(2)
申し訳ないほど短いです。
さっきまで隣に居て、笑い合っていた湊が力なく膝をつく。
湊の元へと駆け寄ると、男は千代にナイフを突きつけた。千代の足はまた固まった。しかし、意識は常に湊にあった。湊の体からは、止まらず血が出ていた。
「お前、元の世界への戻り方を教えろッ!」
男の手が震えていた。千代は口も開けなかった。
「……てめぇ」
湊は、顔をしかめながらも再び男の方を向いて立ち上がった。
「…更に黒が嫌いになるじゃねぇか」
痛くて苦しいはずなのに、湊の整った顔は、うっすらと笑みをはいていた。そして千代にささやく。
「逃げろ千代。大丈夫、これくらいじゃ俺は死なない。」
脂汗が珠を結んで湊のこめかみから頬へ、そして顎へと滑り落ちる。
「逃げろ!」
湊の一喝に千代は我に返って駆け出した。振り返ると湊は男と対峙していた。足止めをしてくれているのだと悟った瞬間に、涙が溢れてきた。千代は乱暴にそれをぬぐう。
湊くんは死なない。そう言った。死なない。湊は死なない。
そう自分に言い聞かせながら走った。
どれくらい走っただろうか。明るい道に出た。大通りだろうか…助けを呼ばないと…。
ふらふらと息を切らしている千代は、今にも崩れ落ちそうだった。最早、気力だけで歩いているようなものだった。
「君っ!?」
男の人が倒れかかった千代を抱き止めた。
「大丈夫か?おい!」
黒い髪、きつめな印象を受ける目は千代を何故か安心させた。
「湊…くんを助け…て…橋で…」
男は訝しげな顔をして千代を見返した。何かを探るような目で…。
その何かが分からない内に、千代の意識は暗い底へと落ちていったのだった。
夢の中で、また誰かが言っていた。
彼らは、待っているのだと。
存在意義が欲しいのだと。
『携帯彼氏』を読んで頂きありがとうございます。
もう湊が何者なのかわかった方も多いと思います。
これからの展開を楽しんでいただけたら幸いです。