Geständnis
一応載せますが、納得はしきってないのでまた書き直すかもしれません…>_<
「もう大丈夫か?」
「はい…すみません。」
私の肩を押して距離をとると、少し覗き込むようにして祥平さんが問いかけた。
混乱状態から抜けた今になって、自分の置かれている状況にすごく恥ずかしくなる。
祥平さんの胸で泣きじゃくったなんて…
羞恥で顔が赤くなる。しかも、ものすごく間近に祥平さんの顔があることがさらに私を動揺させる。
「…わるい。」
そんな様子を見ていた祥平さんがそう言って、私からさらに距離をとった。自然と背中に回っていた手は外れ、私を包み込んでいた温もりが遠ざかっていく。ふと一抹のさみしさを感じる。
自然と見上げる先に見える彼の顔は苦しそうに歪められている。
「…なんで謝るんですか?」
気がついたら思ったことを口にしていた。
なんで謝るんですか?なんでそんな苦しそうな顔するんですか?なんで…いつも困ったように笑うんですか?
「…」
祥平さんが私を見つめたまま黙り込む。その瞳はどこか頼りなく、何かを葛藤しているかのように揺れていた。
「あの、祥平さ…」
声をかけようとしたそのとき、急に祥平さんがすっと立ち上がった。
「…川上に移動したほうが早くみんなと合流できそうだ。ちょっと移動するぞ。」
そう言うと背を向けて、歩き始めてしまう。私も…黙って後を追って立ち上がった。
どれくらい歩き続けているのだろうか…
最初に流れついたところと違い、川上に向かうほど木の鬱蒼とした歩きづらい道になっていく。
でこぼことした地面とそこに飛び出している木の根、落ちている枝…そんなものを避けながら2人はどんどん進んでいく。
いくら夏とはいえ、日の落ちた後の冷たい空気は濡れた服と合わさって肌寒さを感じさせる。
いったいどれくらい流されたんだろう。
気を失っていたからどれくらい流されたのかとか、どれくらい時間が経ったのかとか全然覚えていない。
前を見えば、祥平さんが時々ちょうど良さそうな枝を拾いながらも少し前を進んでいる。
簡単には触れられない距離。
手をのばすだけじゃ足りない。少なくとも走り寄らないと追いつかない。そんな距離感…
見えているのにとても遠い。
さっき祥平さんに聞いたとき、彼は明らか何かに怯えたような顔をした。いや、あの時だけじゃない。あの久しぶりに会った日からずっと。何かを迷うように、躊躇うように…
目を合わせる、話しかける、触れる。そんな行動ひとつひとつに迷い、ためらっていた。
「俺はお前のことを憎いと思ったことねぇよ…」
頭の中でさっきの言葉が繰り返される…
じゃあ、なんで私に距離を置くように言ったんですか?
どうして私の質問に答えてくれないんですか?
なんで…そんな苦しそうに謝るの?
「…やっぱな。」
歩きにくい森をようやく抜けるというところで、前を歩いていた祥平さんが急に立ち止まった。
「どうしたんですか?」
思わず尋ねると彼は振り返ってこっちをちらりと見た。
「いやこっから川岸っぽくなってて、ここから俺らのいたキャンプ場までは近いはずなんだけどな…」
そう言ってすっと前へと再び視線を向ける。
「この川岸の先からそこから二手に分かれてるんだ…まぁ、見てみろ。」
そう言われて彼の横から視線の彼の先へと目を向ける。
小石でできた川岸は少し先で一本の川となっており、その先はカーブを描いてこちらへと流れてきている。
その曲がるところを見覚えのある崖があり、その上には森も見える。
「…あそこから落ちたんだ…たぶん。だけど向こうに自力で渡るのはまず無理だろうな…助けがくるまで待つしかねぇーな。」
そう言うと祥平さんは持っていた枝を一気に足元に置いた。そしてポッケから何かをゴソゴソと取り出した。そこから出てきたのはライター。
「…チッ。やっぱダメになったか?…あっ、ついた。」
そうしてライターで火をつけると、集めた枝で焚き火をつくった。
「何してんだ。座っとけ。」
「…あっはい。」
ぼーっと火を眺めていたら祥平さんに声をかけられた。言われるまま黙って座る。
赤い炎がゆらゆらと揺れ、すっかり冷え切っていた体に少しずつ温もりを与えていく。
「…」
「…」
お互いに何も喋らないまま時間だけが過ぎていく。そこに響くのはパチパチと鳴る火と、ときおりざわめく木の音だけ…
祥平さん何してるんだろ?
ちょっと気になって顔をあげてみると彼はじっと私のほうを見つめていた。
えっ!?
お互いに視線が絡まる。
「お前…あの時、滝に何かされたか?」
「……えーっと…」
「…いや、嫌なら答えなくていい。」
「いえ、そうじゃなくて!!」
そう言うと私は自分の腕をギュッと抱きしめる。
「…なんか思い出しそうになったんです…たぶん、昔誘拐されたときの記憶……」
「……」
「私覚えてないけど、昔誘拐されたことがあるらしいんです。たしか8歳くらいのときに…」
「……そのときのこと、全部思い出したのか?」
「いえ……ただ、フラッシュバックした…みたいな感じで。」
その答えを聞くと祥平さんはこっちにくるりと背を向けた。
その一瞬、彼の顔がさっきのように歪んでいたのが見て取れる。
「鈴花。これっきりだ。やっぱりお前は俺と関わるべきじゃない…」
「えっ…」
信じられないほど低い、すこし震えた声が聞こえてくる。
「なっなんで…」
「それ以上こっちくんな。」
彼の顔が見たくて、回り込もうと立ち上がりかけたところを祥平さんが制する。
私は黙って座り直すと、その彼の背中を見つめた。
「なんでそんなこと言うんですか?」
「…なんでもだ。」
「言ってもらわないと納得できません!さっきだって…あの日から私に戸惑いながら接してるのはなんでですか?なんでそんな…そんな顔してるんですか…」
思わず後半、耐えきれなくて涙声になる。
あなたを苦しめてるのはなに?なんで離れたほうがいいなんて言うんですか…
「祥平さん…答えてくださいよ。納得できないと私……」
「…」
それでも黙っている祥平さんから目を背け、うつむく。
「やっぱり私が憎いですか?あなたのお父さんをとった母が…」
言葉にするとポタポタと目から涙が溢れてくる。ずっと怖くて聞けなかったこと…
あなたは知ってたんですか?
「……お前さ、さっき言った誘拐事件の犯人ってどんなんだったか覚えてるか?」
突然予想とは違うことを言われ、戸惑う。
彼はこちらを見ることなく、まだ背を向けたままだ。
「いえ、ただ…背はおっきかったような…それで…」
「グレーっぽい目をした、目つきの悪い、30代後半か40代前半の男…だろ?」
「…え……あの……」
祥平さんはゆっくりとこちらへと振り返った。その顔にはとても悲しげな笑顔が浮かんでいた。
「そっくりじゃないか?…そいつと俺の顔。」
その祥平さんの一言でめのまえの彼の表情と頭の中にあったさっきの影が一気に重なる。思わず私は目を見開いた。
すると…体が勝手にまた震え始める。私はそれを必死に抑え込むように自分の腕をさらにキツく握った。
「…どういうことですか?」
「お前はお前の母さんが何かしたと思ってるみたいだが…違うんだよ。確かにすれ違いはあったらしいが、それを根にもってなにかしたのは俺の親父…その誘拐犯なんだよ。」
そう言うと彼は切なげに目を細めた。
「お前は被害者なんだよ…そして、俺はその加害者の息子だ。」
そう言い切った彼の瞳はとても悲しい色をしていた。