する必要があり、1日延期。


 そしてこの動きにソ連は勘付きはじめる。


 アメリカ軍を監視しているソ連参謀本部情報総局、略してGRU、ならびにワシントンDCを監視している国家保安委員会KGBはアメリカの動きが一気に慌しくなってきた事を察知。フルシチョフも共産党中央委員会幹部会を緊急招集した。当然キューバの核が発見されたのだと皆想像し、数日以内には我々の行動如何によってはカリブ海で戦争が始まるだろうと大半は予想していた。


 そして大統領の演説が10月22日、午後7時、始まった。


 演説内容はキューバに核戦力が持ち込まれた事、海上封鎖を開始すること、そしてソ連に世界を壊滅の地獄から引き戻すための歴史的努力を参加してほしい事等であった。


 世界はこの演説を受けて一斉に動き出す。

 共産党中央委員会幹部会はワルシャワ条約機構に警戒態勢に入るよう指示、アメリカの同盟国やNATOも警戒態勢に入る。アメリカ軍はデフコン、戦争への準備態勢で平時が5で完全な戦争態勢が1である、を3に引き上げた。核兵器を搭載した戦略爆撃機の空中待機の数を増やし始める。これは奇襲を受けても反撃能力を維持するための方法であった。

 

 23日海上封鎖の法的根拠を確保して命令書に大統領が署名。臨検に従わない貨物船に対しては警告の上で砲撃を行うこと、さらにこれらの貨物船を護衛する潜水艦による攻撃や、アメリカ海軍艦艇や航空機に対する銃撃などの敵対行為は即座に撃沈を以って対処することを併せて指示した。また同時にキューバ上空の地対空ミサイルの射程圏内となる低空偵察飛行を許可し、もし万一ソ連に撃墜されたらそのミサイル基地を爆撃することも決定した。


 当時米ソ間にホットラインは無く書簡でのやり取りであった。フルシチョフはアメリカに向けての書簡にて平和への重大な脅威であり、海上封鎖は国際法の重大な違反行為でアメリカは壊滅的結果を招く可能性があるとして激しく非難した。一方キューバに対しては最後までソ連が引き下がることはないとの書簡も送っている。


 24日午前10時、海上封鎖開始、陸海空軍、海兵隊、沿岸警備隊を総動員して作戦にあたるアメリカ軍であったがソ連船は海上封鎖線を突破することはせず、海上封鎖線手前でUターンして引き返した。

 

 25日国連の緊急国連安全保障理事会でそれまで公開していなかった航空写真まで用いてソ連大使を追及、アメリカ国連大使はソ連国連大使に言葉で詰め寄る、ミサイルはあるのか、と。ソ連国連大使は回答を拒否。アメリカ国連大使は地獄が凍りつくまで回答をお待ちしますといいキューバのソ連ミサイル配備を世界に向けて印象付けた。


 その発言はこれから起こることを暗示するかのごとくであった。


 26日午後10時デフコンが2に引き上げられた。準戦時体制への移行である。アメリカ国内の全核ミサイルの発射を準備し、海外のアメリカ軍基地も臨戦態勢に置き、B52や戦略原子力潜水艦がソ連国境付近で核攻撃の命令を待ち始めた。アメリカの同盟国やNATOもまた同様の体制を取る。当然ソ連やその同盟国もこれに呼応、世界は全面核戦争に向けて進みだす。フルシチョフはこのことを聞いてもはや猶予はなくなったと思いミサイルの撤去の提案をケネディ宛に送る。

 

 27日、西側各国のソ連大使館職員が書類を焼却する姿が目撃され、ワシントンDCでも目撃される。正午Uー2キューバ上空で撃墜。大統領は数日前の決定を実行するか悩んだ。この決定は人類の最後につながる決定になると思っていたかもしれない。結局は空爆の決定を撤回した。統合参謀本部は即時に強固に空爆を主張したものの、大統領は何とか事態を制御下に置くことに成功する。


 この日、この空爆をしないという決定が人類の未来を救ったと言っても過言ではないかもしれない。

 

 28日ソ連キューバからのミサイル撤去を宣言。キューバ危機はここに一様の解決を見るのである。

 

 これらを掻い摘んで説明する。



 「なるほど。しかし核兵器ってのはすごいんですね。星すら破壊できるなんて。でもまだまだ作れなくないですか、我々には」

 カウルが真剣な表情で聞いてくる。

 

 「そんなに難しいことじゃないわよ。核兵器は分裂型と融合型があるけど両方とも化学や物理学で言うところの原子を利用するわ。もう少し正確には物質を構成する原子の核である陽子と中性子の構造を利用して、中性子をぶつけて核分裂で中性子を1から2個弾き飛ばし、その弾き飛ばされた中性子が他の原子核に衝突連鎖する現象を利用するの。この核分裂のときにエネルギーと同時に放射能を撒き散らすそれが核分裂爆弾ね。そして融合型は原子核が融合して他の元素の原子核になるときに発生するエネルギーを兵器として利用するものよ。融合型は太陽などの恒星のエネルギーでもあるわね。その他にも中性子型なんてのもあるけど、まあ余りお勧めできる兵器ではないわね」

 エルザが丁寧に説明する。


 「実際は具体的にどれくらいの威力なんだい?」

 シャムシが質問する。


 「実際の戦争で使われた例は2例、分裂型で俺の祖国が標的だ。一発は弾頭はウラニウム型でウラニウムが50キロ入った核分裂爆弾だが、実際に核分裂を起こしたのは1キロほどだと言われている。これで前教えたTNT火薬に換算すると15キロトン(15000トン、見た資料の中には12.5ktから20ktまで)のエネルギーに匹敵する。それでも死者11万、負傷者8万。もう一発はプルトニウム型、地形が運良く遮蔽物になってくれたおかげで死者、負傷者ともに約7万。TNT換算22キロトン(同様に±2kの幅あり)。厄介なのは放射能でな、生体組織に重大かつ甚大な悪影響や破壊をもたらす。遺伝子の異常などもこれのせいだ。子孫がな、白血病等の病気になる可能性があるんだよ。それを含めちまうと死者はさらに分からなくなるがな。最新の核融合型兵器で(潜水艦発射型トライデント)475キロトンとか(巡航ミサイル)200キロトンなどがあるが、まあ200キロトンクラスで説明するか。目標地点の上空で爆発と同時に閃光と放射能を発生させ、周囲の空気を1万度を超える火球を作り出し、熱線を照射、爆発による衝撃波を超高速で撒き散らし、一部が地面に反射してさらに増幅、減圧状態になった爆心地に向かって風が吹き、火球と高熱のガスが上昇、チリなどと一緒に巻き上げられた高熱のガスがキノコ状の雲を作り死の灰を撒き散らす、爆発の威力が大きい場合は成層圏まで巻き上げられた大量の死の灰が高層気流に乗り、地球全体を汚染する。1km以内は金属すら蒸発、建物は全壊、放射能で1.5kmまでの人間は即死、大体7kmぐらいまでは爆風と熱風で死ぬだろう。15kmぐらいまでは熱風で火傷、遠くなるほど度合は低くなる。製作された最大の核兵器は100000キロトン級だな、実験では半分の50Mt(kが千でMが百万です)で爆発させたが、火球の大きさはそれ単体でも2.3km。7km以内は即死、55km以内も熱線と爆風で死ぬだろう。実験したのがソ連、しかもキューバ危機の年の10月30日だからな、それも関係してデフコンが下がったのが後れた、とも言われているぐらいさ」


 実際説明するとえげつない威力である。それら核兵器を我々はいったい何万発もっているのだろうか? 

 少しの間シャムシとカウルが思いをはせている。


 「それはエルザが危惧する所も分かるかもしれない。でも作らないし使わないだろう、いや正確に言うと今のところ使う必要はないだろう?」

 シャムシが沈黙を破って声を上げる。

 

 「そうですね。今、使う意味が良く分かりません、そんな兵器」

 カウルも同調する。

 

 うむ、印象と言うか衝撃が強すぎたかな。兵器としては有能なんだけどな、使う、いや使わなければならない可能性があるなら準備だけはしておくべきでもある。ただこのさじ加減は慎重に慎重を重ねるべきでもある。さてどのように説明しようか?


 「そんなことは無いわよ。所詮、核兵器も兵器。使い方によっては強力な盾ともなるわ。今でも使うべきときがくる可能性は無くは無いわ」

 エルザが彼らに語りかける。



  




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ