第一章 転移 教授Sideと捜査官Side
5/15教授 Sideーーーーーー
会議室内で教授は議員先生方に説明していた。
「つまり、この装置の意義は重力子の発生だけにとどまりません。それを使った推進機関としての効果も期待でき」
一人の議員は話を遮り
「それは何度も聞いたよ、問題なのはだ、いや、そういうことではないんだ。我々も全力で掛け合ったんだ。好きでもない連中と長時間協議をかさね、ようやく妥協にたどりついたと思っていたんだ。あのアホどもが、再度の政府閉鎖の脅しをかけさえしなければだがね!!」
「また連中ですか? まったくどうしようもないですね」
教授は溜息をついた。
別の議員も溜息をつきながら
「加えて、今度は少々やっかいでね、まあ前回よりまだましだがね、下手すると下院議長の進退にも問題があるよ、教授。
前回の二の舞は踏みたくないんだよ、誰もね、しかしそういう姿勢は見せれんのさ、悲しいことにね」
「素晴らしき民主主義と言うやつですな」
嫌味ったらしく教授が言うと、話を遮った議員が
「ああ、まったくだ。ねじれてなければここまでは……、いや言ってもしょうがないが」
三人とも再度溜息ついた。
「そう言えば、最初話を聞いていた彼はどこに行ったんだ」
「ああ、孝司は」
教授は周りを見渡し
「彼は逃げたようです」
「何て言いましたかね。忍法変わり身とかなんとか言うらしいですよ」
肩をすくめながら笑って教授が言うと
「ほほうタート○ズかね、昔息子が見ていたよ」と一人の議員が返した。
三人は雑談をはさみながら出されたコーヒーを飲んでいると、 突然警報がなり始めた。
「教授このアラームはなにかね」一人の議員が聞いた
「なにかしでかしたようです、少々お待ち下さい」教授は慌てて席をたちコントロールルームに駆け出した。
「どう言うことだ、何があった?」コントロールルームに滑り込みながら教授はチーフデスクに向かいヘッドフォンを着けた。
「ジョシュア、何故実験が始まっている? それに何故実験室に人がまだ残っている?停止シグナルをすぐに送れ!!」
「やっているんですが、シグナルを受け付けません」キーボードを叩きながらジョシュアが返した。
「前の実験後の改修中だから物が多い。このままだとエネルギーを通した時、火事にもなりかねん! 大体何故止まらん! システムエラーか?」
教授は慌てて怒鳴った。
「送電システムも止まりません。しかもシステム上ラインが別系統なのに両方止まらないってことはエラーとは考えにくいです。それどころか設計値を越えて電力が流れてます。こんなことはあり得ない!!」サブディレクターが返す
「どう言うことだ!!? あり得ん! いや、それよりも今は、中にいる彼女を直ぐに引きずり出せ、
セキュリティーはまだか!!」
「さっきコウジがセキュリティーに。って、放射線隔壁前にセキュリティーとコウジが到着したようです。」
「コウジ無理はするなよ!」
教授はヘッドフォンに叫ぶが応答がない。
「おい各種放射線量は異常ないか? 通信がつながらないぞ!!」
「線量計に異常はありません!」
「女性を取り押さえたようで!! 教授モニターを見てください!」
突然モニタリングをしていた職員が叫んだ。
「なんだこの重力子反応は!!」
教授は実験室のスピーカーに繋がるマイクにとりつき
「すぐに実験室から出るんだ」と叫んだ。
モニター類を見ていると教授が唸った
「おい、なんだ? 空間が歪んでる?のか……」
皆、顔を監視カメラのモニターに向け絶句した
空間が歪みコウジがその歪み、あるいは孔とでも言うべき何か、に引きずり込まれようとしていた。
「教授、実験室内の気圧低下しています。」
「エアロックは、……隔壁は持ちそうか?」
「はい、まだ大丈夫で……」
その時、どよめきが起きた。
そして、コウジが吸い込まれた。
皆、絶句しているなか
「重力子反応低下してきています」と、ある職員が言った。
みるみるうちに孔は、まるで人一人食べて、満足したかのように小さくなっていった。
そしてそれにあわせて装置も停止した。
その後は、まるで戦場のように慌ただしかった。
警察に連絡し、説明し、皆、一時拘留され、解放されるまで暫くかかった。
5/18捜査官Side ーーーーーー
FBI取調べ記録NO.518723 May 18
取調べ官 ホーファー,アンドレアス
「昨日と同じ質問で申し訳ないのですが。つまり教授 我々は、一体どういうことなのかよく要領を得ないのです。」
「何度もいっているがこれ以上のことは説明のしようがないよ 捜査官」
「つまり、装置の誤作動とその結果の職員1名の死亡、いや行方不明でしたか?」
「何が言いたいのだ。 監視カメラの映像は提出したし、拘束された女性も当然取り調べたのだろう、 私に聞いたところで今までと同じ説明しかできんよ。」
「ああ、その拘束された女性なんですが、言いにくいことに我々に身柄を引き渡されたときには、正気を失っておりました。」
「しらんよ、私に言われてもね」
「住所不定 身元不明 年齢 学歴 病歴 その他不明 ありとあらゆる捜査機関に紹介をとっております、が、今のところわかったことは何一つありません」
「つまり?」
「監視カメラを調べた結果、侵入経路が一部わかりました。」
「ほう、どうやって入ったのだね、我々も疑問に思っていたのだよ。」
「改修工事を利用して施設内に侵入実験棟内部で白衣に着替えたもようです。」
「セキュリティータグやIDカードはどう入手したんだ?放射能隔壁扉前には暗証番号もある。」
「はい、まずタグやカードですがシンディーさん本人が保管していたもの、と確認がとれました。
規則では携帯を義務づけられていますが、娘さんが朝いちに病院に掛かったときに、すられたもようです。」
「何故すぐ連絡しなかったんだ?」
「財布の中にいれていたそうなんですが偽物とすり替えられました。」
「今は改修工事中だが、あの日は工事が休みで暗証番号は打ち込む必要があるぞ。」
「はい、理論的に暗証番号は、漏れることがない限り、彼女が知りうることはありえません。」
「うん、まあ、ハッキングされたりしてない限りはな、そしてそれを私に話す、と言うことはハッキングもされていないと言うことか?」
「はい 現状では、そう考えております。
そして考えうることは、誰かが漏らしたと言うことぐらいです。」
「まあそうなるか、で、私も疑われていると?
確かにあそこは軍の研究機関もあるから、懸念はわかるが、誓って私らではない、と信じてるよ。」
「はい、教授ふくめ研究員皆、すでに嘘発見機をパスしておりますから、その点においては懸念しておりません。
それとは違い、お願いがあります」
「なんだね?」
「捜査に協力していただきたいのです」
「すでにしているが?」
「いえ、事象の説明、いえ、解明といった形で、です。」
「私でいいのかね!?」
「ここ数日 まあ今日、昨日で、ではありますが、色々な方にお話を聞かせてもらった結果、教授が最適任だ、と言うことにまとまりました」
「その点については、言われなくてもやるつもりだったよ。
加えてそちらにも報告する、と言うことでいいのかね?」
「はい、その形で構いませんが、こちらから適宜うかがいます」
「わかった」
「では部下に送らせましょう、ご自宅まででいいですか?」
「お願いしよう」
「ではあとは部下に各種注意をお聞きください 先に失礼します。」
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「部長、聴取終了いたしました。」
FBI 国家保安部 National Security Branch アメリカ合衆国司法省、連邦捜査局長官直轄の公安警察である。この部署の任務はカウンターインテリジェンス、国内と合衆国の出先機関に対するテロ対策である。国家情報長官、司法長官、連邦捜査局長官に対して責任を負い、9,11以降に元あった公安部門を発展させて作られてた機関である。その部長がワシントンD,Cの本部から出張って事件のあったここまで来ている。
「ごくろう」
彼は部屋にあるデスクを元々数十年自分の物であったかのように、書類と取調室の隠しカメラに繋がるモニターを見ながらそっけなく言った。
少し不満げにホーファーが
「しかし、よろしかったのですか? 教授に今回の調査を依頼しても?」
部長は生え際が気になり始めた前髪をいじりながら、前置きをつけて言いにくそうに語りだした。
「かまわんよ。どのみちこの国には彼以上の適任者もいない。それどころか……、この件は、君だから教えるんだが」
続きを促しながら
「なんでしょうか?」
部長は、周りを見渡し小声で
「内密に頼むよ。 もとはといえばこの件はスパイ案件だ。それはわかるね? ただ、それだけではない、おそらく軍だと思うが、もし行方不明または死亡した職員が吸い込まれた孔のメカニズムが解るのであれば、あの孔に利用価値がある、と思ったんだろう」
「利用価値ですか?」
首をかしげる話だ、まるであの孔が何かわかってるかのごとき態度だと思った。
「うん、おそらくだが疑問に思っている通りなのだろう
軍は何かを知っている、それどころか今回の一件、裏で何かしている可能性も十分ある、と私は思っている」
部長は苦い顔をしながら呟いた。
CIAが国内で非合法活動をすることは、一様なく、消去法で軍のみが大規模な活動をできうる。
「それを理解した上で動け、と言うことでしょうか?」
私も苦い顔をした。
「まあ、そうなる。とんだ勘違いかもしれんが、頭の片隅に留め置いてくれ。以上だ」
「了解です。失礼しました。」
重い気持ちで、部長のいる室から出た。
さて、これからどう動くか。