Komplex
天文サークルの人たちは最初こそ雰囲気に押されたものの、話してみれば気さくで、ノリのいい人たちばっかりだった。
滝さんもたまに思い出したようにアピールしてくるが、それもただのノリといった感じで、露骨に戸惑ってしまって今更ながら申し訳なく思えてくる。
「鈴花ちゃん、6時だけどそろそろ帰る?」
「そうですね…帰ります。」
「じゃあ、俺が送ってこっかなぁ〜」
「待てぃ!滝、お前はダメ。嶺緒!あんた行ってきて!」
「えー俺?」
「大丈夫ですよ。まだ明るいし、1人で平気ですから。」
「「いや、それは…」」
私の言葉で姉弟そろって慌てたように口どもる。
「大丈夫だ。俺が送るから。」
後ろから聞こえてきた声に慌てて振り返ると、さっきまで端で座っていたはずの祥平さんが近くに立っていた。思った以上に近い距離に思わずドキッとする。
「じゃあ平気ね。祥平、あとよろしくー!」
「おつかれさまでーす。」
瀬菜さんと嶺緒の言葉を聞くと、祥平さんは黙って歩き出してしまう。
「あっえっと…今日はありがとうございました。」
そう言ってお辞儀をすると、みなさんまたねーと手を振ってくれた。それに振り返りつつ、私は急いで祥平さんの後を追った。
お互い何も会話がないまま一定の距離を保って歩き続ける。
なんか…すっごい気まずい。でも…
後ろからみる祥平さんのおっきくて、広い背中はとても暖かく、見ているだけで私に安心感を与えてくれる。
そういえば、祥平さんを後ろから見たことあんまりなかったな…
そんなことを考えていると不意に、祥平さんが立ち止まった。
とっさのことですぐ対応できず、ぶつかりそうになる。
ぶつかっちゃう!
避けようととっさに重心を斜めに変えたため、バランスを崩し倒れそうになる。
「わぁっ!」
「っあぶね!…なにやってるんだよ。」
倒れると同時に振り向いた祥平さんに、運良くなんとか抱きとめられる。
「だって…急に止まるからぶつかるって思って…」
思わずしどろもどろにそう答えると、上からひとつ小さなため息が聞こえた。
「ったく、相変わらず危なっかしいなぁ…」
祥平さんはそう言うと、私をしっかり立たせる。そして私の左手をとると歩き始めた。
「えっ?祥平さん?あの…手…」
あまりにも自然で、迷いのない動作に思わず戸惑ってしまう。
「お前危なっかしいから…また転けられても困るし。あと、後ろ歩くな。見える範囲じゃねぇと対処しづらい。」
そう言うと、祥平さんは繋がっている方の手をぐっと引っ張って、私を隣まで引き寄せた。
必然と近くなる距離に顔が赤くなるのがわかる。
ちらりと祥平さんを見上げると、少し不機嫌そうに眉をしかめていた。
その表情にチクリと胸が痛む。
「なんかすいません…迷惑かけちゃって…」
すると握っていた彼の手がピクリと反応した。そんな態度にすら思わずビクついてしまう。
はぁー。とまた上からため息が聞こえてくる。
「なぁ、鈴花。俺さぁ、前にも言ったよな?迷惑なんて瀬菜にかけられまくってんだから、そんなちょっとくらいのことで気にすんなって。」
聞こえてきた声が、予想と違いあまりにも優しくて…思わず顔を上げてしまう。
そこには私を呆れたように、でもどこか心配しているような表情で見ている祥平さんがいた。
「アレに比べたらお前なんてかわいいもんなんだし…気つかってんじゃねぇーよ。年下なんだし、年長者には甘えとけ!…ほら、行くぞ。」
そう言うと再び私の手を引いて歩き出す。
そんな彼の言葉に思わず胸がギュッとなる。
…なんで祥平さんはそんなに優しいの?あなたは…私は…
苦しいはずなのに、嬉しくも思っている自分の感情を、私は完全に持て余していた。