第9話
外伝如何だったでしょうか? 外伝にも書きましたが色々と仕込んであります。あまり期待せずお待ち下さい。私事ですが靴下が四回はいただけで親指の先っぽが破けてしまいました、一回はくとなんと25円。足の爪切らないと
シャムシに頼まれた日より数日後、俺はバビロンに来ていた。
そう、新しい学校の生徒の確保のためである。この学校は専門的な事に特化した高等職業教育機関に研究機関を足したようなところであろうか。第一の目的は高度な技能をもった専門職の育成で、そこに少しの研究を足した感じにしたいと思う。
つまり大学、あるいは専門学校といわれるものであろうか、それを目指したいと思う。専門学校は専門技術・職業を習得させる教育機関であり、他方、大学は専門的学術分野の研究および教授を主たる機能とする教育機関であろう。こういう意味において目指しているのは研究を中心に据えた大学なのではあるが、現状ではまず不可能であろう。
余談だが日本においては専門学校の大学、あるいは短大化が進んでいると言う、日本以外では、主に歴史的な背景もあろうか、少し考えれないことである。別にそれがダメだ、といってるわけでも、しっかりしろよ、と言ってるのではない、大卒の方が優遇される風潮が日本はまだ残っている、あるいは業種によっては強いのであろう。学校経営と言う面も軽視できない一面でもあろう、なにせ少子化社会である、これに対応すべく、どの学校も一所懸命である。
まあ、ここでは全く関係ないことではあるのだが……。
ラアリの町で流入する人の戸籍を実験的に取ってみたことがあった。結構大変な作業で、流入者の数が数だけに色々なところに応援、数を数えれて文字がかければ女子供でも引っ張ってきたぐらいだ、を求めなんとか完全な戸籍簿を完成させた。
元々流入してきた彼らの大半は避難民であったし、働けるものは色々なところに出稼ぎに行って人口構成は歪であるはずなのに、それにもかかわらずきれいな人口ピラミッドを形成していたのは、凄いの一言につきる感があった。もっとも出稼ぎ組の家族の大半が帰ってきて、人口ピラミッドは男の方で歪になってしまったが、これは出稼ぎ組に女性が少ないことにも一因がある、と言うのを子供達に学校でグラフにして説明したこともあった。少し数と言う物の勉強に使ってみたのだけれども、反応は今一だった。
逆に夜学では盛大に反応していただいた。
おっと、そろそろ目的地に着いたようだ。まずは鍛冶屋から協力を得るために説明していこう。
「さて、と言うわけなんですけど、どうでしょうか?」
学校の趣旨の説明と、それが鍛冶屋にどのように影響するかを丁寧な口調で説明して、賛否を尋ねる。
この鍛冶屋にも色々と頼み事をして無茶、見たことも聞いたこともない物を作れ等、を聞いてもらってるし、その無茶の反響、実際忙しくなってしまったと言う有り難いんだけど厄介な、も感じてもらっていることだろうから反対はされないと思うが……。忙しすぎて、手伝いもしている戦力でもある人手を出してくれるか一抹の不安も有ったり無かったり、と。
「あのプラウにしろ、犂にしろ、あんたの考える物は面白い物がある。鍛冶屋としたら関与できるだけでも冥利につきるからな。忙しいが、だからといって一人ぐらい持っていかれても困るもんじゃねえ、出す。しっかり面倒見てくれよ。まあ、出さねえやつは居ないだろ。他にも声かけるんだろ、シャムシやあんたのことだから」
「ああ、まあ、ほとんどの工房には声をかけるつもりだけどね」
口調をいつもの調子に戻して、少しはぐらかす。
実際、声をかけない工房は神殿御傭の所だけだ。これも神官に声をかけて、生徒の確保に繋げたいけれど、宗派によっては厄介事になりかねない、面倒事は困るから君子危うきに近寄らずの精神でパスさせてもらう。
「ま、そう言うことならこちらから無理言っても頼み込みたいぐらいだぜ。どうかよろしく頼む」
親方が改めて、いや逆に頼み込んできた。
「いやいや、頼んでいるのは俺の方だ。しっかり面倒を見るから、是非よろしく頼む。さて、次のところにいかなきゃならないから、これぐらいで。忙しいのに時間取って貰って悪かったな、じゃあ」
こう言って鍛冶屋を後にし、他の鍛冶屋を回り快諾、というより逆に嘆願されかけながらもなんとか工学学生、金属関係の、募集に成功した。
明日は他の工房に生徒募集のための説明をしに行く。例えば木工なら機械工学に関係するし、土木なら、そのうち土木工学作る、エルザの持ってる資料と俺の知っている知識の融合、または土木のための素材、これなら工学関係でなんとかなる、で代用する、もっとも土木を専門としている工房があるわけではないので、生徒を集めに行く所が少ないのではあるが、建築工房であるなら、あるいはとも思っている。
「で、俺のところにも説明にきたって訳かい。まあそう言うことなら、こっちからお願いしたいさね」
次の日、木工工房を回り、生徒を出して貰って、次に訪れたのは石灰窯の工房である。この工房は石灰石を燃焼させて生石灰を得るための窯がある。簡単に言うと炭酸カルシウムCaCO3を燃やして酸化カルシウムCaOにするのである、当然二酸化炭素CO2がもくもく出る。前に石灰を手にいれる時にお世話になった。なお他の使い道も教えてみたのが、工房単体としては微妙なところであるそうだ。出来た酸化カルシウムは即座に水と反応させて、砂を叩き込みモルタルに加工する。じゃないと空気中の二酸化炭素と勝手に反応して元の木阿弥になってしまうのだ。その作業を横目に話は進む。
「ありがたい。ついでと言っちゃ、なんだけど建設や設計に手練れている連中や工房を知らないかい?」
「そうさね、モルタルの繋がりでそういった連中とも付き合いはある。紹介するよ」
「ありがとう、どうしようか悩んでたんだよ。よろしくお願いします」
彼らの居場所を聞き、数件工房を回ってから、中間報告をかねてシャムシに相談のために王宮に向かう。
バビロンの王宮に向かうための長い坂を登り、王宮の中に門番に挨拶して入る。
「おお、コウジ殿、久方ぶりじゃの、少し時間はあるかの? 折り入って相談があるのじゃが、ちとわしの部屋までご足労願おうかの」
表情だけは笑ったイラ・カブカブ王に王宮でばったり出くわし、彼の御付きの、がたいの良い護衛達に左右両方と後ろからがっしりと固められて、部屋まで半分強制的に連行されてしまった。
「えっと、どういうご用件でしょうか?」
おっかなびっくり王に尋ねる。前に座った王が俺の目を見て、俺との間に少し静寂が訪れる。
「ふむ。シャムシから聞いておらんかったのか? イシュナとの婚儀の話じゃ、どう考える、ん? その方も何時までも根無し草と言うわけにもいくまいよ」
少し笑いながら聞いてくる。その笑顔が怖いですよ。
「あの子にも迷惑をかけた。早く安心させてやりたいのは親心でもある。なにせ事情が事情だけに難しい物があるしな。で、コウジ殿の出番じゃ。お主なら安心して任せられるし、イシュナも気に入っておる。お主も満更ではなかろう、ん?」
ん? といわれてもイシュナまだ10歳ですよ。早すぎじゃないですか。まあ嫌ではないけど。いや、待て、これは拒否したら駄目な感じだ、王の目が怖い。空気を読むんだ俺。よし、話だけ受けて彼女の意思に任そう。
「慎んでお受けします。が、イシュナは納得しているのでしょうか?」
「納得済みじゃよ。すでに諾は受け取っている。わしも丸くなったものじゃて。この立場でなかったら、あの子の承諾は無視しておったわ。しかし、わしも歳を取ったと言うことかの」
笑い顔でそんなこと言われてもね、どう答えようか。
「これでお主は、私の婿殿じゃな。いや、めでたい。ここだけの話シン・ムバリド王もそなたを狙っていた感じがしていたのでな、少し急いだ」
なるほど、そういう背景があるのね。
「父上話はお済みになりましたか?」
シャムシが部屋に顔をだす。
「ああ、済んだ。これよりコウジ殿はお前の義弟となる。色々とその方達動いているのは小耳に挟んでいるが、無理をしないようにな。ヤギトとて敵がいないわけではない、今は風を待つときぞ」
もっとも我々にも敵がいるけどね。
「風は吹きますか?」
シャムシが尋ねる。
「吹く、必ずの。もっとも、その時にいかなる用意が出来ておるかは、今我々が動きそのものに因るとも思うがの。それも理解しての動きなのじゃろう、シャムシ?」
おそらくラアリの町の話をしているのだと思うが、目的はそれだけじゃない、実は。ラアリの町はいざと言う時の抵抗の為の技術をうみだす学術研究都市であって、その為の軍事拠点ではない。
まあ、これから研究する物如何によってはこの時代の軍事力に対しては軍事拠点化出来なくもないが、この時代の一般的防衛手段である城壁さえも備えていない。
何故か? 答えは簡単、バビロンに対しての遠慮と、城壁があったら都市の広がりが制限されるからである。
主に後者のほうが主要因ではあるが、遠慮、あるいは配慮も重要なことであろう。
なにせニムロデが出入りしているとはいえ、亡命してきた者達が避難してきた者達と一緒に町を作っているのである。いくら遠慮や配慮をしてもしたりるということはないだろう。
実際口出しも、ごく稀ではあるが手出しも、されている。これは仕方のない話である。色々と知っている俺と、超越した技術、知識を持つ宇宙人であるエルザ。この二人がいる町、しかも色々とその知識や技術を教えているのだ、バビロンの王宮の官吏が心配しない訳があろうか。
もっともエルザに言わせると怖がって出ていけ、とやんわり言ったのはそっちだろう、と。色々彼ら官吏達も思うところも有るかもしれないが、人間、自分のその時の都合に左右されるものである。
そういう意味もあっての専門学校の生徒をバビロンで募集するのだ。つまり技術の、知識の独占はしませんよと宣言するわけである。軍事学をも教えることからこれは必須事項であった。エルザ達の立場から言えばこの程度の、さらに正確に言うとこの時代の技術でも教えることの出来る、軍事学は大したことがない、と言ってもいいと思う。が、この時代の人間にしたら話は別である。地球上で最先端の軍事学を教えてもらうことが出来るのだから。
軍事学を受ける対象はバビロンとイラ・カブカブ王の軍人達やその子供である。本音で言うと軍事学は全員に受けてもらいたいのだ、軍事と言うのはありとあらゆる学問に密接に関与してくるし、いざと言う時の保険にもなる。ここら辺まで事情を知っているのはシャムシ、イシュナ、ニムロデ、サイードさんとジュナさんもたぶん気付いているだろう、二人の王もあるいは気付いているかもしれない。しかし王だけで国を統治しているわけではないのは当然である。知っているから、そして恐らく、ある意味納得していても、同意できないと言うこともある。国の頂点に立っている者ならばその矛盾とでも言うべき物を背負わなければいけないものなのだろう。
「はい」
シャムシが頷く。
「ふむ、積もる話はまたの機会にな、コウジよ。シャムシかサイードに会いに来たのじゃろう」
一礼して王の前からシャムシと一緒に退出する。
「さて義兄よ。相談があるのだが良いかな」
廊下で茶化しながらシャムシに話しかける。
「いつもと一緒でシャムシでいいよ、義弟よ」
ぐふ、義弟かよ。ダメージ半端ないわ。さっさと謝ろう。
「はい、ごめんなさい。コウジで良いです」
通路からシャムシの部屋に入り改めて話しかける。
「建築工房にも工学の関係で接触したいんだけどお願いできるかな? いちよう場所は石灰窯の工房で聞いてきたんだけれど」
「いいよ、こっちは神殿関係は終わったよ、大変だったけど。軍関係も終わったよ、こっちは楽だったけどね」
「じゃあ明日は俺は工房の残りと誰を送り出すか考えたいって言ってた工房を回って最終確認してくよ」
「僕はコウジの言ってた工房を回ってくるよ。最初はこんなところで人数、大丈夫かな?」
紙に名前を書いて人数を示してくる。即断即決の出来る神殿と軍人に説明してきただけあってすでに名前まで把握しているようだ。俺の方はまだ最終的に何人になるかまだ確定していない。
「恐らく大丈夫だろう。この分なら建築関係で一杯かな」
暗算しながら答える。
「さて、コウジはイシュナの所に行くかい。もうイシュナも父上から話は聞いていると思うけど」
確定事項のように話さないで。
「うぐ、行かなきゃ、だめ?」
「だめ」
何言ってるんだという感じでシャムシが返す。
「即答かよ」
「当たり前じゃないか。ほらさっさと行ってイシュナと挨拶してくる」
シャムシに追い出されるように部屋をでた。




