Verlieben
私と祥平さんが初めて出会ったのは私が中学2年の春だった。
私が相談事をしに瀬菜さんの家に来ていたとき、たまたま祥平さんが家の用事で訪れたのだ。
「鈴花ちゃん、紹介するね。コイツ、私の幼馴染の原田祥平!祥平、前に話したかわいい後輩の鈴花ちゃん!わかるでしょ?」
「あぁっ…原田祥平だ。よろしく。」
「あっ、はじめまして。鈴花です。」
初めてあった祥平さんの第一印象は怖い人だった。
切れ長な目に、グレーがかった瞳、髪も少しグレーっぽい色をしてたし、無表情で、服装もは明らかにかっこいい系というか怖い系というか…
なによりも180後半はある身長は私にものすごい恐怖心を感じさせた。
「やーい、祥平怖がられてるー。その緊張すると睨むくせ治さないから。鈴花ちゃんごめんねー。コイツ緊張するとすぐ目つき悪くなるのよー。」
「おい!余計なこと言うなよ!」
そういった祥平さんはさっきの無表情とは違い、少し焦ったようなうろたえたように見えた。一変して和らいだ雰囲気を見て私は少し驚いた。
「あっいえ、確かに少し怖いとは思いましたけど…目つきってよりも、私、背の大きい人が苦手で…」
そう思ってることを素直に口にすると瀬菜さんは納得したように、祥平さんはびっくりしたような表情をつくった。
「そうだったね…まぁ、コイツ見た目と違って無害だから、安心して!万が一なんかあったら私に言えば締めてあげるし!」
そう言って瀬菜さんは私に向かってニヤリと笑った。その隣で祥平さんは呆れたように彼女を見ている。
「そうだ!」
すると瀬菜さんが何か思いついたように手を合わせた。
「さっきの件、祥平に頼んでみたら?コイツ秀明高校に行ってるから鈴花ちゃんの中学近いし、気にかけてもらうだけでも安心だとおもうわよ?」
「えっでも…」
「…何の話だ?」
「いや、この子かわいいでしょ?よくストーカーとか不審者とかに目つけられちゃうみたいでね…だから見かけたときだけでも一緒に帰ってあげてよ。そうすればなんていうか牽制?っぽくなるし…ね?」
「えっそんな…」
「いや、俺は構わないけど…」
「だって!ってことで!なんかあったら祥平を頼りなさい!ね!」
そんな調子で私は祥平と関わることになっていったのだった。
「よっ。」
「…っ!あ…原田さんでしたか…こんにちは。」
後ろから声をかけられびっくりして振り返ると、そこには数日前にあった青年が立っていた。学校帰りなのか今日は学ラン姿だ。
「どうした?なんかあったか?」
ビクついた反応をしてしまったせいか、祥平さんが心配したように尋ねてくる。
「いえ、大丈夫です。気にしないでください。」
そう言ってチラリと後ろを確認するとさっきまであった怪しい影はいなくなったように見えた。
「…もしかしてまだ怖いか?」
「えっ?」
思わず祥平さんを見上げて見ると、少し戸惑ったような、困った表情をしていた。
「俺のことまだ怖いか?」
彼は再び言い直す。私は彼のまっすぐな目を見続けることができなくて視線を逸らした。
「怖くわないです…緊張しますけど。」
それだけいうと私は、俯いたまま彼をうかがうように盗み見た。
「…そうか。」
彼はそう言って少し笑うと、「送ってく」と小さく言った。何故だかその様子がおかしくて、私も思わず微笑んだ。
最初こそそんな感じでぎこちなかったものの、私と祥平さんは次第に打ち解けていった。
祥平さんはいつも私のたわいもない話を聞いてくれたし、彼も思ったよりもしゃべるようで、私の話に合わせていろんな話をしてくれた。
気がついたときには祥平さんとの帰り道が日常の楽しみとなっていた。
そんな日常に慣れて一ヶ月ほど経ったの帰り道。
「それで、英語の時間にですね…」
「!おい、鈴花!こっち来い!」
いきなり祥平さんに手を引っ張られ、彼の胸に倒れこむようにして抱き寄せられた。
ドクン。心臓が激しく音を立てる。
すると数秒後にすぐ横をバイクがすり抜けていった。
「あぶねーなー。大丈夫か?」
その体制のまま上から覗き込まれ、あまりの顔の近さにさらに鼓動が早くなる。
「だっ大丈夫です。ありがとうございます。」
赤くなった顔を隠すようにうつむきながら言うと、上から聞こえる「そうか…」というつぶやきと共に腕から解放された。
…そのあと彼は何もなかったように歩いていたが、私の心臓は壊れんばかりに鼓動が鳴り響いていた。
あぁ、私…祥平さんが好きなんだ。
中学2年の夏。はじめて彼への想いに気がついた瞬間だった。