第1話
いきなりですがこの話から新章にします。学校はテンプレとしてもよく使われますが、中に生徒として、あるいは教師として入るのが一般的かと思います。そこを踏まえて描写できれば一番いいのでしょうが文才のない私のこと、さてどうなりますやら? 全力で書いていきますのでどうぞ宜しくお願いします。新規にブックマークをしていただいた皆さん、どうも有難うございます。作者の双頭竜です。基本、火木土投稿を目指して大体3000前後で投稿していきたいと思っています。なお、月初め月末が忙しいときがありますのでご容赦のほど。
バビロンからの入学生の人数とその年齢と内訳の最終確認が終わってから約3週間後、イラ・カブカブ王の残っている支配地域から、またラアリから生徒を選抜し、完成した校舎の前に彼等、合計106人は集まって、この学校の設備の説明をうけている。彼等の前には学舎となる平屋の、この時代においては材質が異質な、建物が彼等を威圧するかのように建っている。そう、エルザとブラムに建てられてしまったのだ。建設予定の建物の間取りを書いた図面を彼等に相談しに行った時、持っていった図面を見たエルザが、私も関係者になるのだから、と半ば強引に、天文台と同じ様に、数日で建設してしまった。当然、彼女の不満な点を改造して、だ。
うん、宇宙人なめてました。いや、最後帰るときに校舎の図面の事をエルザ達も使うのだから好きにしたらいい、と言ってしまった俺も俺なんだろうけど。
図面を見て、あれこれ修正されるのは想像してたけど、まさかそんなに早く、しかも建てられてしまうなんて思ってもいなかったもんだから、急遽生徒達を学校に集め、予定より数ヵ月早く開校となったのだ。そのため生徒の内8人が、軍役や工房関係の都合で、まだ合流していない。この数週間の間に彼等生徒のための寮や、グラウンドとして利用するための広場、農学部で使用するための農業試験場をエルザの多大なる協力を得て整備した。教科書等の教材もエルザ達におねだりした。それはもう後数ヵ月も準備期間があると思ってまだ教科書を用意してなかった俺が悪いのはいうまでもないのであろう。
大体印刷技術のまだ未発達なこの時代で同じ教科書を使うと言う発想自体が大変なものではあるが、不可能ではない。例えば簡単な物なら俺も小学校でしたこともある木版画、つまり木版印刷であろう。
この木版印刷は木版といわれる木材に字や図形、文様、絵画等を彫刻した物にインクを浸け、その木版の上に紙を置いて馬連で紙をこすり印刷していく。
これならプリントとして教材を作り、その科目の授業で配布する。そしてその科目が修了する頃には一冊の本が完成していると相成るわけである。もっとも木版を彫らなければいけない手間はある、が。
一様、化学と物理、数学の教科書ぐらいなら諳じれるし、天文学の1つである天体物理学、すなわち俺の専門分野である宇宙物理学も、さらにその1分野である空間物理学も教材としては作ることも出来る。
しかし天文学はエルザが教えるし、その教材に関してもエルザが用意するらしい。工学と軍学を教えるのブラムも自分で教材を用意しているらしく、どうせなら教材の質を統一するためにエルザにお願いするに至ったのだ。
エルザは一つ一つ印刷するのが面倒くさくなったのか、終いには教材が紙でなくなった、俺の持ってきたタブレットを元に、いつの間にか内部構造をスキャンして一部性能を向上させて、さらに入手困難な素材を代替素材に変化させられて、コピーされていた。
特許がー、知的財産がー、俺のじゃないけど、帰れたら頑張って払う、エルザが。
そしてそれに全ての授業の教科書のデータを叩き込んでこれを教科書にすればいいじゃないの、と。
ブラム曰く分子合成機の無駄遣いはお嬢様の専売特許だそうだ。そこの所の事情を何度か聞いているのだが、なかなかブラムも口が固い。もっともこの話題は珍しくエルザも歯切れが悪い、まあね、とか、そのうちねーとかいつもはぐらかされる。
この分子合成機とて使用は大変手間のかかるものらしく、一般生活ではまず使用することは無いのだそうだ。理由は主に、分子を貯蔵しなくてはならないこと、エネルギー効率が良くないこと、それらのせいで使用料が安くないことらしい。さらに高性能な物になると原子自体を合成する、さらにさらに高性能な物は素粒子から原子、原子から分子を合成して完成品にする装置もあるらしいが、ここまで来ると装置の大きさはとても大きくなってしまうし、それに比例して使用エネルギー量も増大するのだとか。なんと恒星が放出する全エネルギー量を軽くぶっちぎってしまう程なのだとか。
調査船には不測の事態に対応するためにそれなりに高性能な原子から合成出来る分子合成機が備わっているし、エルザ自身の私物であるブレスレット型の分子合成機も持ち込まれている。私物であるということは結構お金持ちなんじゃあないか、とも思っているのだが、エルザがお金持ちって俺には想像ができない。
お金といえば彼等、銀河惑星連邦はエネルギーを通貨として利用しているらしい。文明が高度に発展しているにも関わらず、貨幣経済がまだ息をしているのは不自然でじゃあないか? と質問したことがあるが、通貨それ自体を廃止する事をシュミレーションした結果、通貨を廃止することは技術の急速な後退、それに伴う、社会の不安定化、人心の荒廃、終には文明の終焉だったのだそうだ。まあたしかにこの分子合成機を大々的に利用して貨幣経済を止めると技術を習得する事や、それを習得する際に学ぶ物が無くなり、文明が荒廃するのは理解できるような気がする。社会構造自体がこの分子合成機に支えられて発展してきたならまだしも、後から開発されたのであるならばこのシミュレーションの結果は十分にありうる物なのであろう。
少々話が学校からそれてしまったので話を学校の事に戻そう。
本来学校とは何であろうか?
答えはそれほど難しくないであろう。おそらく現代では10人に聞くと、10人全員が教育の場だと答えると思う。
この時代でも、そしてエルザ達に聞いてもそれは変わらなかった。
しかし教育ということになると定義は一気に現代ですら、いや現代だからこそ、なのかもしれないが多様化する。この時代においては教育とは単に知識や技術を教えることなのである。
では現代ではどうか?
これは読んで字の通り、教え育てることであろう。つまり知識、技術を教えることや、さらには其を以て人そのものを導き善良なる人間を作り出すこと、あるいはその人の元より持っている能力や素質、例えば絵が上手であるとか、を発展、深化させること等、であろうかと思う。
捻くれた見方であるがこういう定義もある。教育とはその当時の社会、あるいは政府がそれらにとって望ましい姿にするために人を変化させ、それにとってもっとも良い価値になるように実現させる活動だ、と。
元々の語源は『孟子』の「得天下英才、而教育之」とあるのが初めてだそうだ。英語のEducateの語源は導き出すのだとか。
ではエルザ達の考える教育とは何なんだ? と聞いてみたことがある。
答えは、単に知識や技術だけでなく人間一人一人が真の意味で我々の文明人として深化していくこと、だそうだ。抽象的すぎてはっきりとしていないが、逆に定義を狭めると連邦制を採用している以上不都合が生じる、とのこと。
この学校における我々の最終目的は来るべき最悪の事態に技術面から備える事だ。つまりセセミンターに対して大々的に抵抗出来なくても、少しでも抵抗力が有るのだと言う事を見せ、交渉を有利にする、その抵抗力を技術面から支援する事である。
もっともそんな事態が来るかどうかは分からないし、エルザは来ないでしょう、たぶん、と言っているが備えること自体は賛成だし、積極的に支援もしてくれている。
まあ、最初からはそこまで行けそうにないのは火を見るより明らかなことだ。何せまだ青銅器時代なのだから。
この事は既に軍人である4人が知っているが、その他の生徒には知らしていない。
全ての校舎の設備の説明を終え、心底驚いている生徒達にさらに追い討ちをかけるように寮を紹介する。校舎は平屋の部屋が9つあって、その部屋のなかに机と椅子がある。子供達が字と計算を学びながら形成木炭や紙、製糖の作業をしている学校の教室と同じないそうである。机と椅子の材質が違うが。
寮はその校舎の右手側に3棟が建っている。校舎と同じく、平屋、2人で1部屋の1棟36部屋で72人収容の2棟と、残りの1棟が食堂と風呂になっている。収容人数に余裕があるのはこれから更に学科を増やして、今ある学科の人数も増やすつもりだからだ。学科で言えば医科、薬科の設置は喫緊の課題であるし、商家からと主に徴税官僚の一部からの経済学部、といっても経済の仕組みと帳簿などの付け方や税収法の効率化等、を設置してほしいとの要望もある。派閥的には政治官僚、そしてその上にいる重臣はこの学校自体に反対であるが、まあ官僚も重臣も一枚岩ではない。積極的に支援されることもあるのだ。軍は回りが敵だらけであることも要因なのだろうが大方賛成である。ただし商家や鍛冶屋や一般の工房、商店と同じく人手が足りないから現役の軍人の入学は申し訳ないがこれが精一杯なのだそうだ。代わりに優秀な人間を送りますとのこと。
彼等は寮の各部屋に入り寝具、2段ベッド、とその対面にある学習用の机と椅子に驚きながら、決められた部屋割りにそって案内されている。
彼等生徒を寮に置いて俺達は今後の授業のことを最終調整しに校舎に入っていくのだった。




