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Solanum lyratum  作者: モモンガもどき
番外編(という名の本番)
25/30

6-2 Abgrund

…3話で終わるかなぁ?^^;

予定では次がラスト。なんだけど…

「あー、くそっ!!」


そう言うと俺は目の前にあるキャンパスを蹴っ飛ばし、持ってる筆を投げつけた。

描けない。

今まで思いつけば夢中でなにかに取り憑かれるように、筆を進め、描くことに没頭していたのに。

全くもって集中できない。

俺は自分の頭をガシガシと書くと、息抜きと称してすでに冷たくなっているコーヒーへと手を伸ばす。


「…チッ。ほとんど残ってねぇー。」


普段はほとんど飲まずに終わるそれは、とっくになくなっている。

しかも…今日はすでにこれで3杯目だ。


「くそっ…」


悪態をつきながら、俺はソファへとどかっと仰向けで沈み込む。

なんでだよ?今までこんなことなかっただろ?

そう自身に聞いたところで、見つけ出せる答えはない。


…いや違う。

描けないわけじゃない。

ただ、その描かれるものがなぜか俺のイメージと合わねぇ…まるで自分が描いたものじゃねぇーみたいに気持ち悪くなる。


「くそ…くそ、なんでだよ。」


そんな悪態はいつしかここに来るのが当たり前だったはずのあいつへと募っていく。

なんで来ない…瀬菜。

あの嫌な予感がした日からあいつはこのアトリエ…いや、俺の前に姿を現さない。

もう3週間は過ぎただろうか?

唯一の連絡はその日の真夜中に送られてきた祥平が事故にあって、今は無事入院しているというメール…

「無事ならいい。」

そう返してそれっきりだ。

そのあとすぐに俺のところに報告に来ると思っていたが…瀬菜は来なかった。

祥平に付き添ってんのか?とか思いつつ、その1週間は気にしなかった。

…いや、気にしないようにしていた。







確実におかしいと気がついたのは2週間目。

アイツの…あの憎たらしいちびっこが俺のところに来た時だ。


「…あんたのとこにも来てないのか。」


そう言ったちびはなんとも戸惑った顔をしやがった。

いつも俺の前では仏頂面しかさらさねぇ癖に…


「おい、ちび。お前、なんで勝手にアトリエ入って来てんだよ?」


「…姉さん、この2週間くらいここ来ました?」


「チッ。無視かよ…来てねぇーよ。祥平のとこじゃねぇーのか?」


「…そっちに顔出してないって。祥平さんが昨日言ってました。」


その言葉に俺の何か、後頭部を鈍器で殴られた衝撃を受ける。

やっぱりおかしい…

「お前の嫌な予感はまちがいじゃねぇーよ。」と誰かが俺を嘲笑ったような気がした。


「…家には。家には帰ってるんだろ?」


「…はい。でも、朝めっちゃ早く出てくし、夜とか寝に帰ってるだけみたいな感じ…」


そこまで言うと、一旦言葉を切った。


「まぁ、姉さんのことだし。またなんか突拍子のないことしてるだけかもしんねぇーし。…じゃあ、邪魔しました。」


そう言うといつものふてぶてしい顔でちびは出て行った。

お互いなにか引っかかるものがあるのに、俺たちはそれ以上喋る気はなかった。

それ以上言及すれば、その嫌な予感は現実となってしまう気がしたから…






なぁ、瀬菜?お前は何してんだよ?

あれからさらに1週間。

全く来る気配もない。

ただでさえこの重要な時期に…

9月の中旬、俺はかなりデカイ展覧会に作品を出すことになっている。

いつも通りの風景画か抽象画を1枚、そして…例の天使の絵…




「もう薫も高校卒業したんでしょ?なら本格的に売り出そうと思って。」


そう言った長年良く知った彼女は俺にニヤリと笑いかけた。


「俺は別にもっと前からにでも良かったんだけど…」


「茜の高校までは『普通の高校生』として過ごさせたいって要望が強かったからね。」


その人は何かを思い出したのか愛おしそうにふふっと小さく笑う。


「…なぁ、あんた茜には会ってかないのか?」


「…茜は元気にしてる?」


「あぁ、相変わらずだよ。」


そう、相変わらず…ずっと一途に思い続けてる…


「そう。ならいいわ。」


彼女はそう言うとニコリと俺へ笑いかける。

その何もかもを見透かしたような瞳は居心地が悪い気分になる。


「…薫も相変わらず茜が好きね。」


そう言うとその人は困ったような笑顔を作る。


「当然だ。俺の唯一の家族で…恩人だからな。」


そう言うと満面の笑みで笑ってやる。

俺に生きる意味を当たってくれた茜…

だから、茜が俺を捨てるまで一生そばにいる。

茜が決して1人にならないように…


「…まぁ、いいわ。」


その人はそう言うとバックから鍵を取り出し、近くに止めてあった車のロックを外す。


「少なくとも展覧会の1週間前には仕上げてね。その頃また来るから。」


彼女はそう言うと俺の肩をポンと叩いて車に乗り込んだ。

俺の背がまだ彼女よりちっさかった頃はよく頭をわしゃわしゃと撫でられたっけな…

そんなことを思いながらも、その人の乗った車を俺は黙って見送った。

とても綺麗に澄み渡った、茜色の夕焼けが後ろには広がっていた。







そういえば、展覧会の話もまだアイツにしてねぇーな。

そう思いながらも、また瀬菜のことかよと自分の思考に苛立つ。

ちくしょー…なんで俺が振り回されてる?

いつも俺があいつを振り回してたはずだ。なのに、いつもと反対じゃねぇーか…

あいつの周りのどうでもいい奴らと同じように…


そこまで思って、はっとする。

…おいおい、待てよ。まさか…

そう思いながらも、ぶち当たった可能性に俺は恐怖を覚える。

いや、それはない。ないはずだ。だってあいつは…

自分で必死に言い訳しようとも、心に住み着いた闇は取り払われることはない。


瀬菜…なんで来ないんだよ…


そんな思いを振り切るようにまた無理やり筆をにぎる。

そんなことを何度も繰り返しながら、俺はどんどん底へと落ちていった。


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