アザとー式作文講座(サルでも書ける短編編)
毎度お馴染みの前書きを……
これはあくまでもコメディです
アザとーは『起承転結』など捨てた。
もう一度、言おう。『起承転結』など捨てたのだ。
そもそもが『起承転結』を物語上に絶対不可欠な作法とあがめる風潮がおかしい。そんなものは物語を効率よく進めるための指標にすぎない。でなくては、『序破急』の立場がないではないか!
ま、冗談はさておき……物語に絶対に必要なのは起承転結ではなく、『整合性』である。これは別に難しい事ではなく、『火のないところに煙は立たぬ』ということわざそのものなのだ。
つまり、物語に描かれた場面には必ず起因となる事象がある。長編であればそれを事細かに記し、物語を終章まで導くのだ。そのための火種を考え、積み上げて一つの大火となし、そこに巻き上がる豪煙を文章に描く。
ところが、短編で大火を書いては尺が足りない。小さな焚き火を書く感覚である。こういうときは、煙から先に考えてしまおう。
今回は『サルでも書ける』が枕なので、サルに短編を書かせる話を作ろうと思う。JAROに通報されないように、当然、サルが短編を書けるようになりました、というところが話の中核である。
さて、ここで問題となるのは、サルは本来人語を解さない、文章など書けない生き物であると言うことだ。つまり、普通のサルを主人公にしてしまっては矛盾が発生し、中核までたどりつけない。ならば文章を書くサルを主人公にすえればいいのだ。
ここでキモとなるのが設定である。そのサルはどのように文章を書く能力をえたのか、考えてみよう。
実にいろいろなアイディアがあるだろう。SFっぽく脳改造、もしくはファンタジー世界から来たサルに似た生物、はたまた……と、考えればアイディアなどきり無く存在するのだ。その中から好みのものを選べばいい。
アザとーはSF設定を選ぼう。脳改造によって知能を高めたサルが主人公だ。
ここで、さらに整合性が必要になる。『誰が、何の目的で』サルに知能を埋め込んだのか、という謎が発生するのだ。
そうだなあ……執筆に疲れた某作家が、ゴーストライターを作り出すべくサルに目をつけた、という事にしようか。これで一応、中核にたどり着くための情報は全てそろった。
次はその中から『どの情報を書き込むか』という選択作業がある。
このときに一番大切なのは、どんなにすばらしいアイディアであろうと、不要なものは不要だと割り切る勇気である。
苦労してひねり出したアイディアほど愛着はあるし、その全てを書き込みたいと思うのも作家の性であろう。しかし短編はその全てを記すにはあまりに短い。特に規定の決められたコンクールなどであれば、尺内におさめる事を第一に考えねばならないだろう。
今回のサルで言えば、脳を改造するさまざまな科学技術を考え出してもいいだろうし、ゴーストライターを欲しがる理由をちくちくと書き連ねてもいいが、それは『中核』に必ずしも必要な要素であるかを考える。
サルが文章を書く脅威を見せるSFであれば前者は必須であるし、サルにまで頼ろうとする人間を選ぶなら、それはほとんど不要な要素となる。むしろ尺をとるばかりで、邪魔意外の何物でもない。ならばどうするか。
このときに使うのがディフォルメというテクニックである。つまり、現実ではありえない形に物語をゆがめるのだ。たとえどんなにゆがめようと、物語の整合性さえ成り立っていればよしとしよう。サルの改造に対する説明など、一言で済む。
「あなたたちの世界では考えられないかもしれませんが、ここでは犬や猫、牛などに知能を埋め込む研究が進み、人間は動物たちを話し相手になるペットとして愛玩するようになりました。」
これが『ここ』での常識なのだから十分すぎる説明だ。これでエピソードを書きこむスペースが十分にあいた。
この後ろに続くエピソード選びも同じである。どんなにすばらしい一文、どんなに悪魔的なひらめきを得ても、それが『中核』にたどり着くのに必要なのか、そもそも『中核』にたいして整合なのか、むしろ機械的に選別しよう。
全てを機械的に選択することが出来れば、少ない文字数で物語を書くというのは、決して難しい事ではない。だが、所詮は書き手も人間なのだから、どうしても切り捨てられないものがある。ならば他を切り捨てた分、そこを存分に書けばいいのだ。それもまたディフォルメである。
この物語なら、アザとーならコメディ要素を捨てられないだろう。他のどの要素を削ってでも、むしろ熱血な作家とサルの、特訓風景にこだわる。
『「いいか! きょうびのご時勢、漢字など書ける必要はない! 打てればいいんだ!」
彼はサルを椅子に括りつけた。
「これは虐待じゃない。お前なら出来ると、信じているからだ!」
ここまでの数々の特訓で、二人の間には確かな絆ができた。お互いに何も疑う事は無く、ただ、熱き血潮の命じるがままに、サルは深く頷く。
「よおし! ホおおおおおおおムポジショおンだあああああああああああ!」』
あ、やべ。これ、書こう。
ま、それは置いておいて……全編をこの調子で『必要な』要素だけで固めれば、最小限の文字数で『中核』へとたどり着く。
サルは作家のノウハウを叩きこまれ、ついに短編を書くスキルを手にいれた!
そして残すはエンディング、お笑いでいえばオチである。
『「さあ、もうお前は一人でも大丈夫だ。好きなものを書いてみろ」
作家の言葉に深く頷いたサルはカツカツカツとキーを叩く。そして画面には一行の言葉が記された。
《お世話になりました。独り立ちします》』
まあ、一人で書けるようになったら、そうなるよね~。サルと作家の利権争いはこっちに置いといて……
かように、短編というのは実は機械的な選択作業によって成り立つものであり、自分の文章に対する愛着を切り捨てる事さえ出来れば、それこそ、サルにでも書けるものなのである。