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Solanum lyratum  作者: モモンガもどき
本編(鈴花視点)
9/30

Entschädigung

話の展開的に分けるべきだったかも…なんかゴロッゴロッと進んでてすいません。

……どういうこと?

頭の中で祥平さんの言葉がぐちゃぐちゃと駆け巡る。

「そっくりじゃないか?」「誘拐事件の犯人って…」「グレーっぽい目をした…」「…覚えてるか?」「…わるい。」…


「俺はその加害者の息子だよ。」


それって…どういう…



「俺の親父…俺が10歳のときに警察に捕まったんだよ。未成年の女の子を誘拐、監禁した罪で…」


私の思考を遮るように祥平さんがポツポツと語り始めた。下を向いたまま、決してこちらを見ようとはせずに…


「俺のちっさい頃はほんといい親父だったんだ…優しくて、遊んでくれて…でも、その事件の1年くらい前からか…急に可笑しくなったんだ。家に帰ってくることがパッタリなくなって、会ったと思ったらなんかの写真を眺めてブツブツ言ってて…ソワソワしてはまたすぐ出て行って……」


そうして…祥平さんは自分の前髪をくしゃりと握りこんだ。


「俺も母さんも、どうしてこうなったのかもわかんなくてさ…結局、俺が真実を知ったのは全てが終わった後だった。

事件後すぐ母さんは病んじゃって入院とかしちゃって…警察から親父が1人で借りてたアパートが見つかったんだけど、どうしたいかって聞かれたんだ。もちろんオレにじゃなくてじいちゃんとばあちゃんにだけどな。俺はどうしても事実を自分で確かめたくて…そのアパートに行ったんだよ。そしたら…壁一面にある女性とその人そっくりな女の子の写真が無数に張られてた…新聞の記事の切り抜きや盗撮したであろうものまで…」


「…その写真の人ってもしかして…」


恐る恐る震える声で口を挟む。

その問いに祥平さんは自嘲するように短く笑った。


「そうだよ…木下恭子。お前の母さんとお前の写真だよ…あとでじいちゃんに聞いたんだけど…親父にとって木下恭子さんは高校時代の憧れの人だったんだって…何度も告白しては手酷くフラれて…でも諦められなくて…それで……」


思わずなんて言葉をかけていいのかわからくてひたすら震える手を抑え込む。

どうしたらいいのか…

考えがまとまらない…記憶の断片が蘇りそうになっては、それを拒絶するように頭痛が起こる。


「…な?無理だろ?こんな奴が近くにいてお前は…安心できないだろ?…最初俺も気がつかなかったんだ。初めてあったとき、何処かで見たことある顔だなって思ったのは確かだったんだ…でも……気がついたのが遅かったよな…結局お前を傷つけた。離れようって思ったのに、お前を久しぶりに見た途端離したくないって思っちまった…最悪だ…こんなの……親父と全く同じじゃねーか…」


その言葉に私の胸がキツく締め付けられる。

そんなことない…確かに犯人と祥平さんは親子なのかもしれない。それでも…

否定の言葉が…喉までせり上がってきてるのに、そこから先へと音にならない。

そんな私の様子を見て、何を勘違いしたのか…彼は安心させるように笑いかけた。


「…安心しろ。もうこれっきりだ。どっちみち今日が最後のつもりにしてたんだ…もう2度とお前には関わんないよ。散々男性への恐怖心植え付けといて、俺までこんな騙すようなことして…ほんとごめんな…」


そう言った途端。祥平さんの体がぐらりと傾いた。





「えっ?」


私の目の前でそのままガシャッと音を立てて、祥平さんが倒れこむ。


「祥平さん!?」


慌てて駆け寄ると、彼の額には油汗が滲んでいた。よく見ると呼吸も荒く、顔色が悪い。

なんで気づかなかったの!?


「祥平さん!しっかりして!!」


「っっ!!」


抱き起こそうと祥平さんの肩に触れたとき、彼が何かに耐えるように顔を歪めた。


「えっ…」


恐る恐る肩に触ろうともう一度手を伸ばすと、それを阻止するように手首を掴まれる。


「祥平さん!何する…!?」


抗議しようと視線を移した途中、私の視界には掴まれている自分の手がうつる。

手のひらが…赤い…

そのさっきまでなかった赤い何かはべっとりと手のひらにこびりつき、焚き火の光の下に鮮明に写し出される。


その瞬間、一気に私の中に祥平さんを失うかもしれないという、恐怖が駆け抜けた。


そういえば…

私を落ち着けるために抱きしめてくれたとき、片手で頭を押さえてただけだった…

森を歩いてたときも隣に並ぼうとはしなかった…

ましてや、祥平さん…枝を肩に担いで…


そこまでの思考に至ると、私は一気に祥平さんに詰め寄った。


「いつからですか?なんで黙ってたんですか?」


「大丈夫だ…助けが…くるまでならなんとかな…「ふざけないで!こんな血が出てて、大丈夫なわけないでしょ!…傷見せてください!」


「おい…やめ…」


なんとしても見せようとしない祥平さんの手をかいくぐり、強引にTシャツをまくり上げる。


「っっ…」


それを見て私は息を飲んだ。なにかでぱっくりと切れたような傷が肩から肩甲骨のあたりまであり、周りはなにかにぶつかったのか青黒くなっている。


「…だから見せたく…なかったんだよ…見た目ほど…痛くは…ねぇーよ。」


荒い息をしながらも、祥平さんは無理に笑ってみせる。

なんで…

思わず何か熱いものが自分の中を駆け巡った。


パシッ。

思うよりも先に手が出ていた。


「なっ…」


「いい加減にしてくださいよ!さっきから…自分の好きな女だから助けるのは当たり前?…自己犠牲まですることですか?本当は私への罪悪感からなんじゃないんですか?罪滅ぼしですか?ふざけないでよ!!」


そう言って祥平さんの胸へと頭をつける。


「好きな人が傷ついて苦しいのは男だけじゃないんです…女もなんです。確かにあなたは誘拐犯の息子かもしれません。でもそんなことどうでもいい…」


そう言って彼を睨みつけるように目を合わせる。涙が…おさまったはずの涙がまた溢れ出す。さっきまで感じていた恐れや不安…そんなものはどうでも良かった…ほんとうに…ただ…


「そんなことどうでも良くなるくらい、私はあなたのことがとっくに好きになってるんですよ。好きな人にここで死なれたらそれこそ…私は……お願いだから全部自分で背負いこまないでよ…」


「……」


祥平さんは何も答えずに私の頬をそっと撫でた。私は黙ってその手に自分の手を添えると、そのままゆっくりと近づいて彼の唇に口づける。

そしてすっと離れると、自分のポケットからハンカチを取り出す。


「祥平さん、Tシャツ脱いでください。止血しないと。」


「だから…大丈夫だっ…」


「さっきキスしたとき熱確かめました。多分傷口が化膿して熱が出てるのかも…文句言うなら脱がせますよ?いいんですか?」


そうして無理やり祥平さんを言いくるめる。

その間に自分も着ていたトップスを脱ぎ捨てた。


「おい!なにして…「いいからあっち向いててください!…緊急事態なんでそのTシャツ、ダメになっても大丈夫ですか?」


「…かまわねぇーねど」


祥平さんの言葉を確認するととりあえずハンカチを持って川までいき、それを半分に裂き、片方を軽く洗う。戻って、傷口を洗った方で軽く拭いてから、残り半分を下にして傷の1番深いところに厚く折りたたむようにしてのせた。そのあと、私のトップスの、首のリボンになってる部分を引き裂き、祥平さんの体に巻きつけるようにしてハンカチごと固定する。そのあとも祥平さんのTシャツを長さをとるようにして裂き、同じようにして固定していく。


「…大丈夫ですか?」


「わかんねぇけど…ありがとな。」


こんなんでいいのかはわからないけど…とりあえず傷からこれ以上菌が入ることは防げるはず。あとは…


「おい!なにして…いて!」


「黙っててください…出血死したら、死んでも許さないですから!これも念の為の止血です。」


そう言うと背中から思いっきり祥平さんに抱きついた。普段感じることのない、直の肌の感触に勝手に頬が赤くなる。

実際死なれたら困るのよ…


「…鈴花?こんなこと…言いたくねぇーんだけど…」


「なんですか?」


「さすがにこの恰好でそれやられると…俺も男だし…理性ってものにも限界ってものがあるんだが…」


「…なら前からならいいんですか?」


「いや!そうじゃねぇだろ!?」


わかっているはずなのに、わざと違うことを言ってみる。

わかっている…祥平さんは上半身裸だし、私もタンクトップだけだし…意識するなってほうが無理だ、普通。でも…


「だって、離したらまた祥平さんにげるでしょ?」


「えっ?」


「私…祥平さんに嫌われたんだって思ったんです。だから距離置かれたんだって…母が原因ならしょうがないとも思いました。でも…やっぱり気持ちは押さえられなくて…苦しくて、苦しくて、それなのに実際は全然違くて……」


「鈴花?」


「…そんな謝るくらいなら責任とってくださいよ。たぶん…ここであなたに見捨てられたら、一生私…男の人を信じられません。だから…責任を持って私を幸せにしてください。」


そういうと私は祥平さんにギュッ回している腕に力を込めた。

意味不明なこと言ってるってわかってる。ワガママなのかもしれない。お互いを苦しめるのかもしれない。でも…

どんなに苦しいことを乗り越えてでも一緒に幸せになりたいのはあなただから…


「鈴花…手離せ。」


「やだ!」


「そうじゃなくて。」


おずおずと腕を緩めると、くるりと祥平さんさんがこっちに向き直る。そして…


「そんな可愛いこと言ったら…一生離してやれねーぞ。それこそ、お前が後から俺のこと怖いって言い出しても…聞いてやれねーからな。」


そんなことを言いながら私を膝の上にのせて抱きしめた。いつもとは逆に低い位置から見つめてくるグレーの瞳に思わずキュンとなる。


「離さないでくださいよ。てか、私のほうこそ、どんなに嫌がっても離してあげませんからね?」


そう言ってさっきよりも強く強く抱きしめる。


「悪い…やっぱ片手だとこれが限界だわ。」


「いいですよ…その代わり治ったら両手でしっかり抱きしめてもらいますから。」


「……そのとき、俺の理性はもつのだろうか。」


「ん?なんか言いました?」


「いや、なんでも。…鈴花?」


「はい?」


「好きだよ。」


「私も大好きですよ…祥平さん。」


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