セフィルト Side1
先にイシュナとの結婚の話を投稿しようかとも思ったんですが、このままだとノクターン(18禁)行きかと思い、一回書き直しています。その間に解説的なサイドストーリーを投稿しますが、長いため前編、後編に二分割、その前編を投稿します。少々テンポが悪くなってしまいますので、これとの間にイシュナの話を投稿する可能性もあります、ご容赦のほどを。では、サイドストーリーをお楽しみください。
地球から数億光年離れたとある銀河の中にある、とある惑星サイ・フィオン。ここには銀河惑星連邦の首都機能がある。この首都機能は加盟国の代表で構成される議会と、加盟国共同で行う行政を調整する中央行政機能に大体分けることが出来る。
この惑星自体が人工物で移動も可能なのだが、この場所にすでに鎮座して久しい。この惑星の軌道上には多数の艦艇が航行しており、正しくこの宇宙の一大勢力に相応しいといえよう。
その惑星の中で一人の銀髪で我々人類と良く似た風貌を持つ女性が、この惑星で最も巨大な建造物の中にいる。彼女は閣議室の控え室で、飲み物を飲みながら、控え室に入ってきた厳つい服を着た一団と会話しはじめた。
「久しぶりですにゃ。統合情報局、セフィルト局長」
入ってきた一団の一番前にいた少し猫背の初老の猫人の男性がその女性に挨拶した。その男性は体も手も猫であった。まあチンチラ見たいな白い猫が、大きくなって二足歩行して軍服を着ている、と言ったところが正確な表現であろうか。
統合情報局は、傘下に諜報部、情報保衛部等を持つ情報機関である。
「久しぶりね。ユーリャン統合参謀本部議長」
彼女はその男性に目を向けながら答えた。
「相変わらず、御美しいことですにゃ」
社交辞令と言うより半ば本気でその男性は宣う。
「奥さんに言うわよ。それにこの歳のおばさん捕まえていうことじゃないわね。大体、私は貴方が子供の時から知ってるのよ」
女性は笑いながらその男性に返す。
「その時から美しさは変わっていませですにゃ。それにあなたの美しさは女房も同意するでしょうし。それより珍しいことですね、ここにあなた本人が来るのは。何かありましたかにゃ?」
男性はそれをのらりくらりと躱しながら本題に入る。
「あったと言えばあったわ。今回はセセミンターに狙われている植民惑星が所属する連邦加盟国の国家元首も来るらしいじゃないの、少し興味があってね」
女性が飲み物を少し飲みながら答える。
「いつもはホログラムで参加されている、あなたが来るぐらいですかね。本当にただ単に、それだけですかにゃ?」
少し首をかしげながら男性がさらに追求する。
「そうね、まだ開始までほんの少し時間はあるわね。ちょっと所見を伺いましょうか」
姿勢を正してセフィルトがユーリャンに話しかける。
「まず今回の事態、統合参謀本部としてはどの辺りにセセミンター、そしてその後ろにいる同盟の目的があると見ているの」
「今回の閣議の主題でも、またその後に開かれる安全保障会議の議題でもありますにゃ。まあ、ここ最近この問題が主な議題でありますが」
ユーリャンがセフィルトの意図を確認しようと少し焦らす。しかしそれに構わずセフィルトは続ける。
「さらにまだあるわ。この時期になって散々連合側が渋っていた、我々の連合に対する技術協力に連合が同意したのは何故? 外交部が頑張った訳でもないでしょう。一様あの技術協力は連合の首都防衛に対する協力なのよ。あの程度じゃあ元より2級宇宙怪獣にすら対抗できないのは明白でしょうに」
連合はこの宇宙に存在する連邦とは別の政治集団である。この宇宙では最も新興勢力であり、彼らは共通の技術の上に立つ連合体である。連邦は彼らの首都の防衛機能に技術的協力を申し出ていたのであるが、連合側が渋っていたのだ。まあ、首都の防衛に他の政治勢力を咬ませるのはリスクが高いのは言うまでもない。それが宇宙の戦国時代ともいうべき大規模な戦争が終わって久しいこの平和な時代、同盟との戦争は除く、あれは彼らの病気みたいなものだと連邦の人間も考えている、においても、またそのなかで防衛戦以外の戦闘を一切放棄した連邦相手であっても。
もっとも同盟もここ四百年ほど動きがない。何故なら大規模に戦力を疲弊させる出来事が有ったからだ。そういう意味において小競り合い程度はあっても本格的な戦争は全くと言って良いほど無い。
宇宙怪獣は言葉の通り宇宙に適応した意思疏通のできない、いわば害獣や害虫で、無機物の場合もある。その危険度に応じて等級分けがされている。意思の疎通ができなければ、同盟ですらこれに当てはまる寸前であったこともあるし、いまだにこれに当てはまる、と声高に主張する者もいる。
「同盟側が再度動き始めたから慌てたのではないのですか?」
参謀の一人、トカゲのような爬虫類人、恐らく情報畑の参謀が発言する。
「同盟側に大きな動きはないわ。それが情報局の最終結論よ」
参謀達が息を飲み込む。
「本当ですか、つまりセセミンターのみが動いていると」
議長が顎髭に手をあてながら尋ねる。
「同盟の大半は恐らくセセミンターに引きずられているだけね。同盟に大きな動きなし、と言う情報それ自体が半ば証拠のようなものよ、彼らの大半はまだ先の戦闘から立ち直れていないわ」
補足しながら説明する。
「連合のこの動きも怪しいということですか?」
信じられない、と言う風にさっき答えた参謀が尋ねる。
「そこまではさすがに言ってないわ。単なる偶然かもしれないしね。でも、偶然じゃないかも知れない。そこで実際いってきた人の証言が欲しいの、技術少将」
議長が引き連れていた一人にセフィルトが話しかける。彼は鳥のように羽がある生き物で、その彼は議長に発言して良いか目で尋ねてから言った。
「連合の各位と話した感覚では単純に宇宙怪獣の驚異にたいして過小に評価していると感じました。私としてはこれまで遭遇した宇宙怪獣、特に凶悪だと知られている者達の過去の行動様式と被害実例を参謀本部の許可のもと開示いたいました。それが今回の技術協力の要因ではないかと愚考するところであります。このように閣議と安全保障会議で発言しようと思っていたのですが認識不足でしょうか」
しくじりましたかね? といった具合に技術少将が尋ねる。
「いえ、現状ではその貴方の認識で良さそうね。別の線からもそう報告は上がってきているわ。彼らは本格的に宇宙怪獣と出会ったことは無いものね」
セフィルトは彼にそう言い時間を見る。そろそろ閣議の時間のようだ。議長も時間に気が付いたようで挨拶して、議長達が閣議室に入っていく。セフィルトも飲み物を飲み干し、閣議室に入り自分の椅子に座る。
閣議は例の国家元首の参加も有ったもののそれほど大きな混乱もなく終わり、安全保障会議に移行する。関係の無い官僚や大臣は会議室を後にして安全保障会議が始まる。どの国家元首、加えてその者の推薦の有る者でもこの閣議または連邦安全保障会議に出席可能であるし、この結果は加盟国関係各位に通達される。
「今回もセセミンター関連が大半ですが、当事者ともいうべきお方も来ていただいておりますご紹介は先程の閣議でいたしましたので省力させていただきます」
会議進行役の補佐官が進行させていく。
「統合情報局、セフィルト局長。重要な報告が有るとのことですので、先ずは局長から」
「報告が二件あります。一件目はそれほどではないのですがそちらから報告させてもらいます。セセミンターの狙っている植民惑星の周囲を探っていた諜報部の職員から定期連絡がありません。遭難の可能性もありますが、その職員の身元が問題でして、エルザ・シュタインマーです」
抑揚の無い声で報告する、が少し会議がざわつき始めた。
この安全保障会議の議長でもある先程のトカゲとは別の姿形をした連邦大統領が慌てて質問する。
「あのシュタインマーに名を連ねる者かね。どうしてそんな者を情報局は使っているのかね! シュタインマー家にはもうその情報は行っているのかね?」
シュタインマー家とは連邦初期の政治家の一族で、いまだに経済界とも加盟国政治家とも繋がりの深い一族である。
「少し待ってください議長。確かエルザと言ったらあのシュタインマー家の問題娘ではなかったかな。調査部に在籍していた時に、発展途上惑星に降り立ち、自分の主義主張を押し付けたと聞いているが」
外務大臣、連邦とこの宇宙にある他の政治集団、連合、協商、帝国、場合によっては同盟とも、と外交をする外務省の長である。ついでに彼は犬の人であった。
補足するとちょうどエルザの趣味に合う者が迫害を受けていた。それで彼女がきれて少しばかり手を貸しただけであるが、当然連邦の規約に違反する。これを機にシュタインマー家はエルザを放逐、調査部からも、というより情報局自体を罷免させられそうになったものの、その才能を惜しんだセフィルト局長により諜報部に移動となったのである。もっともエルザ自身辞めさせられたくないとは思っていなかった節があるのだ。何せ本人は間違ったことはしていないと思っているし、もし同じ事態に他の調査員が、いや連邦に属する者が遭遇しても同様のことをする、と彼女自身そう思っているからだ。ただしシュタインマーや外交部は少し違った、面倒を起こすな、と。元々シュタインマー家の現当主で腹違いの長男、からも疎まれていたのが災いした、さらに悪いことに彼は現在外交部に在籍し、一大派閥を築いているのだ。
「正確ではありませんが、そのように解釈も出来うる事態を引き起こした張本人でもあります。それはさておき捜査、あるいは救出ですが、セセミンター側の広域捜査網に引っ掛から無いようにしようとすると少数精鋭で行わなければなりません。許可願いたいのです」
大統領と防衛大臣が統合参謀本部議長の方を見る。
「よろしいですかにゃ?」
「どうぞ、ユーリャン統合参謀本部議長」
司会役の補佐官が発言を促す。
「セフィルト局長の言う通りだと思いますにゃ。この場合、我々統合軍が動くのは本格的にセセミンター側の介入を認めると言うことと同義ですにゃ。確かに我々が動くとなりますと彼女の救出も、当然生きていればですがにゃ、セセミンター側が狙っている星の防衛も言うまでもなく可能でしょう。しかしそうなるとセセミンターも只では引き下がりますみゃい。最悪、星間戦略兵器での恫喝、あるいはその使用に踏み切らないとは保証しかねますにゃ。彼らにもプライドはあるでしょうし、立場もあるでしょうかりゃ」
一気に言い切る。
「同盟もそう言う事態になったら確実にどんな無理をしてでも動くと思います。400年前の例の事件の時のように」
セフィルト局長がそれに続けて発言する。
「400年前の事件のか。私はまだ産まれていなかったから知識としては持っているのだが、実感があまり湧かないのだ。確か局長と統合参謀本部議長、それに内務大臣はもうその時には軍務や政務活動に着任されていた、と思うのだが是非教えてくれないか?」
大統領が尋ねる。この三人は長命種であるのでその時のことを知っているだろう、だから教えてくれと言う風に皆が三人の発言を注視している。
「そうですね、覚えていますよ、先ずは私からお話しさせてもらいましょうか。あの時は丁度内務省惑星開発管理調整局センダワル星系特別経理部施設課に在籍していました。そうですあの事件の起こったネエリック星系の近くです。その当時同盟側のセセミンター同系の種族、今は皆知っていると思いますがその事件で種としてほぼ絶滅状態にあります、の近くに赴任するとのことで、いざと言うときのために単身赴任を選択しました。異変があったのはその年の半ばを少し過ぎた時でした。確か内務省の日報で知ったのだと思います、同盟側の情報量が著しく増加している、と。それがこの事件の私にとっての始まりでした」
機械人である内務大臣は、ここまで言って少し間を開けた。
「統合軍のその銀河方面軍隷下の全軍が非常召集。私の居た惑星開発でお付き合いの有った工兵部隊が即座に惑星内に防衛陣地を構築しているのを見ていましたし、実際色々と資材関係でお手伝いもしたのを覚えています。まあ時効だから言いますが資材や資金の横流しもしたものです」
ここで皆、堅物で有名な内務大臣がそんなことを言うなんて信じられない、とばかりに驚いている。
「この時局長からとある内密な指示をいただきました。考えらうる最悪の状況に早期に対応するため情報収集を強化し、それを統括せよと言うものです。私は色々と伝をたどって、なれない情報収集を開始しました。そんな時、私は同じ内務省の科学局の統合重力波望遠鏡の職員と接触することができました、異常な重力波反応がネエリック星系で観測されたのだ、と。彼はこれから中央科学局にこの観測結果を送って解析してもらうと私に教えてくれました。この一報は有名ですので皆知っているかと思います。そして各高名な研究所や大学にこの観測結果の解析を依頼して、これの結果を待っている頃、終に情報通信に未知の通信がネエリック星系で観測され始めます。そしてこれに呼応するかのように同盟側の情報通信も爆増した、と聞いたのを覚えています。ここら辺はセフィルト局長のほうが詳しいと思います。実際この情報は情報局の職員に教えてもらったぐらいですからね。そしてこの年の終わりも近づく時、彼から私がこの事態の真実に最初に近付いた情報を聞かされます。どうもネエリック星系で宇宙に穴が開いたようだ、との比喩的表現であったと記憶しています。そしてあの未知の通信者は外宇宙からの侵入者だろうと、もし最悪の事態を想定するなら同盟は一戦して敗北しただろうと。それの証拠にかの星系では一旦両方の通信量が増加した後、同盟側の通信は傍受出来なくなったといったものであったかと思います。この情報に驚いた私は即座に局長に、不確かながらとの前置きをしてこの件を報告しました。局長は少し考えて何かを決断された顔で私にこう言いました、一般人の避難を勧告しよう、と。それを聞いた彼の部下達は一斉にそんな不確かな情報で避難を勧告するのは早計過ぎますと皆思ったことでしょう、実際直接進言した方もいたと記憶しています。なにせはじめての事態ですからマニュアルなど有りません。英断だったと今考えるとそう思います。同盟の侵攻の経験も、宇宙怪獣による深刻な被害も経験していない避難の決定を渋る首長を説得した局長は職員の家族にも疎開を強制的に命令されました。後で聞いたのですが局長は同盟側との激戦地でもあるオリウェック星系の出身で、実際第三次オリウェック星系攻防戦で同盟側の奇襲と言う要因はあるものの、一般人の避難勧告が遅れ、その際ご両親を亡くされた経験をなさったそうです。この疎開のための船団を見送ったあと、入れ替わるように彼らが来ます。そうです、間一髪疎開は間に合ったのです、あの説得が少しでも長引けば船団それ自体が被害に合ったでしょう、歴史では間に合ったとだけしか書かれていませんが実際はギリギリなんとか間に合ったと言うのが実情です。彼ら外宇宙からの侵攻者は我々の防衛衛星と駐留艦艇の決死の抵抗を一蹴したのち、軌道爆撃を開始、私も志願兵として建設工兵の部隊に配属されました。彼らの軌道爆撃はまさに猛烈の一言につきます、いまでも在り在りと思い出すことができます。直しては壊され、壊されては直し、終に壊されているところのほうが多い事態に成ってきます。運良く死を免れていた私でありますが、その時はもうすぐ傍まで来ているのを実感しておりました。そんな時にようやく救援が来たのです、そうですねユーリャン統合参謀本部議長」
内務大臣が統合参謀本部議長に話を振る。
「そうですにゃ。その時私は第一波救援艦隊の作戦参謀の一員としてこの件に関わっていたですにゃ。先程内務大臣が仰った同盟側が敗北したのではにゃいか、という情報は艦隊にも、鎮守府の方にも伝わってきていたのですにゃ。そしてセンダワル星系の疎開が開始されたと聞いた当時の艦隊司令がこれの護衛を下達したのですにゃ。すでに当時私が配属されていた子持ち連星銀河、第31艦隊は広域非常警戒体制にその年の半ばよりあったのですぐにセンダワル星系に向けて護衛のために出航、疎開船団と合流した丁度その時にセンダワル星系襲撃の第一報が入電したのですにゃ。第一報の連絡では彼我の戦力差は我が方の艦隊だけでセンダワルに駆けつけても良くて玉砕、悪ければ犬死に、これではだめにゃと子持ち連星銀河駐留全艦隊である第18、第31、第81、横の魚頭銀河からも全力である第42、第56、第65と一緒に連合艦隊を編成センダワル星系に殴り込みをかけたのですにゃ。この外宇宙からの侵略者をセンダワル星系から辛くも退けた連合艦隊だったのですが、偵察の結果、流石にネエリック星系まで侵攻して侵略者を打ち破り奪還することは不可能だ、それどころか続々と増援が穴の中の外宇宙から来ておりこのまま行けば我々のいる局部超銀河団すら危ういのではにゃいかとの結論に至ったのですにゃ」
ここで一旦ユーリャン統合参謀本部議長は話をきった。




