6 Kette (薫)
さぁ、さぁ、とうとう来ました薫編!!
モモンガのテンションはMAXです 笑
実は1番書きたかった話でもある。(瀬菜とどっこいどっこいだけど)
こんな男、リアルでいたら絶対やだ!とか思いつつ、かなり気に入っています( ̄▽ ̄)
この薫編は3話くらいでまとめる予定です!
「…その時は、誰かあんたを支えてくれる人が現れるわよ。」
予想に反したその言葉は俺の心に突き刺さった。
嫌な予感が背中から這い上がってくる。
「えっ…」
気がつけば、動揺が俺の声から溢れていく。
瀬菜、どうしたんだよ?なんで急にそんなこと…
「用事も終わったし、帰ります。」
そんな俺を他所に、瀬菜は背を向けたまま帰ろうとする。
「瀬菜!…お前今日ほんとにどうした?」
自分のものかと呆れたくなるくらい、不安定に震えた声が店内に響く。
勘違いだよな?
なんだかわからないものへの恐怖から、必死にそう思い込む。
瀬菜は俺の声に1度立ち止まると、ゆっくりと振り返った。そして、
「…なにが?」
その声と笑顔はいつも通りであるはずなのに…俺の不安は決して消えることなく、深く染み込んでいった。
瀬菜は俺にとって最初は「天敵」だった。
「お兄さん、絵本に出てくる王子さまみたいねぇー」
俺たちが初めてこの街に来た日のこと。
挨拶回りで出くわしたその少女は茜を見上げると、キラキラとした目で茜に笑いかけた。
黒髪の、とても女の子らしい洋服を着た、可愛らしい女の子。
その純粋な瞳には憧れ、思慕といった感情がありありと映っている。
危険だ。直感で俺はそう感じ取った。
「おや、可愛い女の子だねぇ〜。じゃあ、お嬢ちゃんはお姫さまかな?」
茜はそう言うとその少女の頭へと手を伸ばした。
俺はとっさに茜の手を叩き、目の前の少女を突き飛ばす。
「あかねにさわるな!!」
そう言って怒鳴りつける。後ろに尻餅をついた少女は、驚いたようにぱちくりと目を見開いている。
「こら、薫!女の子になんてことするんだ!」
茜の諌めるような声が後ろから聞こえる。それとほぼ同時にドタドタドタという、誰かが廊下を走ってくる音が聞こえた。
「あっ!れおくん!!」
男の子の叫び声と一緒に現れたその子供は走った勢いのまま俺を突き飛ばす。
「ねぇねぇになにした!」
そのちびっこは俺を突き飛ばすと、涙目で睨んだまま叫び出す。
「うっさい、がき!そいつがあかねにさわるから!」
「がきじゃないもん!ねぇねぇにあやまれ!!」
そう言ってつかみ合いの喧嘩になり、茜と祥平の母親によって取り押さえられたのが瀬菜との初めての出会いの思い出だった。
「あかねに近よるな!」
「だから、なんで近づくと怒るの!」
当時夜にならないと帰ってこない茜を待っていないといけなかった俺は、自然と祥平の家へと預けられることになった。
そこにはなぜかいつもあの時の少女と、その背中に張り付くちびっこの姿。
俺はその少女が近づくたびに、拒絶するように同じ言葉を吐いた。
それに対していつもは否定の言葉をいう少女が、今日は疑問を口にする。その背中には黙って俺を睨みつけるちびっこの姿。
「あかねに近づく女はみんな茜を取ろうとする!だからお前も近づけたらあぶない!」
俺は知っている。女たちの目が思慕、憧れ、敬愛…そんなものから醜い欲に変わっていく瞬間を…
俺の言葉を聞くとその少女は少し考えるように黙り込んだ。
そして、再び口を開く。
「じゃあ、あかねさんに近づかなかったら仲良くしてくれる?」
その言葉に俺は驚いて顔をあげる。
そこには純粋な瞳で俺を見つめる少女の姿。
「せなね、君とお友だちになりたいの。約束するから、そしたら仲良くしてくれる?」
そう言って少女は小指を俺の前に差し出す。
「…約束だぞ。」
俺はそう言うと、少し乱暴にその小指に自分の小指を絡めた。
小学校1年生、春の出来事だった。
それから小、中と俺と瀬菜、そして祥平はずっと一緒に過ごしていた。
片親で、父親は若く、子供とも血が繋がってるかもわからないらしい。そんな噂のある俺と深く付き合おうとする奴はこいつらくらいだったってのもある。
幼馴染。そんな言葉で片付けるにはちょっと軽すぎる。
腐れ縁。それともまた違うだろう。
俺たちはそれぞれに依存し、支え合うことによって成り立っていた。
「…ねぇ、薫。悪いこと言わないから彼女とっかえひっかえにするのやめなさいよ。」
中学2年生のときだった。
屋上で昼寝していた俺のところに、怒った顔をした瀬菜がやってきた。
「…お前に関係ねぇーだろ?」
「関係あるから言ってんのよ。あんたに捨てられたって言って大泣きして、学校来なくなる女の子が増加してるの。生徒会長で幼馴染だからって、先生に押し付けられる私の身にもなってよ。」
そう言うと瀬菜は思いっきりため息を吐く。
中学に入って、見た目がよかったせいか女にモテるようになった俺は、来るもの拒まずいろんな女に手を出していた。
「…俺、彼女作ったことねぇーよ?」
「じゃあ、あの女の子たちはなんなのよ?2股どころか7股かけて!」
「だから、全員そんなんじゃねぇーの。俺付き合おうとか言ってねぇーし。セフレだよ。セフレ。」
俺はそう言うと、鬱陶しそうに体を起こす。
俺を見下ろす瀬菜との距離が少し縮まった。
「俺、そう言う「恋愛関係」?とかいうの無理だし。あいつらが勝手に勘違いして、ピーピー言ってるだけだろ。」
そう言って立ち上がれば、さっきとは違い一気に瀬菜を見下ろす形となる。
1年前までたいして変わらなかった身長差は、今では余裕で俺のほうが頭1つ分大きくなっている。
「そうは言っても…「なぁ、瀬菜は俺の味方じゃねぇーの?」
瀬菜の言葉を遮るようにしてそう言えば、瀬菜はムッとした表情で睨んでくる。
わかっている。こいつにとって俺も、祥平も、そしてあのウザい弟も、守るべきものなのだと。
わかっているのに聞いてくる。そんな俺にムカついているのだ。
「あのさぁ、私だって女だし。女の肩持つかもしれないじゃない。女の感情がめんどくさいって…じゃあ、私は?性別一応女なんだけど。」
瀬菜はそんな俺を試すように心にもないことを言ってくる。
「お前、絶対に俺にそういうと感情向けることねぇだろ?だから、俺はお前と絡んでられんだよ。」
俺はそう言うと、そのまま屋上を後にする。
瀬菜はその後を追いかけてくることはなかった。
女の向けてくる欲を含んだ瞳が嫌いだった。
というより、女らしい、母性的な奴ってのが嫌いなのかもしれない。
理由なんてあげればいくらでも思いつく。
俺を捨てた母親、俺を束縛しようとする施設の世話係、茜の周りをうろちょろする女たち…
とにかく、そうやって愛だのなんだので勝手に縛ろうとしてくる女たちが大嫌いだった。
俺の周りで近づくことを許している女は瀬菜くらいだろう。
でも、あいつはその理由をちゃんとわかっている。
小学校高学年くらいから、瀬菜は髪を伸ばすのをやめた。背中まであった髪はいつもギリギリセミロングくらいを保たれている。
服だってスカートを履くことは制服以外で一切なくなったし、女の子らしい服装なんてほとんどなくなった。
なぜならあいつは知ってるからだ。
「女匂わせれば俺のそばにはいられない」と…
俺にとってあいつや祥平が依存対象であるように、あいつにとってもそうなのだ。
俺はそれがわかっていて、あいつを鎖で縛った。
「女の感情ってムリ…」
「お前は俺の味方じゃねぇーの?」
そして…
「お前は俺にそういう感情は向けないだろ?」
ある時期を過ぎた頃から、瀬菜が俺にそう言った感情を抱いていることには気がついていた。
だからこそ、俺はこの言葉であいつを縛り付ける。
そうすればあいつは必死にその思いを抑え込む。
でも、俺は抑え込めば抑えるほど、その気持ちがでかくなることも知っていた。
そう、茜がそうであるように…
わかっていてそうさせた。そうさせることで瀬菜は俺から離れていくことはない。
それがわかっていたから…
「オレ、茜死んだらマジでやべーなぁー。」
「その時は、私が面倒見てあげるわよ。」
この合言葉も俺と瀬菜との鎖の1つだ。
この答え聞くことで瀬菜は俺から離れていかないという、勝手な確認をする。
祥平がどっかのマスコット見たいのに取られて以来、瀬菜は俺への執着をさらに強めていった。
執着と言っても、あいつから何か俺に望んでくることはない。
絡みついてこない感情はとても楽で居心地がいい。
誰よりも魅力的に、女らしく成長したはずの幼馴染は、俺に執着することによって誰のものになることもなく俺のそばにいる。
茜に瀬菜、そしてたまに現れる祥平。
そんな俺の居場所はずっと変わらないと思っていた。
瀬菜があのカフェに来た日以来、俺の元を訪れなくなるまでは…




