表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Solanum lyratum  作者: モモンガもどき
本編(鈴花視点)
5/30

Einfersucht

「うーん…どうしよう…」


私は鏡の前で両手に服を持ち、かれこれ2時間近く悩んでいた。ベットの上には次々と取り出された服が散らばっている。


あの日から夏休みに入り、約束の天体観測の日まであっという間に時間が過ぎてしまった。

会いたいけど、会いたくない…

好きだけど、好きになってはいけない…

自分の中の入り乱れる感情をうまく飲み込むことができずこの日がきてしまった…

今だってたかが服装ひとつで悩み、浮かれている。


「ほんとどうしたらいいのかな…」


「その今、手にとってる服で全然いいと思うわよ〜」


「えっ!?」


独り言を呟いたはずなのに、どこからか返事が聞こえてきて驚いた。その声の方を向ければ、ドアに寄りかかるようにして瀬菜さんが部屋の入り口に立っていた。


「瀬菜さん、なんで…確か大学前に18時集合でしたよね?」


今の時間は17時、ここから大学に行くとしても十分に早すぎる時間だ。


「なんとなくねぇ〜。あっ、やっぱりトップスだけベットの上にある薄ピンクの首のとこリボンのやつにして!」


「えっ!?でも…背中結構あいてますよ?それにシフォン生地だから寒い気が…」


「うーん…じゃあ、羽織るの一枚持ってけば大丈夫じゃない?じゃあ、私の格好も寒過ぎかな…」


そう言った瀬菜さんは片方肩出しの短めのグレー薄いトップス、その下に紺のタンクトップ、下は膝まであるカジュアルなボトムだった。


「うーん、パーカー貸しましょうか?」


「いや、いいわ!どうせこのまま街寄ってから行くんだし。必要なら買うわ。あっ!やっぱさぁ、そこのシンプルな白ワンピにしない?」


「いや、天体観測でワンピは不便ですよ!それにさらに薄着じゃないですか!…って街寄るってどういうことですか?」


「ん?ちょっとね…用事付き合って欲しいのよ。」


そう言った瀬菜さんはどこか困ったような、さみしげな顔をしていた。いつも自信たっぷりな彼女にしては珍しい…


「っで?ワンピにする?それとも今手に持ってるのにする?それとも私が決めてあげようか?」


「自分で決めます!」


そう言ってニヤニヤとわらっている瀬菜さんを部屋から追い出すと、私は急いで支度を始めた。






街で瀬菜さんの用事を済ませ、私たちが大学前へついたのは待ち合わせ時間を15分ほど過ぎた頃だった。


「瀬菜さん、遅いよぉー」


「姉さん、俺より1時間前に家出たはずじゃなかった?」


「瀬菜っち、鈴花ちゃーん、やっほー!」


「ごめん、ごめん、いろいろ時間くっちゃってー」


「すみません、遅れました。」


他の人たちに謝りながらも合流すると、端の方に立っていた祥平さんと目があった。その細められた鋭い目に思わず体が強張った。

何か怒ってる?

祥平さんはそのままこっちに近づいてきて、私の前で立ち止まった。


「…なんでそんな格好してきたの?」


祥平さんがいつもより少し低い声で不機嫌そうに言い放つ。


「あの…えっと…」


思わず言葉が続かなくて視線を彷徨わせる。

悩んだ結果私が選んだのは瀬菜さんの良いと言ったピンクのシフォン生地のトップスに、デニムのショートパンツ、足元は平たいバレエシューズタイプ、寒かったときのためにバックの中には薄手の上着が入っている。


「…やっぱり薄着過ぎました?一応パーカーは持ってきたんですけど…」


一応そう言って彼の様子をうかがっうように覗き込む。しかし…そうは言ったものの、他の女の人も似たような薄着の人ばかりだと思う。


「…」


祥平さんは私と目線が合うと、ふいっと視線を逸らした。何も言わないものの、相変わらず不機嫌そうにしている。


「鈴花ちゃん!今日の格好可愛いね〜。てか、美脚過ぎて眩しいわ。」


そこに滝さんが軽いノリで話しかけてきた。


「こんにちわ。褒めてもなにも出ませんよ?」


「でしょー?鈴花ちゃん可愛いでしょ?私的にはワンピ着てほしかったんだけどねぇ〜」


そこにさらに瀬菜さんが割り込んでくる。瀬菜さんの言葉に反応したのか祥平さんがさらに険しい顔で瀬菜さんを睨んだ。


「高原行くのになに薄着させようとしてんだよ。」


「でも、ちゃんとそのこと考えてワンピやめてるでしょ?それに高原っていっても今は夏よ?…ちょっと過保護すぎじゃないかしら?お兄さん?」


「俺は別に…チッ。」


「あー、鈴花ちゃんのワンピ姿とか見てみたかった〜!ぜったい超絶かわいいでしょ!!」


そんな3人の様子をただ何もできず、私はただオロオロと見てるしかできない。

滝さんは相変わらずだからいいとして…なんで祥平さんと瀬菜さんは火花散ってるんですか!?


「鈴花、ほっといて大丈夫だよ。姉さんも祥平さんもピリピリしてるだけだから。」


「えっ?」


いつの間にか後ろにいた嶺緒に聞き返そうとしたそのとき、誰かに手首を掴まれ、後方へと引っ張られた。


「えっ!?…祥平さん!?どうしたんですか?」


いつの間にかバトルが終わったのか、彼は黙って近くにあるワゴンタイプの黒い車の助手席に私を放りこんだ。


「うわっ!」


とっさのことに対応できず、助手席から運転席のほうへと乗り出すように倒れる。そうしてしばらくすると、今度は運転席のほうのドアが開く。外の声が聞こえてくる。


「あーもう!とりあえずみんなどっか3台のうちどこか乗って!」


瀬菜さんが苛立ったようにみんなに指示を出す声が聞こえた。

と、同時に祥平さんが運転席へと乗り込んで来た。


「え!?あっ、すいません!」


思わずびっくりして、一気に体を助手席へと戻す。祥平さんは私をちらりと見ると、何事もなかったようにシートベルトを閉め始めた。


「ちょっと勝手に鈴花ちゃん連れてくってどういうつもり!?」


「姉さん、落ち着いて!」


「そうだぞー瀬菜。あんまカリカリするとハゲるぞー。」


「日下部…それ以上言ったらあんた死ぬわよ。」


後ろのドアが空いて瀬菜さんと嶺緒、他2人のメンバーが乗り込んでくる。


「うるせーぞ。さっさとシートベルト閉めろ。出発するぞ。」


相変わらず苛立った様子で祥平さんは言うと、車を発進させた。






街中を出てしばらく経った頃、車内には流れているラジオと後ろの席の4人のにぎやかな話し声が響いている。


「祥平さん、免許持ってたんですね…」


なんとなく2人だけしゃべってないのが気まずくて、思わず思っていたことを聞いてみる。


「言ってなかったか?」


「はい。」


そこでまたお互い気まずくなり、また口を閉ざす。

知ってるわけないじゃないですか…あの日から3ヶ月間、コンタクトすらとってなかったんですよ…

言えるわけがない言葉が頭の中だけで紡がれる。


すると、ラジオから懐かしい曲が聞こえてきた。前に私がとても好きで、ハマっていた洋楽だ。


「この曲…」


「えっ?」


突然、祥平さんがボソッと呟いた。


「お前、好きだったよな。帰り道とかよく口ずさんでて…」


「そうでしたね…」


彼がそんなことも覚えていてくれたのかと嬉しくなると同時に、とても淋しい気持ちにもなった。


「…祥平さん、この曲の歌詞の意味、知ってます?」


「いや、そこまで知らないけど…」


「初恋の歌なんですよ…ちょっぴり悲しい、報われない…」


「…そうなのか。」


「はい。私も意味知ったのは最近なんですけどね…」


そう、甘くも切ない…悲しい歌なんですよ?そう心のなかでもう1度呟く。

その歌詞を知ったのはちょうど…あの日から2週間ほど経った頃だった。

「あんなに楽しかった日々はもう元には戻らないのね…」

その歌詞を見た瞬間、今まで泣けなかったはずなのに大泣きしたのを覚えている。


ねぇ、祥平さん?もう元には戻らないんですよ?そう…決して…


そっと窓へと目を向けると、どんどん風景が後ろへと流れていった。まるで、そこにあった出来事をいとも簡単に押し流していくように…




「着いたぞー!」


「じゃあ、テント貼る組と望遠鏡とか用意する組は全部荷物下ろして作業始めちゃって!夕飯組もよろしく!」


目的の高原に着くと、瀬菜さんの指示でみんながテキパキと動き始めた。それぞれ車から荷物を出して作業を始めている。


「瀬菜さん、私にもなにか手伝えることありますか?」


「ん〜、そうねぇ〜。じゃあ、夕飯組の準備手伝って来て!っていっても作っては来てるから盛り付けるだけだけど。」


「わかりました。」


私はそう返すと、紙皿や紙コップなどを運んでいる女の人のいるところへと歩み寄った。


「手伝います!」


「あっありがとう。じゃあ、そこのタッパに入ってるおかずを適当に分けてってくれる?」


「わかりました。」


そう言って、タッパに入っていた大量のおかずを3、4皿ずつに分けていく。


「うわぁ!」


と、突然向こうのほうから瀬菜さんの叫び声が聞こえた。

驚いて振り向けば、望遠鏡の機材を落としそうになっていた瀬菜さんと、それを瀬菜さんごと支えている祥平さんの姿だった。

ズキリッと何かが胸に突き刺さる感覚に襲われる。


「あぶねぇーだろ。気をつけろ。」


「ごめん、ごめん。」


そんな2人のやりとりを眺めていると不意に近くから声が聞こえてくる。


「やっぱさぁ…瀬菜って原田くんと付き合ってるのかなぁ?」


その一言に体がピクリと反応する。


「えー、どうだろう?でも、前聞いたときも否定してたじゃん。」


「でもさー、なんだかんだ瀬菜のワガママに付き合ってあげてるじゃん?顔だって、目つき悪いけど、瀬菜と並んでも見劣りしないし…」


そんな話を聞いていて、自分のなかで黒い感情がどんどん膨らんでいくような感覚に襲われる。

聞きたくない。考えたくない。

そんな感情が私を支配していく。


「ねぇ、鈴花ちゃん。なんか知らない?」


「え?」


突然話を振られ、我にかえる。

私ったらなに考えてたんだろ…

そんな自分に思わず呆れてしまう。


「よくはわかんないですけど…でも、お似合いですよね。」


笑顔でそう言うと、私はまた作業へと戻った。自分の黒い感情を必死に誤魔化しながら…



途中、瀬菜と鈴花の街での話は違う機会に書こうと思ってます。なので今回は省略です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ