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終わった後の物語  作者: 一之助
第一章 ある村にて
1/6

なんでもいいですよ

以前書いた『終わった後の物語 ~prologue~』の続編となっています。

この話だけでも読めないことはないですが、そちらも読んでいただけるとわかりやすいと思います。


 赤みがかった空の下、一台のキャンピングカーが山道を走っていた。


 外見がバンにも似ているその車は、舗装された道路を走っているにも関わらず、右へ左へとおぼつかない足取りで進んでいた。


 ふいにキャンピングカーが減速を始め、やがて速度がなくなり停車した。


 扉が開き、中から二人の女性が出てきた。


 一人は二十代半ばといった年齢で、黒くて長い、綺麗な髪が特徴的だ。スーツの上に白衣を着ていて、白衣の胸元には年齢にそぐわない、かわいらしいイルカのワッペンが縫いつけられていた。


 もう一人は高校生ぐらいで、学校指定の制服なのかブレザーを着ている。茶色がかった髪を肩の辺りまで伸ばしている。スカートの丈は明らかに校則違反の膝上十数センチである。


「着いたー!」


 少女が伸びをしてから叫ぶ。目の前には先ほどまでの森の風景とは打って変わって、開けた田んぼが一面に広がっている。


 隣にいた白衣の女性があきれ顔で口を開いた。


「まだ着いてないわよ。助手ちゃん念願の温泉も民家も見あたらないし」


「でもでも、稲が成長してますし、水も張ってあるんだし人がまだいる証拠ですよ!」


 助手ちゃんと呼ばれた少女は、うれしそうな顔をしながらクルリと白衣の女性に体を向け、真っ直ぐな目で女性を見て言った。


「そうは言っても家なんてどこにも見あたらないし、自然に育ったんじゃない?水だって自動で張られているのかもしれないし」


「もー。屁理屈こねてないで家を探しましょうよ、店長」


 店長、と呼ばれた白衣の女性は少し休ませてくれ、とでも言いたげな表情でため息をつく。それもそのはず、お風呂に入りたいと言う助手のために、朝から八時間ぶっ続けで車を運転してきたのだ。


 そんな店長のことなどお構いなしで、助手は車に乗ると早く早く、と店長をせかす。


 はいはい、と答えながら店長は運転席に乗り込んだ。


 しばらく行くと、景色が田んぼから畑へと変わっていった。


「ほら!畑も育ってるじゃないですか!やっぱり人がいるんですよ」


 助手の声が一段と弾む。きらきらしたその目は、畑に植えられているスイカに向けられていた。


「うーん、本当に人がいるのかも。それにしてもこれだけの量の作物を育てているとなると……」


「けっこう人が集まってるってことですか?」


「勝手に育ったにしては手入れが行き届いているしねぇ。ま、近くの人たちが食べ物を求めて集まってきたってところじゃない?」


「まぁ、何でもいいですよ。お風呂に入れれば!」


 言うと思った、と店長が言おうとして、少し先に行ったところに人影が見えた。助手も見つけたようで視線を横の畑に植えてあるスイカから前にいる人影に向けた。


 その人影もやってくるキャンピングカーに気付き、おーいと手を振っている。


 三十歳ぐらいの男だった。眼鏡をかけていて、農作業よりもデスクワークの方が向いていそうな顔だった。


 店長はキャンピングカーを男のすぐ横に停めると窓を開ける


「こんにちは。いや、こんばんは、かな。まさか人がやってくるとは思わなかったよ」


 男は車に近寄り話しかけてきた。


「どーも。こんばんは」


 店長が答える。店長も助手も人と会うのは一週間ぶりだ。


「君たちは……」


「旅の者です。あたしのことは店長って呼んでください。で、こっちの女の子は助手ちゃんです」


「助手でーす」


 助手は陽気に言った。


「店長さんに助手さん……、ね。変わった呼び名だけど、名前を名乗らない理由でもあるの?」


「ヒミツです」


 店長は人差し指を口元に当てながら答える。男は肩をすくめて、


「秘密か……それなら仕方ないね。あっ、僕は吉岡です。吉岡純。よろしくね」


 そう言って吉岡は店長と助手の二人と握手を交わした。


「それで、ちょっとお聞きしたいんですが……。この近くに人の集まっている場所があったりしないですか?まさか吉岡さん一人でこれ全部育てているワケではないでしょう」


 店長はそう言って辺りの畑を見回した。吉岡は笑って


「はは、いくら機械化してるって言ってもこれを一人じゃ厳しいかな。十人でもまだ無理かもね」


「ってことは、やっぱり人がいるんですか!?」


 助手が元気よく尋ねる。吉岡がその勢いに驚いていると、店長が吉岡に目で合図を送ってきた。


 すいません、まだ子どもなもんで――


 いえいえ、元気があっていいじゃないですか――


「吉岡さん!」


 助手が返事をせかす。


「あぁ、いるよ。七十人くらいかな。ここからじゃ見えないけど向こうの林の裏に村があってね。みんなそこで暮らしているよ。僕はこれから帰るところだったんだけど……」


「あたしたちもそちらへお邪魔してもかまわないですか」


「もちろん構わないよ。村の人も歓迎すると思うしね。あぁ、それと、ちょっとお願いしたいんだけど……」


「?]



——「その車に乗せてもらえるかな。ちょっと疲れちゃって」


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