Verlegenheit
「祥平、遅かったわねー。飲み物買えた?」
「あぁ、ほらよ。」
「おっ!さすが原田さん!あざーす。」
「てか、原田っちも鈴花ちゃんと知り合いなの?」
「まぁな。」
そんな会話をしながら買い物袋を机に置くと、祥平さんは私の隣の空いてる席に座った。久しぶりの近い距離にひどく緊張してしまう。
「鈴花…元気にしてたか?」
左側からひどく懐かしい、低くて少しハスキーな…大好きな声が聞こえてくる。
「はい。…祥平さんは?」
「まぁ、こっちも相変わらず。」
普通にしなきゃと頭ではわかっているのにぎこちなくなる会話。
それがあまりにもどかしく、いたたまれない。
「…原田っちと鈴花ちゃんってどんな関係なの?」
そんな私たちの様子を見ていた滝さんが不思議そうに聞いてきた。思わず肩がビクリと震える。
「あぁ、えーっとなぁ…」
祥平さんが何か答えようとしたそのとき。
「祥平は私と同じように鈴花ちゃんの保護者2号なのよーん!だから、あんたは鈴花ちゃんと付き合いたいなら私たちを倒さないと無理ね。あっちなみに3号はウチの愚弟だから!」
「おい!姉さんなに勝手に!」
「えー、瀬菜っちいる時点でかなり無理じゃない?過保護すぎっしょ?」
「うるさいわね!認めないったら認めないわよ!」
瀬菜さんによって救われた雰囲気は、一気に明るいものへと変わっていく。でも、その中で私の心だけは暗く、どんよりと沈み込んで行くようだった。
「鈴花。」
呼ばれて顔を上げると、瀬菜さんが私に笑いかけた。
「ちょっと2人でお菓子の調達してこない?」
「俺少し買ってきたじゃん。」
「わかってないわねー。祥平、私の今のブームはたけのこの里マンゴー味なのよ?ってことで行こ?」
「瀬菜っち俺も…」
「却下。」
「ひどっ!?」
「鈴花。」
再び聞こえる声があまりにも優しくて…思わず泣きそうになった。
「はい…行きましょうか。」
「ねぇ…祥平となんかあったでしょ?」
その言葉に息を飲む。
「…なんでですか?」
「明らかに2人の様子がおかしいから。」
「…」
「祥平が原因で私のことも避けてたんでしょ?」
「ごめんなさい…」
それ以外の言葉が見つからず、思わず黙り込む。
「…まぁ、当人たちの問題だから口はださないけどね。なんか困ったことあったらいつでも相談しなさいね。」
そう言った瀬菜さんは私の頭をくしゃりと撫でると、「ほら買い物いくよー」と言って私の手を引っ張った。
本当にごめんなさい…
私はただ心の中で謝ることしかできなかった。
「お菓子買って来たよー!」
瀬菜さんと一緒に戻ると他のサークルの人たちは何かの話で盛り上がっているようだった。
「ねぇ!だからその流星群見に行こうよー!」
「賛成!ちょうど夏休みに入るし!行こうぜ!」
「何の話?」
瀬菜さんがその話に割り込んでいく。それをぼーっと見ていると、視線を感じた。そちらの方に顔を向ける、祥平さんと目があった。彼は私を数秒見つめたあと、立ち上がり近づいてきた。
「鈴花…ちょっと話が…」
「ねぇ、鈴花ちゃんも一緒に行かない?」
目の前まで来た彼が話しかけてきたそのとき、滝さんが私に声をかけた。
「どこにですか?」
「流星群見に天体観測!」
「えっ、でも…私このサークルの人じゃないし…」
「いいじゃない、行こうよ!鈴花ちゃん、嶺緒も行くわよー!」
「えっ俺もかよー」
すっかり乗り気の瀬菜さんによって、私の声は遮られてしまった。
どうしよう…天体観測なんていったらまた祥平さんに合うことに…でも…
「わかりました。いいですよ。」
気がついたときには笑顔でそう答えていた。
「ほんと?よっしゃー!」
「よかったねー滝。まぁ、私の目の黒いうちには鈴花ちゃんには近づけさせないけどねー」
そんな賑やかな様子に目を細める。
「本当に良かったのか?」
そう隣から聞こえてきた声に見上げれば、祥平さんが困ったような表情をしていた。
「いいんです。」
精一杯の笑顔でそう言い切ると、私はすっと視線を逸らした。
だって…どんなに嫌われていても、あなたに会いたいと思ってしまうから。