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太陽系興亡史  作者: 双頭龍
第3章目的のためには教育だ
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第8話

 難しい。一言でいうならまさしくこう形容するしかない章ですね。もうちょっと気楽に書けると思っていたのですが。少々疲れました。今月末は大変忙しくなる予定で、更新は不定期になりそうな予感がします。申し訳ありませんが悪しからず。

 授業が始まってから1月、大半の生徒が授業やここでの生活になれてきただろう。もっとも僕もその例に漏れずこの生活を楽しんでいる内の一人だが。ただしこの1月は大変だったのも、また事実ある。


 どれ程大変だったかって? 


 物凄いたいへんだった。


 まず共通授業から。


 言語は簡易的になおかつ省略されていた。書きやすく、また読みやすくなっていた。たしかにこれを覚えるのは容易である。

 まあ、すでに読み書きは出来るから、それほど大変ではないのだが、最初から覚えるものに対しては有効な文字の改良だろうと思う。

 数学はさらに省略されていた、いや省略というより新しく作られていたといっていいだろう。数字も新しくなっていた。これも

覚えやすいし計算がさらに早くなるだろう。計算方法も斬新である。60進法を完全に捨てさり、10進法のみの計算方法になっていた。これのお陰で計算はさらに早くなった。恐らくこの計算方法と数字は、これから数学を覚える者には有用であろう。

 軍学こそがこの学校で教えられる最高の授業であり、もっとも難しい授業でもあるだろう。と言うのも、この軍学、根本的な所から説明していくのだ。たしかにすべてに応用できるけど、そこから教えるのかと思うことまで教えてくれる。そしてそれがやたらと難しいのだ。これが役に立つのだろうか?

 教練も大変だった。まず戦闘服を支給された。この戦闘服は非常に質がいいらしい。着ていても汗は吸収してくれるし涼しいし、さらに燃えにくいいらしい。ついでに作業服も同じ素材でできているらしく鍛冶で使っても大丈夫だ、とサエルさんとエキエルが言っていた。基礎訓練は厳しく、また行軍訓練も大変であるが、体を動かすのは楽しい、楽しいのだが、こんな厳しい訓練は基本的にやらないらしい。カウルさんですらバテていた。もっともカウルさん以外の軍から派遣されて来た生徒はバテていなかったが。

 選択科目を僕は化学と工学を選択した。

 工学や物理、化学は色々なところで密接に関係しているらしい。実際化学は工学に密接に関係しているのがわかる。

 工学の授業を受けているサエルさんやエキエル達、鍛冶屋や木工、その他職人といわれる人達は、学校に併設されている鍛冶屋等の作業場で、工学の授業やその他の授業で学んだ知識を使って色々と物を作っている。例えば農学を学んでいる生徒が注文した新しい形の鋤や農機具、水車の改良品等々、一番生徒達のなかで学校を楽しんでいる人たちだろうと思う。一部生徒は青銅以外の素材にも挑戦しているし、化学を選択した人たちは色々な薬品や素材を使って鍛冶を楽しんでいる。軍から派遣されてきた人達も鉄で出来た剣等の武具を見て驚いていた。最初軍学を教わるだけのつもりだったらしく、工学など他の授業に対して大した注意を払っていなかった生徒は、この武具を見て態度を一変させていた。

 と、まあこれが1ヶ月ほどの出来事であったが、案外人間は何にでも慣れるものなのだろう。今ではタブレットなる教科書にも、この作業服にも、勿論戦闘服にも慣れてしまっている。


 そして始めての学校外で行う授業である実地行軍訓練がまじかに迫ってきた。

 その実地行軍訓練とは往復に丸2日を費やし、この学校のあるラアリから、バビロン近郊の軍の演習場まで行軍するらしい。

 普通、馬を使うと一日もかからない距離にあるのだが、歩兵として行軍すると1日を使うのだそうだ。途中行軍陣形を戦闘陣形に変えたり、野営の準備をしたり、夜間の歩哨にでたり、単純に歩くというより戦闘の為に移動している、そのための訓練であるという感じがする。平均して普通の歩兵は1日大体20キロを移動するのが一般的であるが、我々はすこし急ぐので30キロを移動する。そして演習場に行って戦闘訓練、そしてその後学校にとって帰るのである。行軍訓練中の装備は戦闘服に鎧兜、槍や剣といった武器、背嚢、これがとても重い、等、平均的な兵士が行軍時持っている装備の約2倍ほどの重さがあるらしい。輜重兵は小隊を臨時に編成して荷馬車を使用して行軍するらしい。

 

 そして終に行軍訓練当日がやってきた。

 

 寮の棟毎の中隊に別れ、さらに小規模な小隊、5つに別れてその隊毎の隊長を先頭に行軍訓練が始まった。まずは本隊に先立ち、先行するのは2つの斥候小隊。この斥候小隊が行軍先の安全を調べ、行軍中の本隊の安全を守り、周囲を守っている斥候の間を行軍する本隊。これの繰り返しである。斥候小隊は順番に回ってくる。行軍中は合計10回ほど、どの小隊も斥候になる計算である。


 軍学の授業によると行軍の目的は部隊の移動である。


 実施時期によって昼間行軍、夜間行軍、に分けられる。さらにその要領によって急行軍と強行軍に分けることができる。状況によりに日々の行軍行程を増して強行軍を行う、または状況により短時間で所望の地点に到達するための急行軍を行う、に区別することができる。行軍とは大体1時間4キロ、1日行程20キロ昼間の行軍を標準とする。夏の炎天下を避けるため、あるいは敵の目を避けるため等の場合は夜行軍を有利とすることもある。


 行軍とは単に歩く事それ自体が目的ではない。あたりまえだが、目的地到達以後の任務行動が目的であって、戦力を維持して、つまり完全な戦闘力を発揮できる状態を維持して、目的地、当然攻撃のためか、あるいは防御のために、到着できることが主眼である。早く言えば、目的地に到着したはいいが、疲労困憊、戦闘力の発揮は困難、などという事態は困るのだ。それは行軍ではない。

 とはいえ戦闘状況下において、当然標準をこえて要求をしなければならない場合も、される場合も発生する。この標準超えの事態が強行軍である。

 この行軍ののなかで一番怖いのは接敵の場合である。

 移動中に敵と接触する場合の事であるが、行軍隊形で戦闘になった場合、陣形による不利から手痛い打撃を受けることは必至であり、この事態を回避するためにも戦闘を予期した隊形で行軍を行う。この行軍を接敵行軍という。通常援護部隊を前方に出してその援護下で主力部隊が前進する。その援護部隊の任務こそが偵察、報告、戦闘発生時の主力部隊の戦闘加入を容易にすることである。つまりこの訓練中の斥候小隊がこの援護部隊の役割になるのである。敵との接触を警戒して行軍している訓練が行きなのだろう。帰りは強行軍を予定しているらしい。これは行きより早く帰ることを目的としている。

 

 ようやく本隊が行軍を開始するようだ。突然の敵軍との接触にそなえて戦闘準備を整えての行軍で、全員いつでも戦闘に入ることを想定している。もっとも槍にも鞘はつけているが。まあ何時、戦闘教官であるオントスさん達が突入してきてもいいように用意しているのだ。実際教官達は戦闘訓練においても手加減はしてくれない。たぶんこの行軍中でも少なからずなにかしてするような気がする。

 僕が居る小隊は行軍陣形の最後の方、輜重隊の前である。戦闘になると輜重隊を守る役割も担っている。この小隊長はカウルさんだ。本人は馬なしで行軍するのは久しぶりらしい。

 「やし、小隊前進。疲れないように行軍訓練中の要領を思い出しながら行こう」

 カウルさんは何時も通り、笑いながら出発した。


 1時間ほど進むと斥候小隊として先行、本隊の援護をしていた小隊が、僕達の小隊と輜重隊の間に入ってきた。次の斥候小隊もすでに先行しているようだ。

 「参った、大変だった」

 カウルさんに近づき、最初の斥候小隊の隊長は喋り始めた。


 「どうしたんだ?」

 カウルさんと顔見知りなのか、その小隊の隊長と歩きながら雑談している。


 「斥候中に教官連中が襲ってきた。たぶん次の連中もやられてるかもしれん」

 

 「だからそんなに泥まみれなのか。まあ何かすると思っていたが斥候の方を襲撃か、大変だな」

 

 「どうだ、人食い。教官達に1泡ふかせてみるのは?」

 笑いながらその小隊長はカウルさんをけしかける。

 

 「くるとは限らないんじゃないかな」

 カウルさんも笑いながら返す。目が笑っていない。

 

 「まあ、そうだな。でも警戒はしておけよ。一般の兵士を率いていても厳しいだろうがな」

 言い終わって、背嚢にくくりつけてある水筒から水を飲む。


 「じゃあ、彼らが普通の部隊の行軍中に襲ってきたら大変じゃないか?」

 カウルさんがある意味当たり前のことを言う。

 

 「だな。100人隊を率いていても厳しいかもしれん。たぶん半分は殺られるな。ついでに戦闘後の死体の中には教官達の死体は無いことは間違いないな。しかも弓や、罠を準備していたら、行軍どころじゃないぜ」

 そう言うとその小隊長は自分の小隊の方に戻っていった。

 

 「大丈夫、斥候になったときに教官のことは考えたらいいんだ。それまでは普通に行軍しよう」

 カウルさんは不安そうになっている小隊の皆に語りかけた。

 

 小休憩を挟んだ後、終に斥候小隊の役割が巡ってきた。

 「4小、斥候開始」

 戦闘にいる中隊長、この中隊長も入れ替わりやっている、が下令する。

 「4小隊、斥候任務を開始します」

 カウルさんが命令を復唱する。

 

 「4小、斥候開始だ。左右に別れつつ本隊前方に展開する。異常を発見したら躊躇なく笛を鳴らせ。迷っても鳴らせ。各員の展開位置はさっきの言った通りだ。常に2人以上で行動しろ。いいな」

 全員から了解の返事が飛んでくる


 「よし、移動だ」

 カウルさんが移動を命令する。

 

 全員が手はず通り移動し、カウルさんと僕が前方に進む。



 「おかしいな、なにも来ない」

 数十分後何事もなく斥候を終わり、僕達は本隊の援護についている。すでに本隊からは次の斥候が出て行った。

 

 このまま後もう少しで輜重隊の前に入ろうという時、それは僕達の前に現れた。教官達だ。弓と模擬矢を構え、徹底的に草で偽装した教官達が輜重隊を狙っている。最初は草が風かなにかで動いていると思っていたのだが、カウルさんが直ぐに笛を鳴らした。しかし模擬矢はすでに教官達の弓を離れ、輜重隊の方に飛んでいく。直ぐに輜重隊の前の小隊が盾で身を守り、輜重隊との間に飛び込む。飛び交う怒号、次々模擬矢に射抜かれる輜重兵。その間に僕たち援護している小隊は集結して、盾を構えながら教官の方に、こっそりとカウルさんを中心に、教官達の退路を断つように駆けていく。

 本隊もようやく事態を理解したようで行軍を停止して、戦闘隊形に移行する。 

 教官達は直ぐに本隊の隊形の移動を見て撤退に移る。もっともその撤退先には僕たちの小隊が居るのだが。

 不意に僕達と出会った教官達。槍を盾の間から伸ばす僕達に、教官は合格と言って、封筒をカウルさんに渡して、そのまままたどこかに行ってしまった。

 本隊が戦闘隊形になって、こちらにやってきたときには教官達は、もうこちらからは姿がほとんど見えない所まで逃げていっていた。

 「輜重隊の損害は? 本隊の連絡は? 援護の出来は?」

 封筒の中身の紙には、このようなことが書かれていたらしい。

 

 このような本隊への奇襲がもう1回あったがこの日の行軍は演習場に到着したことで終了した。演習場に到着した後、演習場での演習をみっちりして、一晩をそこで過ごし、次の日には学校に向けての帰路についた。


 帰りの行軍はまさに強行軍の名に相応しいものであった。学校に着いた皆は疲労困憊して、数人が救護所に担ぎ込まれていた。といえばこの強行軍にすさまじさは想像してもらえると思う。そんなこんなでこの実地行軍訓練は終了したのであった。 

  

 


 

 

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